第2話:訃報

「父上……」


 アレクサンドラが産まれて少し経った雨が降るある日のこと。リッター家当主のブルーメは執務室から戦争に行った父、アレクサンダーの無事を祈っていた。


——コンコン


「主様、戦争に進展がありましたのでご連絡を」


「入りなさい」


 執務室の扉が鳴り、執事のセバスが入ってきて報告を行う。


「敵軍の指揮官、ダニエル・コマンダムを打ち取ったとのこと。しかし、ほぼ同タイミングで自軍の指揮官であるゲルト・シュタルク第三王子が打ち取られたため、両軍ともに敗走という結果になりました」


 つまり引き分けである。しかし一騎打ちをしたわけでもないのに、両軍の指揮官が同タイミングで打ち取られるという珍しい事態にブルーメは違和感を持ったが、それよりもまず報告をという事で先を促した。


「続きまして、戦争による被害についてですが、我らシュタルク帝国は総軍10万に対して死者1500、重軽傷者が3万。対してセイクリー聖王国については、また総軍10万に対して、死者2万、重軽傷者数5万となり、全体の被害者数を比べるとこちらの方が敵国に大ダメージを与えたことになります」


「随分と向こうさんは無理したようね。全体の7割を失うまで戦ったなんて。帝国としては予想外だったんじゃないかしら?」


「私もその場にはいなかったのでわかりませんが、この数字を見る限り、普通ならこちらの勝利に終わったはずです。ただ、報告によれば向こうの士気が異常なほどに高いなどで、死をも恐れない特攻を仕掛けてきたとのことです」


「特攻?なんでそんなことを?」


「噂では神託がくだったとか言われてますが、真偽は不明です」


「そう……。まぁいいわ。それで、この後はどうなるのかしら?」


「この後は停戦協定へと移り、そのまま終戦になると予想されます。ただし、先程言ったように今回の敵国の様子は何やら変だとのことで、引き続き警戒するようにとのことです」


「ふーん、といっても、ここはセイクリー聖王国とは正反対の場所にあるから、あまり関係ない気もするけどね。わかったわ。父上についてはどうかしら?」


 そこでセバスは口を閉じ、何やらいいずらそうにしている。もうこれだけでブルーメはある程度察したが、その先を促した。


「先代アレキサンダー・リッターは此度の戦争で亡くなりました」


「……そう。何か言葉を遺していたかしら?」


「『敵は内にあり、龍の眼に解はある』と」


「前半は工作員についてね。龍の眼……、聞いたことないわね」


 不思議な遺言について考えるブルーメであったが、その眼からは涙がこぼれていた。


「ダメね。今は考えが纏まらないわ。少し一人にして頂戴」


「かしこまりました」

 

 セバスが部屋から去った後、執務室の中にブルーメの泣き声が響く。外の雨はより強まり、まるでブルーメの心情を表しているかのようだった。





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