第4話 初戦闘?

「こやつは、森の主の座をワシと争っていたキングボアじゃ。あまり利口ではないから、この森にふさわしくないのじゃが」


 たしかに、知性は低そうだ。何事も、暴力で解決しそうなタイプだな。


「しかし、森の結界を張れそうなやつは、こやつくらいしかおらぬ。どうしたものか」


「話だけでも、聞いてみよう」


 よだれを垂らしているキングボアに、パロンは近づいてみた。


 イノシシはパロンに鼻を近づけて、会話をしているみたい。


「なんて言っているの?」


「コーキ、キミを食べさせろだって」


 ロクでもない会話だった。


「ここから美味しい匂いがするから、たどってみたらキミから溢れてきているって。かじらせてくれって」


 つまりボクが無限に果実を生産できるから、一生無限に食べたいってわけか。


「まったく、食い意地の張ったやつじゃ。やはり森は任せられぬ。ワシが留守番をするしかなかろうな。しかし、二日酔い止めの薬草茶を毎日飲めぬのは、しのびない」


 腕を組みながら、賢人クコが考え込んでしまう。


「パロン。食べられるなら食べてみろって、伝えて」


「戦うの?」


「ボクがどれだけなのか、見てみたい」


 ゴーレムだから、戦闘スキルくらいはあると思うだけど。冒険者になるんだ。多少は力をつけておかないと。


「ボクが勝ったら、食べるのはあきらめてほしい。でも負けたら、ボクはおとなしくかじられるよ」


「本気で言ってる?」


「ボクは本気だよ」


 こんな試練も乗り越えられないなら、冒険に出る意味がない。


「キミはヒーラーだから、戦闘には向かないよ?」


「彼のために、できることはあると思うんだ」


「武器は必要?」


「いらない。自分の力だけで、何とかするよ」


 武器を振り回したところで、自分の身体より頑丈なのはなさそうだ。

 パロンが伝えたメッセージを聞いて、キングボアが吠える。そりゃあ怒るよね。


「ボクが相手だ。かかってこいキングボア!」


 イノシシの身体が、さらに膨れ上がった。これが、戦闘モードか。


「よしこい!」


 突進してきたイノシシに対し、ボクはがっぷり四つで迎え撃つ。


「ムチャだよ、コーキ!」


 でも、やるしかない。それが、腕試しってもんでしょ?


「ぐううう!」


 お腹にきつい一撃をもらいつつ、イノシシを抑え込む。


「ブモ!?」


 キングボアの動きが鈍った。

 ボクが、大量のツタで縛り付けたのだ。ボクの方は足の裏に根を張って、踏ん張る。

 しかも、そのツタに大量のブドウを実らせてみた。


「ブモブモ!?」


 ブドウの芳醇な香りにつられて、夢中になってブドウを食らう。


「ンブモォ……」


 イノシシが、横へぶっ倒れる。グウグウとイビキをかきながら、眠ってしまった。


「なにをしたんだい?」


「お酒を飲ませたんだ」


 体内で酵母を活性化させて、イノシシがかじっているブドウに混ぜてみた。


「ワインを生成した、ってこと?」


「ボクの世界には、口内細菌でお酒を作る【口噛み酒】ってのがあってね」


 米や芋を唾液で発行させるお酒があると、聞いたことがある。

 その口噛み酒を、ボクはイノシシに自分で作らせたんだ。ボクの場合、魔力で高速熟成させたんだけど。


「まあ、こんな大技、一回限りみたい」


 ボクはヒザを折り曲げる。


「こんな大きなイノシシだ。眠らせるためのお酒は、かなりの量だよ」


 それを大量に、素早く作った。体力がもう続かない。


「キングボアも、キミをあきらめるってさ」


「よかった」


 地面で寝っ転がった。


 ボク自身が背中越しに、土の養分を大量に吸収し始める。


「ツタも再生を始めたね」


 イノシシに引きちぎられたツタが、伸び始めた。


「待って。いいことを考えた。ボクの身体って、切り取ったりできる?」


「やろうと思えば、可能だけど?」


 地面と繋がってさえいれば、ボクの肉体は切られても再生するという。

 腕から枝を、さらに伸ばす。


「ブドウの木だけ、彼に分けてあげよう」


「いいの?」


「気に入ってもらえたみたいだからね」


 キングボアがお腹をすかせて、他の動物に危害を加えたら大変だ。

 だったら、ストレスはないほうがいい。

 自分の顔を食べさせるヒーローだっているんだ。ボクはそれと同じことをするまで。


 ボキっと、自分から生えてきた枝をへし折る。痛いかなと思ったけど、ボクには痛覚がないみたい。


「これでいいかな」


 適当な木に、折った枝をつなげる。接ぎ木というやつだ。本来はおいしい果実の品種と病気に強い品種をつなぎ合わせる作業なんだけど。


「これで、この木にブドウが実るはずだ」


 他の木にも、同様の処置を施す。

 桃や栗、柑橘系も作る。

 枝からネを生やすことも考えたけど、時間がかかりそうだったから接ぎ木にした。


「これでよし。あとは実が落ちるのを待ってもらえれば」


「キングボアも、納得したみたいだね」


 まだ眠っているキングボアに、あいさつをして別れを告げる。

 パロンが、不思議そうな顔をしてボクを見た。


「どうしたの?」


「キミってすごいね。手加減をして相手を倒しただけじゃない。敵にも救済を施すなんて」


「いやいや。ボクは人にケガをさせたくないだけだよ」


「でもさ、ますます警戒が必要になってきたね。キミは優しいから、悪い人に利用されないようにしないと」


 パロンだけじゃなく、賢人クコもボクの肩の上でうなずく。


「うむ。酒を造れるなら、ワシなら一生飼い殺すぞな」


 物騒な言い方だなあ。


「ほら、あれがワタシたちの街だよ」

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