第5話:5年後、魔力属性の鑑定
「はぁ~、頭痛い……」
「母様?大丈夫?」
朝早く、頭を抱えた母を見かけたアレクサンドラは心配して声をかけた。
「サンディは気にしなくていいわよ。こっちの話だから。それよりも今日は鑑定と精霊契約がある日なんだから、おめかししてきなさい」
「はーい!」
この5年でアレクサンドラはとても可愛らしく成長した。くりっとした銀色の目にスッと伸びた鼻筋、背中の半分くらいまで伸びた綺麗な銀髪、将来は美人になること間違いなしの外見をしている。今日は魔力属性の鑑定と精霊契約が行われる日だ。領都内にある教会で行われる。リッター公爵家の派閥に属する下級貴族も多くくるため、今日は特に気合を入れておめかしされる。
「アレクサンドラ様、こちらに」
「うん、よろしく!」
メイドにより可愛いドレスを着せられ、顔には軽いメイクも施された。元々可愛かったアレクサンドラであるが、おめかししたことでその可愛さは天元突破してメイドたちを悩殺した。
「い、以上です。どうでしょう?」
「うん!いいと思う!」
(我ながら超可愛いな。何じゃこの可愛さは。いや本当に可愛いぞい)
メイドの声は震え、当の本人もまた表には出さずとも自身の可愛さに見惚れていた。
「まぁサンディ!いつも可愛いけど今日はとっても可愛いわね!最高よ!」
「ありがとうございます。母様も相変わらず美人ですよ!」
「まぁ!ありがとうサンディ。ねぇ聞いた!?私美人なんだって!この子ったらタラシの才能もあるのねやだわぁ」
娘に褒められ身体をくねくねするブルーメ。彼女が美人なのは間違いないのだが、親バカを発揮しているせいでアホの子に見えてしまっている。普段は仕事の出来る女性といった雰囲気を出しているので、同室した使用人たちはそのギャップで風邪をひきそうになっていた。
「主様、馬車の用意が出来ました」
「ありがとうセバス。サンディ、いくわよ」
「はい!母様!」
当主が親バカを発揮している中に執事が割り込み。移動の準備できたと報告したことで、ブルーメは仕事モードに入りいつもの状態に戻った。使用人たちが風邪をひくことはなかったようだ。
二人は手を繋いで屋敷の門前に置かれた馬車に乗り込んだ。
「うっ、うぅ……気持ち悪いです」
「あらあら、相変わらず馬車は苦手なのねぇ。膝貸してあげるから着くまで横になってていいわよ」
「ありがとうございます、母様」
馬車が動き出して直ぐに酔ったアレクサンドラは、ブルーメの膝に頭を乗せて横になった。赤子の頃から馬車に弱かったアレクサンドラは、5歳になっても弱いままであった。
「ところでセバス、龍の眼について何か進展はあったかしら?」
「いいえ、それについてはまだ何も」
「はぁ~、ここまで何も出てこないなんてねぇ。何かヒントくらい出てくるものと思ってたのだけど」
(やっ、やばい。これ本当にヤバイ。どうしよう。5年も見つからないなんて考えてなかったぞい)
アレクサンドラが横になりうとうとし始めたころ、ふと龍の眼について思い出したブルーメがセバスに進捗を聞いた。そしてそれを耳にしたアレクサンドラは瞬く間に目が覚めた。前世の話とはいえ、自分の残した遺言が間違っていたなどとバレたらどうなるか分かったものではない。先ほどの吐き気はどこへやら。アレクサンドラの内心は緊張でドキドキであった。
「まさかとは思うけど遺言が間違えてたなんてことはないかしら?」
「先代はちょっと抜けてるところがありましたので、ありえないと言えないのが悲しいところではありますが……。とはいえ、死ぬ間際の言葉ですので、まともな思考が出来ていたかどうかも怪しいのではと」
(確かに儂は抜けているところはあったけど!あったけども!でもこの遺言は間違いとか気のせいとかそういうのじゃないんじゃよ!あー!儂が直接言えればこんなことにはならんかったのに!)
彼女もある程度話せるようになり、龍の眼についてまだ見つかってないことがわかってからは、どうにか伝えようとはしていた。もちろん直接言っても気持ち悪がられるだけなので、何かの時に子供っぽく『これなに?』って聞いていい感じに誘導するつもりだったのだ。例えば書庫にある本を読んで龍の眼に関することがあれば、『これなに?』って聞いて誘導することも出来ただろう。それか現地に直接赴いて『なんかあったよー!』って聞くことも出来ただろう。だが、残念ながらそのどちらもかなわなかった。
前者はそれらしい記録すら残っておらず、後者については場所が領内にある湖の底にあり、子供の足で気軽に移動出来る用な場所にはないため実行できなかった。それ故に、5年もの間見つからないという事態に陥ってしまったのだ。
(じゃが!今日は属性鑑定と同時に精霊契約がある。その際に精霊に『契約のためにこっちに来て』と言われたと言えば上手いこと誘導できるじゃろう。ふふふ、我ながらいい作戦を思いついたものじゃ)
精霊との契約では、人が精霊を呼び、精霊がそれに応えて契約するというのが殆ど。確かにアレクサンドラが考えるように、精霊から呼ばれるということもあるにはあるが、数百年に一度あるかないかの話なので信じてもらえるかどうかは別の話だ。ただまぁ、ブルーメの親バカっぷりを見るに信じてくれそうではあるので、割と勝算があるのかもしれない。
「ようこそおいでくださいました。さぁ、どうぞこちらへ」
そうこうしているうちに教会に着いた。ここは全ての精霊を信仰する精霊信教の教会で世界で一番浸透している宗教である。
教会にはリッター家以外の貴族が到着しており、リッター家は最後に礼拝堂へ入っていく。アレクサンドラの貴族社会でのお披露目は実質初めてであり、多くの人が彼女の可愛さに見惚れていた。
「皆様、本日はお忙しいところようこそお越しくださいました。本日は鑑定の儀、及び精霊契約の儀の二つを行います。早速ですが、まずは鑑定の儀から始めさせていただきます。鑑定の儀、及び精霊契約の儀は大司教である私、キュリオス・ウディゴが務めさせていただきます。シュティ・リヒット様、前へどうぞ」
「はい!」
そして始まった鑑定の儀。まずはこの場で最も爵位の低い男爵家の人間から儀式が行われていく。
「鑑定結果が出ました。シュティ・リヒット様の魔力属性は炎の8、氷の5でございます」
「母上!やりましたよ!」
その結果にその子は喜び、会場は色々な意味でざわめいた。属性が複数あること自体は珍しくない。しかしその後に続く数字が問題だ。この結果は炎と氷の二属性を持ち、炎の資質が8、氷の資質が5という意味になる。資質があるからといって魔法使いとして優秀かどうかは別の話だが、基本的にこの数字が大きいほどその魔力属性を使いこなせるという目安になっている。最大値は10とされるため、その中の8というのはかなりのもの。具体的には王族クラスだ。
この資質というのは遺伝しやすい。そのためかつての貴族たちはよりよい血を取り込もうとヤッケになっていった。その中で特に優秀な血を残して国の頂点にたった王族でも8は中々でない値なのだ。そう考えるとその子がいかに異質かわかるだろう。
「良かったですねリヒット殿。同じ派閥の子から優秀な血が産まれて私はとても嬉しいですわ。後でお祝いの品を送らせていただきますわね」
「はっ、はい。感謝いたします」
優秀な血が産まれたことはもちろん嬉しいが、その分他所に狙われるリスクも高くなる。ましてやリヒット家は田舎にある小さな農地を治める貴族。政治的にも軍事的にも力がないため、非常に狙われやすい。それを防ぐために、ブルーメはお祝いと称して彼女を守るための物を色々と送るつもりなのだ。
「こほん。えぇ、クライス・メディ様、前へどうぞ」
「はい」
ちょっとしたハプニングがあったが、その後は何事もなく粛々と儀式が進んでいった。
「アレクサンドラ・リッター様。どうぞこちらへ」
「はい!」
(さて、今世ではどんな属性が出ることやら。楽しみじゃのぉ)
そして最後にアレクサンドラの番となる。男だった前世では水の3だったため、女となった今世は属性が何になるのかワクワクしながら鑑定官の前に立った。
「か、鑑定結果が出ました。アレクサンドラ・リッター様の魔力属性は、剣の7・秘の4・魔の6・輪の3・美の2となります」
(おお?まさかの5つ持ちか!剣と魔は珍しくも偶にいるが、他の秘・輪・美は聞いたことがないのぉ。なんじゃろうなこれ)
その結果にアレクサンドラ当人を含めて会場は戸惑い、その後会場には拍手が上がった。属性とは魔力が持つ性質であるため、火や水などの自然以外の属性が出ることもあるにはある。例えば幼いころから剣に触れていれば剣属性が現れたり、本を沢山読んでいれば本属性というのが出たりする。
会場にいた人が戸惑ったのは秘・輪・美の3つの属性は未だかつて誰も聞いたことがない属性だからだ。魔力属性には様々な種類があるとはいえ、全く聞いたことない属性というのは滅多にない。それこそ数百年に一度あるかないかくらいかのレベルである。
そして拍手が上がった理由は、魔の6という属性を持っていたこと。この属性は歴史に名を残すような魔法使いが持っている属性とされ、この属性を持っているということは魔法使いとして大成することが確約されているというふうに認識される。これだけの属性を持っていれば多くの人間に狙われるのは間違いないだろう。
「母様!凄いのが一杯でました!」
「えぇ、おめでとうサンディ。でも鑑定結果がいいからって努力しなくていい訳ではないのよ。努力しなかったら何もできないもの。折角の資質なのに宝の持ち腐れだわ。そうならないよう、浮かれずに努力を続けなさないね」
「はい!母様!」
公の場である手前、ブルーメは自然に振る舞っていたが、内心では『うちの子ってやっぱ天才じゃない!最高!家に帰ったらお祝いしないと!パーティよパーティ!』という感じで相変わらずの親バカであった。というか若干顔に出ていたのだが、幸いにも他の貴族に情けない姿を見られることはなかった。
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