第5話 冒険者登録
この街は、ミノクス地方の『ツリーイェン』だと教わった。
「ここからちょっと歩くと、ツリーイェンの門だよ」
さっきまでボクたちがいた森は、シドの森だという。
「どんな街?」
「とにかく、賑やかだね。ワインの名産地だから、お酒や屋台が多いよ」
「ボクの作るお酒より、おいしいのかな?」
「コーキの作るワインは、独特の味だよね。さっぱりしていて甘くて。コーキの性格を表した、優しい味だよ」
パロンは、ボクの身体から作ったワインをおいしいという。
「うむ。パロンのいうとおりじゃのう。あの味は、唯一無二じゃ。ぜひとも量産してもらいたい」
「あんたは、作ったら即日で飲み干しちゃうじゃん」
「むむむ……」
ミノクス領、ツリーイェンという街に到着した。
木製の家や店が立ち並ぶ、緑の香りがかぐわしい街である。
果樹園が近くにあり、お酒の生成が盛んな土地のようだ。
ブドウなどを植えてきて、よかったかも? 森に植樹しておけば、ボア族やクマに果樹園を荒らされたりしないよね。日本だって、果物がなる広葉樹を植えてクマから街や畑を守っているっていうし。
「まいど」と、やる気のなさそうなメイドさんが受け答えする。
「この用紙に、必要事項を書きな。あとはこっちで適当に処理するから」
ぶっきらぼうだが、教え方は親切丁寧だ。
「顔の写真とかはいりますか?」
「血液だけをちょうだい。あとはこっちでやるから」
うーん、血液かぁ。
「パロン、ボクって血って出るのかな?」
ウッドゴーレムだよ、ボク?
「樹液なら出るじゃん。それを垂らせば血とみなされるよ。なんでもいいんだ」
「アバウトだなあ」
「冒険者なんて、そんなもんだよ」
犯罪に手を染めさえしなければ、冒険者はとくに咎められないという。クエストを達成してもらえば、税金も払わなくていいというし。
「そうなんだ」
「クエストの報酬はどれも、キミたちの世界でいう『源泉徴収済み』なんだ」
なるほど。クエストをこなせば自然と納税していると。
だから、クエストをしないと普通に働いて税金を収めなければならない。
冒険者登録は、とどこおりなく終わった。
パロンの指導で、サインも冒険者カード受領も問題なし。ドッグタグなんだね。特殊な製法で金属を加工するみたい。
タグに付いた星の数で、冒険者のランクが決まるみたいだ。クエストをこなすと、星も増えていくみたい。
「星を増やすと、受けられるクエストも増えるぞ」
クエストの内容が書いてある張り紙も、星ごとにボードで分けてある。ボードの前には大量の冒険者が立っていた。星の数が多いボードほど、強そうな人が集まっている。
「ありがとうございます」
この世界は、レベルがあるらしい。レベルが上がると、ステータスもアップして強くなっていく。割り振りは、自分でやるという。
「どうやって確認するんです?」
なんか小説とかアニメだと、「ステータス、オープン」とかやってるけど。
「ドッグタグの裏側を、触ってみな」
「はい。ゴシゴシと。おお」
今や「ステータスオープン」とかって、誰でもできるんだね。異世界人だけの特権じゃないんだ。
ボクのレベルは一三だな。
「まだ序盤も序盤、駆け出しってところかな」
他の冒険者たちが、ざわついている。
「あのね、コーキ、レベル一〇を超えた冒険者って、この世界だと中堅くらいだからね」
「そうなんだ」
古いゲームだと、そうらしいね。
「パロンはどれくらいなの?」
「わたしで、レベル二二ほどかな?」
ちなみに、クコでもレベル二三ほどらしい。
異世界転生者というと、冒険者ギルドで主人公がよく絡まれると聞く。そんなトラブルを避けられたのは、パロンとクコがいるからかもね。
どうしてこんなに強くなったんだろ?
「おそらく、キングボアを眠らせたからぞな」
あれって、倒した扱いになるんだね。
「コーキ。ジョブは、どうしようか?」
この世界には、『ジョブ』というシステムがある。ジョブを選ぶと、その職業に沿った恩恵を受けられる。
「パロンのジョブって?」
「わたしは『アルケミスト』だよ」
本来パロンは、『ウィッチ』という魔女を表す職業になるはずだった。が、素質がなくて錬金術を操るジョブにしたらしい。それでも、エルフ族の魔女からは一目置かれている。
「ワシはドルイドじゃな」
ドルイドとは、宗教的な『祭司』を指す言葉だ。この世界のドルイドは、自然界を統率する存在だという。
「えっとね。『シャーマン』ってのにするよ」
シャーマンはドルイドと同じく、自然界の加護を受けられるジョブらしい。だが、攻撃・政治活動系のドルイドとは違って、シャーマンはヒーラー・壁役寄りだ。成長すると、回復や攻撃に使えるトーテムが使える。また、動物たちを引き連れられる「ペットビルド」を組めるという。仲間が増えるのはいいね。
ステータスは回復系に振る。ボクが自分を治すというより、仲間を治すビルドを目指す。
「そうだ。南西のアプレンテス荒野にだけは行くなよ」
ギルドの受付さんが、地図で灰色になっている土地を指差した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます