第14話『ビヨンド・ブレイン社』

 ビヨンドBブレインB社の日本法人は六本木の高層ビルの中層階に位置し、最高な眺望を誇っている。先程のアストラル社の応接室も素晴らしかったが、こちらは眺めがとにかく素晴らしい。待っていると代表取締役社長のマーク・クロフォード氏が直接会ってくれるとのことだった。


 「山岸さん、お待たせ致しました。代表取締役社長のマーク・クロフォードです」

 「流暢な日本語ですね。今回は突然の訪問で申し訳ありません。お時間を作って頂いてありがとうございます」

 「いえいえ、日本の警察の頼みとあれば喜んで」

 「それではいきなり本題に入りたいのですが、クロフォードさんは今回の連続多発暴力事件をご存知ですか?」

 「えぇ、知っていますよ」

 「その犯人が全員ブレインBシェアSリングRを身に付けていたのはご存知ですか?」

 「いいえ、初めて聞きました。アストラル社のペアリングの事ですか?」

 「そうです」

 「それと弊社に何の関係が?」

 「今回の連続多発暴力事件の犯人は皆、通りすがりの通行人に『この世界の真実を知りたくないか?』という同じ文言を喋りかけられたと証言しています。当初、私はBSRが幻覚や幻聴を引き起こす副作用があるのではと思いアストラル社へ聞き取りに行ってきました。そうしたら、BSRにはそういった副作用は無いと言われまして。次の可能性として、BB社のPPineal gland-BMIの副作用を疑った訳です」

 「山岸さんは弊社のP-BMIが何年使用されてきたか分かりますか?」

 「2026年にP-BMIが実用化された訳ですから、もう25年ですか」

 「そう、四半世紀です。その間、一切の副作用は報告されていませんよ」

 「そうですか。サミュエル・ウィリアムズ名誉教授が指摘したガイアの自殺防止機構の抜け穴がきっかけで連続多発自殺事件が発生しましたが、それについてはどうお考えですか?」

 「非常に残念です。教授とは長年に渡り良好な関係を築いてきましたが、まさかあんなことを裏で計画していたとは…我々も予想外でしたよ。早急に社内で対策会議を開き、P-BMIが脳に電気信号を流す仕様を他殺の防止に限定することとしました。もちろん自殺を試みる方達を救いたい思いはありましたが、P-BMIを殺人の道具にする訳にはいきませんので苦渋の決断でした」

 「BB社は教授の研究を手伝っていたのでは無いのですか?」

 「いいえ、あの研究は恐らく教授が一人で密かに行っていたものでしょう。我々に何の報告もありませんでしたよ」

 「なるほど。先ほどP-BMIに幻覚や幻聴と行った副作用の報告は無かったと言われましたが、例えば特定の人物のP-BMIにハッキングを仕掛けて幻覚や幻聴を見せたり聞かせたりすることは可能ですか?」

 「ワンネスOブレインBネットワークN上のP-BMIは全て我々の誇る暗号化技術によって外部からアクセス出来ない仕様となっています。ハッキングすることは不可能でしょうな」

 「不可能ですか…分かりました。すいません、色々とお答えしにくい質問をしてしまって。率直にお答え頂きありがとうございました」

 「いえいえ、私達も自慢のP-BMIにあらぬ疑いがかけられるのは心が痛いですから、山岸さんの疑問が解けたなら何よりです」


 BB社のクロフォード氏も嘘を言っているようには思えない。とりあえず一度署に戻って仕切り直しだ。

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