第12話『連続多発暴行事件』

 刑事の山岸究は暴行事件現場に向かっていた。といっても、ガイアによって暴行を試みた犯人の脳にはPPineal gland-BMIを通して電気信号が流れ、犯人は既に気絶しているので、やることと言ったら犯行現場で気絶した犯人を逮捕するだけなのだが。サミュエル・ウィリアムズ名誉教授の動画に端を発する連続多発自殺事件が一段落したと思ったら、今度は連続多発暴行事件だ。この世界に一体何が起こっているんだ…。


 「犯人はここで倒れているこの男ですか?」

 「そうです!いきなり騒ぎ出して殴りかかって来たんです!」

 「この男に何か喋りかけましたか?」

 「いえ、何も。ただ、この人の隣を通り過ぎようとしたらいきなりこちらを振り向いて騒ぎ出したんです。確か『俺に何の用だ!何が望みなんだ!』とか言っていたような」

 「またか」

 「また?」

 「いえ、こちらの話です。どうもありがとうございました」

 「ほんと怖い世の中になりましたよね。何もしてないのにいきなり襲われるなんて。警察も何か対策して下さいね!」

 「善処します」


 犯人の阿部陵はサラリーマンで生活態度に何の問題も無く、周囲の人間の評判も良好なごく一般的な人間だった。


 「何であの女性に殴りかかった?」

 「あの女が悪いんだ!通りすがりで変なこと言ってくるから俺も熱くなって…」

 「何て言われたんだ?『この世界の真実を知りたくないか?』だろ?」

 「何でそれを知ってるんだ?」

 「お前の前にな、暴行事件を起こしたやつ全員が同じことを言われたって証言してるんだよ」

 「でも、ホントにあの女が言ってるのを聞いたんだぞ!」

 「それも、みんな同じこと言ってる。幻覚や幻聴では決して無かったって」

 「俺は悪くないよな?」

 「さぁな、暴行試行罪にはなるだろうな」

 「最悪だ…」


 各国の警察機構には犯行の瞬間の犯人、また被害者のP-BMIに記録された視覚情報、聴覚情報にアクセスする権利が与えられている。今まで起きた暴行事件の情報は全て調査した。犯人の視界には被害者が自分に喋りかけている映像が残っているのに、被害者の視界には犯人がいきなり騒ぎ出して襲いかかってくる映像しか残っていない。一体どんなマジックを使っているんだ…。

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