第49話 5章・一年生・長期休暇編_049_対策

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 5章・一年生・長期休暇編_049_対策

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 初日はこちらを待ち伏せするように展開していた四部隊を壊滅させた。

 二百人、三百人、七百人、八百人の部隊をつぎつぎに壊滅させたから、合計で二千人を削れた。

 もっとも逃げ出した帝国兵もいるから、二千人全てを殺したり、無力化できたわけではない。それでも逃げた帝国兵はせいぜい二割くらいだと思われる。

 ここで千六百人を削れたのは大きい。これもオリビアちゃんが各個撃破を提案したからだね! オリビアちゃんは凄いね!


 残念ながら少数の部隊に分かれていた帝国軍は、各個撃破されていると気づいたようで集結して二千人規模の軍に再編されてしまった。

「もう少し削っておきたかったが、贅沢というものか。欲をかくと、手痛いしっぺ返しがあるものだ。しかし帝国にはよい将がいるようだな……」

 なかなか動きがいいと、デューク様は奥歯を噛んだ。僕からしたら、攻める時と攻めない時を弁えているデューク様のほうがよい将だと思うよ。


 現在はデューク様が指揮する二千人と、帝国軍二千人が対峙する構図になっている。

 アキロス砦を囲んでいるのは、四千ちょっと。その四千がこちらに襲いかかってきたら、結構ヤバいかな。でもアキロス砦の抵抗が激しく、こちらに戦力を裂けないでいる。でもこのままではアキロス砦も長くは耐えられないだろう。


「さて、父上の軍がやってくるのにまだ三日はかかる。が、今のままアキロス砦が攻められ続けたら、三日も耐えられないだろう」

 さすがに四千の兵に攻められ続けたら厳しいのは、僕でも分かる。


「そこで火竜剣を使うことにする」

 その言葉に騎士様たちが色めき立った。


「先陣は某に!」

「某に先陣を!」

「「「某に!」」」

 皆が争うように先陣をと言う。まるで戦場のように殺気立っていて、怖いんですが……。


 デューク様は地図を見つめた。敵味方の石が置かれ、その配置をじっと見ていた。

 敵は五部隊に分かれていて、アルファベットのTの字のような形に布陣している。部隊間の距離は適度に離れているけど、しっかりと連携が取れる位置だ。

 こちらは敵から二キロほど離れた場所に陣取っているけど、▲のような形の布陣になっている。


「敵の動きは」

 馬に乗ったデューク様は、僕を見下ろしながら質問した。


「大きな動きはありません」

 僕は簡潔に答えた。フウコの視界に映る五つの部隊は、昨日のままだ。


「ベリングス、サブローグ、デリウエア、ダルドマネスに伝令!」

 デューク様の前に伝令用の兵士さんたちが跪いた。


「騎馬突撃し火竜剣で攻撃したら離脱。その後敵の後方へと回り込んで攻撃せよ!」

「「「「はっ!」」」」

 四人の伝令さんたちがデューク様の命令を受けて、弾かれるように各担当の騎士様がいる場所へと向かった。


「我らは一撃目で混乱に陥った敵軍へ攻撃を仕かける」

 デューク様の作戦に誰も異論はなかった。オリビアちゃんの顔を見ると、やっと出番だという顔をしていた。無茶をしないか、とても不安だ……。


「ベリングス様、サブローグ様、デリウエア様、ダルドマネス様がそれぞれ二十騎を引き連れて突出しました」

 四人の騎士様たちは、それぞれ敵に一撃を与えるために騎馬隊を高速で進めている。

「接敵までおよそ七分です」

「敵の動きは?」

「まだありません」


 半分ほど進んだところで、敵部隊に動きが見えた。

「敵前衛三部隊に動きがあります。騎馬突撃に対応するようです」

 四騎士が迫り、それを受けるのか陣形を変えている。昨日の四部隊よりも動きがいいように、僕には見えた。


「あと一分ほどで接敵します」


「ベリングス様が剣を抜きました。他のお三方も剣を抜いていきます」


「あと二百メートルです」


 なんか静かだな。僕の中継に皆が耳を傾けているようだ。


「……百メートル……五十……三十……十………」


「ベリングス様が火竜剣を発動! 炎が敵部隊に迫ります!」


「続いてデリウエア様、ダルドマネス様、サブローグ様も火竜剣を発動!」


 僕はそれで帝国軍に大打撃を与え、混乱に陥れると思っていた。

 だけど火竜剣の炎が迫った敵部隊の前に魔力の障壁が築かれ、炎が止められてしまったんだ。


「どうした!? 敵はどうなった!?」

 呆然としていた僕に、デューク様の声が投げかけられる。

 そこで我を取り戻した僕は、敵が魔法障壁で火を止めたと報告した。


「ちっ。対策していたか……。ベリングスたちはどうしているのか」

「はい。馬の足を止めず離脱に成功しています。ですが、敵は無傷です」

「敵もバカではなかったということか」

 以前リーバンス家が皇龍火炎剣と火竜剣ではっちゃけたから、その対策がされているんだと思う。そういうこともちゃんと対策して侵攻してくるあたりは、賢い人が指揮を執っているのかもしれないね。


「敵の魔法士の数は分かるか?」

 あれだけの規模の魔法障壁を張った以上、それなりの数がいると思う。デューク様に少し待ってほしいと告げ、魔法士を探す。


 いた。あの人たちだ。

「左翼に二十人、中央に三十人、右翼に二十人です。後方の部隊にも合わせて五十人は魔法士がいます」

 魔法士はそのステータスシンボルともいうべきローブを纏っている。上空からでもローブの人と鎧の人ははっきり区別がついた。


「多いな……だが、まだこれがある!」

 デューク様は皇龍隕石剣を抜いた。


「魔法士の魔力は無限ではない。ここでその魔力を削り取ってくれる!」

 魔法障壁で止められたとしても、火竜剣よりもはるかに威力が高い皇龍隕石剣で敵の魔法士の魔力を消費させようという作戦か。

 しかも敵の魔法士の魔力がなくなったら、こちらは再び火竜剣や皇龍隕石剣を撃てばいい。やることがえげつないね。


 デューク様が軍の先頭に立った。敵は二キロ先で、旗は見えるけど人はほとんど見えない。

「我に続け! はっ!」

 馬を走らせるデューク様。


 僕はオリビアちゃんが乗る馬の手綱を握って走る。

「ランドー。いよいよね!」

 オリビアちゃんの弾んだ声が耳に入った。僕は振り返らず答える。

「僕から離れたらダメだからね」

「分かっているわ。ランドーは私が守るんだから」

 嬉しいことを言ってくれるけど、それは僕が言うべき言葉なんだよね。

 もっともオリビアちゃんはいつも僕を守ると言って、僕の前に立つんだけどさ。


「おい、ランドー。敵は無傷なのか?」

「うん。今のところはね」

「俺の出番がありそうで良かったぜ!」

「兄さんもあまり無茶しないでよ」

「わーってるって!」

 その笑顔が分かっていないのを物語っていると思うのは、僕だけだろうか?

 オリビアちゃんもそうだけど、アベル兄さんも脳筋だから僕の不安は尽きないな、これは……。


 

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