第4話:自分の葬式に出席します

「よく見なさいサンディ。この方が貴方の偉大な祖父であるアレクサンダー・リッターよ。あなたの名前もこの方から取ったものなの。だから立派に育ってね」


「あうー」


(ぬぅ……自分の亡骸を見ることになるとは何とも不思議よのう。いつも鏡でみていたはずの顔も何か違うものに見えるわい。本当に儂は生まれ変わったんじゃなぁ)


 戦後処理が終わった後、帝都にて今回の戦争で亡くなった貴族たちの葬式が行われ、まだ赤子であるアレクサンドラもその場に出席していた。かつての自分の亡骸を見たアレクサンドラは、改めて自分は死んでアレクサンドラとして生まれ変わったんだと強く自覚した。



「ブルーメよ。此度は残念であったな。帝国最強も寄る年波には勝てなかったようだな」


 そんな折、女王シュタルクがブルーメたちの元にやってきた。金色に輝く美しい髪に、同じく金色に輝く瞳。絶世の美女と謳われるその美貌。何も知らない人間でも、彼女こそ女王なんだと直感するような存在感を放っていた。


「これはシュタルク陛下。お久しぶりでございます。サンディ、あなたも挨拶しなさい」


「あうあう」


(相変わらず存在感のある女王じゃなぁ。しかし儂”帝国最強”なんて言われてたっけ?そんな記憶はないのじゃが?)


 アレクサンダーが自分がなんと呼ばれているのかを知らなかったのは、女性ばかりの貴族社会にアレクサンダーが馴染めなかったためだ。とはいえ、このことについては仕方ないというべきだろう。帝国初どころか大陸初といっても過言ではない男性当主。これに対してどう関わっていけばいいのか、周囲の人間も本人も探り探りの状態で、ちょっとした雑談すら『どうすればいいんだろう?』となるような状況だったのだから。


「ほう、賢い子だな。そうだ、我の息子を婿にやろう。どうだ?」


「恐れながら陛下、幾ら男児とはいえ王家の子の婿入りを適当に決めるのはいかがなものかと。それと私の娘はまだ1歳にも満ちません。せめて属性の鑑定と精霊契約を終えるまでは待っていただけると」


(そういえばあったのぉ、精霊との契約。前世では男児じゃからという理由で行わなかったが、今世は女に生まれたからあるのじゃな。確かあれを行うのは5歳じゃったか。属性鑑定と一緒に行うんじゃよな。ま、精霊との契約は誰でも出来るという訳じゃないようじゃし、あまり気追う必用はないじゃろう。ブルーメも契約しとらんしな)


「そうか、残念だ。気が変わったら教えてくれ。ところで夫のビットレイは連れてきてないのか?」


「えぇ、父が亡くなったことが悲しくて、表に出れないほど体調を崩してしまってますから」


(そういえばビットレイの姿を産まれてから一度も見てないのぉ。どうしたんじゃろうか?いてもいなくても大して変わることはないじゃろうが、儂の葬儀に来ないとはな。無礼な奴じゃ)


「そうか、なら仕方ないな。帝国最強が亡くなったのはとても悲しいことだ。彼にもしっかりと療養するよう伝えておくれ。もう少し話したいところだが次があるのでな。ではまた」


 そういって女王は慌ただしくブルーメの元を去っていった。


 女王との挨拶が終わった後、様々な貴族がブルーメたちの元にやってきて挨拶するというのが続いた。父が亡くなった悲しみで挨拶などする気分ではなかったが、貴族社会で生きていくにあたってはとても大事なことのため、ブルーメはそれを表に出さずに乗り切った。




「はぁ、疲れたわ。全く、ビットレイの奴は何処にいったのかしらね」


 葬儀が終わり、領地へ帰る途中の馬車でブルーメは愚痴をこぼした。葬儀の際は悲しみに暮れて体調を崩していると言ったが、それは真っ赤な嘘であり実際は行方不明なのである。とはいえ、男性が何かしらの事情で大事なイベントに出られないというのは貴族社会に限らずよく起こることなので、誰もあまり気にしていなかったりする。


「引き続き調査を進めておりますが、いまだ進展はなく。ただ一時期は書庫に籠っておられましたので、何かを調べてその結果を元に行動を起こしたのではと思われます」


「なるほどねぇ。書庫に何かあったかしら?あそこには魔導書が殆どで、男性である彼に役に立ちそうな本といえば各国の文献が少しあるくらいよね?大事な書類や本は執務室で厳重に管理してるし、何が目当てだったのかしら?」


「あとは歴代当主の日記も書庫にありますので、恐らくそれを見ていたのではと思われます」


「そう、まぁいいわ。引き続き調査よろしくね」




「あっ、あ”う”ー」


(よ……酔った。馬車の揺れはどうにかならんのか……うぇっ)


 ブルーメが夫のことについて話しているころ、アレクサンドラは乗り物酔いして吐いていた。馬に身体能力上昇の効果を持つ魔法をかけて領地まで飛ばしているため、馬車の揺れは酷いことになっていたのだ。一応アレクサンドラには身体保護の魔法がかけられているため、並大抵のことで怪我したり病気になったりはないが、残念ながら乗り物酔いに効果はなかったようだ。


(属性が確定したらいち早く乗り物酔いに効く魔法作ろうそうしよう。……うえぇぇ)



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