第2章『世界危機編』
第10話『教授の遺言』
「速報です。
享年85歳、高齢になり普段自動車を運転することなど無かった教授が何故自動車を運転し事故死したのか?警察はまず教授の遺族に事情聴取を行った。
「生前の教授に何か変わったことはありませんでしたか?思い詰めているとか、自殺を考えているような素振りは無かったですか?」
「まさか、私のP-BMIを調べて貰えれば分かるわ。私にそんな事全く相談すらしていなかったわよ。まぁ、少しボーッっとしている時間が増えたとは思っていたけど、高齢だったから認知症の類だと思って放っていたわ。まさかこんな事になるなんて。もっと話を聞いてあげれば良かった…」
「そうですか、ありがとうございます」
教授が亡くなった日の翌日、1億
「今日は皆さんに重大な報告がございます。晩年、私は大学から身を退き、長年私を捉えて離さなかったテーマについて独自に調査を進めて来ました。それは、端的に言えば『輪廻転生は存在するか?』という問いです。昔から前世の記憶を話す少年の報告や、退行睡眠で前世のことを語り出す被験者の報告などは上がっておりました。ただ、それを証明する手段が今まで無かったため、これらの話はオカルトの類で学術的にまともに調査されたことなどありませんでした。私は長年の研究のおかげか幸運にも彼らの理解を得ることに成功し、彼らのP-BMIのデータを調べる許可を頂きました。
今回ここで報告させて頂くのはアーサー・テイラー君という男の子のケースです。まだ5歳の彼は夜になると自分の操縦する飛行機が墜落する夢を見るとのことでした。また、飛行機の模型が大好きで、特にアメリカ空軍のステルス攻撃機F-125の模型がお気に入りだと言うのです。私はこれらの状況から、確実にテイラー君は前世でF-125の飛行機事故により亡くなっていると考えました。
調べるとすぐにサンディ・ハミルトンというアメリカ空軍パイロットに行き着きました。彼は当時最新のステルス攻撃機F-125のテスト飛行中に事故で亡くなっていました。私はすぐにハミルトンの遺族と連絡を取り、テイラ―君と共に彼らの元を訪れました。するとどうでしょう?テイラ―君は遺族の家に既視感を覚え、何故か落ち着くと言い出したのです。そして、ハミルトンの両親を見るや、テイラ―君は自然と涙を流していたのです。テイラ―君の見た夢のデータはP-BMIを介してガイアにアーカイブとして残っており、それを見たハミルトンの両親も同様に涙を流しました。そこに映っていた映像には鏡を覗くハミルトン本人の姿がはっきりと映っていたからです。テイラ―君はこの出来事以来、ハミルトン家に足繁く通い、ハミルトンの両親に可愛がられています。
皆さん、これで分かったでしょう?確実に輪廻転生は存在するのです。サンディ・ハミルトンが事故死したのが2045年、アーサー・テイラー君が生まれたのが2046年ですから、どうやら亡くなって1年程で我々はまたこの世界に転生してくるようです。以前、脳のことをコンピュータの
という訳で、そろそろ締めの挨拶となりますが、85歳となった今の私はこの世に何の未練もありません。むしろ、一刻も早く次の世界に行きたくて体がウズウズしているのです。なので、皆さんより一足お先にこの世界にお別れすることとします。これは具体的なアドバイスですが、皆さん、自殺するなら必ず人の目に付かない場所でこっそり行って下さいね。ガイアは皆さんの視覚情報や聴覚情報から自殺の兆候を読み取り、脳に電気信号を送って皆さんを気絶させます。裏を返せば、ガイアは常に後追いで自殺を止めようとするということです。なので、一人でこっそり自殺を図れば良いのです。ガイアが皆さんを気絶させることを計算に入れて、自動車事故や高い場所からの飛び降り、服薬自殺などの方法を取ればガイアが自殺の兆候を読み取り皆さんを気絶させる行為が自殺幇助となるのです。しかし、ガイアはあくまでも弱いAIであり、”知性”や”意識”はありません。そんなAIに罪を問うことが出来ますか?出来ません。これで、皆さんは合法的に安楽死を迎え、生まれ変わった来世でまた人生をやり直すことが出来るのです。最高ではありませんか?皆さんがこの動画を見てどう判断するか、それは皆さんにお任せします。では皆さん、来世でお会いしましょう」
この動画が流れ、その日だけでおよそ1万人が教授の後追い自殺を図った。
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