第15話『邂逅』

 山岸究は妻の綾香の待つ自宅へと帰った。好奇心を抑えられずにあるお土産を買ってしまった。


 「あなた、おかえり」

 「ただいま」

 「捜査の方はどうだったの?」

 「手がかり無しだ」

 「その袋は?」

 「あぁ、ちょっとな」

 「なに、お土産?」

 「そんなとこだ」

 「見せてよ。あら、何かと思えばブレインBシェアSリングRじゃないの。もしかして、これも捜査の一貫って訳?」

 「察しが良いな。と言っても、完全に個人的な興味だ。連続多発暴力事件の犯人たちが見ている世界を見てみたくなった」

 「そうやってあなたはいつも仕事とプライベートがごっちゃになるんだから」

 「いつも家庭に仕事を持ち込んで悪いと思ってる」

 「今に始まったことじゃないわ。もう慣れた(笑)」

 「そうか」

 「で、これを着けるとどうなるの?」

 「犯人達が言うには通りすがりの知らない人から『この世界の真実を知りたくないか?』って話しかけられるらしい」

 「またまた~(笑)。犯人達の思い違いじゃないの?」

 「俺もそう思いたくなってきた」

 「どれどれ。じゃあ私が着けたらどうなるかしら?あなたも着けてみなさいよ」

 「どうせ何も起こらんさ」


 「やぁ、君と話すのは初めてかな?」


 妻の喋り声じゃない。明らかに低い。男の声だ。


 「お前は誰だ」

 「誰だって良いじゃないか」

 「良くない。俺の妻に何をした?」

 「別に何も。ただ、ちょっと話すのに借りてるだけさ」

 「どうやって妻を乗っ取った?」

 「僕はただPPineal gland-BMIとBSRの裏コードをちょちょっといじっただけさ。みんな無防備だよねぇ。僕みたいなハッカーにかかればこんな風に90億の人間全てにハッキング出来ちゃうんだなぁ」

 「目的は何だ?」

 「目的?山岸さんなら分かるでしょ?『この世界の真実を知りたくないか?』だよ」

 「何が真実なんだ?」

 「そんなもの、すぐに答えちゃつまんないじゃない?」

 「俺に見つけろと言うのか?真実を」

 「そうそう!その意気だよ。やっぱり君に声をかけたのは正解だったな」

 「そうやってお前は無数の人間をスカウトしてきたのか」

 「スカウト、そうだねぇ。賢いやつを探してたってとこかな?」

 「今に見てろ。必ず見つけ出してぶん殴ってやるからな」

 「おーこわ!出来るもんならやってみな」


 「あなた?どうしたの?怖い顔して」

 「あ、あぁ。ちょっと考え事してた」

 「ほら、やっぱり何も起きなかったでしょ?」

 「そ、そうだな」

 「もう外して良い?」

 「い、いや!もう少しだけ着けておいてくれないか?」

 「そう?別に良いけど」


 こうして、山岸究は謎のハッカーとの邂逅を果たした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る