第2話 落ちこぼれハーフエルフ 錬金術師パロン

 姿見の前で、軽くポーズを取ってみる。やはり、人間の頃と遜色はないようだ。顔は丸と四角で構成されているが。


「痛むところはあるかい?」


「別に。ただ、細かい微調整は欲しいかな?」


 関節の一部が、硬い。


 そう思っていると、関節が徐々に削れていった。自分の最適な形へと変化する。理想通りに。


「キミすごいね! さすが、世界樹の枝で作っただけはあるよ!」


「世界樹? 枝?」


「実はね、キミはウッドゴーレムだよ。ワタシが作ったのさ」


 魔法学校の卒業記念に学長から、世界樹の枝を贈呈されたという。


「多分学長は、魔法が使えないワタシに、術式用の触媒として渡したんだろうけど」


「魔法が、使えない?」


「ワタシはハーフエルフだ」


 人間の女性と、ハイエルフの男性との間に生まれたという。


「ハイエルフは魔法を得意とする一族なんだけど、ワタシは魔法がからっきしダメで。母が人間だったからかもしれない。でもさ、母親の血を引き継いだんだって言われたら、怒るよ。ワタシを大事に育ててくれたからね」


 魔法学校の間でも、劣等生中の劣等生だったらしい。


「マジックアイテムに魔力を込めて、ようやく魔法が使える程度なんだ。それでも努力して、ほかの生徒より成績はよかったんだ」


 でも、アイテムのおかげだロって言われる始末で、認められなかった。


「不憫に思った学長は、親身になって指導してくださった。だから、腐らずにやってこられたよ。それが五〇年前」


「五〇年前?」


 どうみても、一〇代後半にしか見えないが。


「パロン、君っていくつなの?」


「一二〇歳くらいかな?」


 おお。気が遠くなる。


「卒業後の生活を、ゴーレム開発にあててさ。気がついたら、母の寿命を超えちゃってた」


 お葬式には間に合ったが、大きな成果は出せなかったという。


「キミを母に、見せてあげたかったよ。人間の意志を持つゴーレムなんて、激レアどころか世界初だからね。あなたの娘はこういうのを作れるほど立派になりました、って言ってあげたい」


 笑顔ではあるが、パロンの表情は少しさみしげだ。


「五〇年間、ずっとゴーレムの開発をしていたの?」


「そうなんだ。普通に動くだけのゴーレムなら、大量に開発したけどね」


 自分の性能を活かし、ゴーレムを作って販売する仕事をしていたらしい。


 すごいな。造形がモロにプラモじゃん。作業用ロボットみたいな形ばかりなのは、実用性重視なんだろうな。パロンはゴーレムに、武器も持たせていない。割と、平和な世界なのだろう。


「でも、もっと多機能なゴーレムが作りたいって思ってさ、改良に改良を重ねたんだ。で、旅先で珍しい魔法石を手に入れて、キミにはめ込んでみたんだ。そしたら、言葉を話すじゃないか。他人と話すのは慣れているが、人外、それも自分の創造物と話せるなんて、奇跡だよ!」


 オタク独特の早口で、パロンがまくしたてた。


「ごめん。自分ばっかり話しちゃって。退屈しただろ?」


「全然。ボクはもっと、この世界を知りたい。色々教えてよ」


「じゃあ、外に出ようか」


 パロンがボクの手を引いて、外に連れ出した。


 太陽が、眩しい。


「おっ? おおお!?」


 なんか、身体がムズムズしてきたぞ!


「どうしたの、コーキ?」


「え、腕から、ツタが生えてきたんだけど?」


「ホントだ。コーキから、リンゴが実っているじゃないか!」


 自分の身体から、リンゴが生えてきたんだが?


「食べてみてもいい?」


「いいよ」


 ウッドゴーレムとはいえ、人の腕から生えてきたリンゴを、パロンはなんのためらいもなくもぎ取った。


「うん、うまい! 朝ごはんにちょうどいいね」


 パロンから差し出されたので、ボクも食べてみる。


「たしかに甘みの中に酸味があって、クセになる味だねえ」


「でしょ? もっと自画自賛しても、いいんじゃないかな?」


 体臭とかついていないかなって思ったけど、まったく気にならない。正真正銘、リンゴそのものだ。


「これ、ジャムにしたらめちゃ売れそう」


「でもさ、どうして、こんなことに?」


「太陽の光を浴びたからかな? それか、大地に直接触れたから、世界樹の影響を受けたのかも」


「世界樹って、ここからそんなに近いの?」


「違うよ。世界樹は、ありとあらゆる土地にコネクトできるんだ。コーキ、キミは世界樹の枝でできている。だから、直接交信できるんじゃないかな?」


 すごいな。ネットじゃん。


「でもさ、すごいのはパロンだね。ボクに命をくれたから」


「コーキが特別なんだよ。ワタシだけじゃ、こうはいかなかった」


「ではボクは、キミがすごいって証明する」


 ボクの身体を使って、パロンが一人前だってみんなに知ってもらおう。


「いいの?」


「旅の目的が、できるでしょ?」


「そうだね。ゴーレムづくりも第二段階に移行したいし。旅に出よう」


 部屋に戻ったパロンが、クローゼットから赤茶色のロングコートを出して羽織る。翡翠色の瞳とマッチしていて美しい。


「行こうか、コーキ。キミ自身はさ、やりたいことってある?」


「やりたいコトだらけだよ。この世界を歩くだけで楽しいし、満喫できたらいいなぁ」


 小屋から出てしばらく歩いていると、一匹の白いリスが頭を抱えながら倒れていた。リスと言っても、ネコくらい大きい。


「賢人クコ! どうしてこんなところに?」


「パロン、賢人って?」


「彼は、森の賢人クコ。この森で一番えらい存在だよ。こう見えて、グラスランナーとの混血獣人なんだよ」


 人間の血が混じっている、リスか。


 しかし、当の賢人は頭を抱えてうめいている。


「賢人クコ、どうしたの?」


「いやあ、二日酔いで」


 白いリスの見た目に似合わず、賢人は渋めのオッサン声だった。

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