第50話 5章・一年生・長期休暇編_050_メテオ!

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 5章・一年生・長期休暇編_050_メテオ!

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 デューク様が皇龍隕石剣を発動させた。

 上空に十個の隕石が現れる。隕石は一つだとは限らない。そう思って十個の隕石にしておいたけど、それらの隕石が赤い摩擦熱を纏って地上に迫るのは恐怖を覚えるものだった。

 自分で創っておいてあれだけど、やりすぎじゃないか?


 敵魔法士が展開した魔法障壁に、隕石が当たる。それだけでも激しい衝撃波が広がった。

 魔法障壁で隕石を防げても、その衝撃波までは防げなかった。魔法障壁で保護されていない敵兵士たちが、衝撃波によって吹き飛んでいく。それは着弾場所から遠くにいる僕たちのところに強風として届いた。

 フウコにも高度を上げるように指示しておいて正解だったよ。


「あ、敵の魔法障壁が消えました!」

 それによって隕石は地面へと落下。その下にいた敵兵士を圧し潰した。

 防がれたのは十個中六個。防がれても、魔法障壁が消えたら下敷きになる運命が待っている。兵士たちは我さきにと逃げ惑う。

 しかも四個は防がれることなく敵の上に降り注いだから、逃げても安全とは限らない。


「衝撃波、来ます! 備えてください!」

 魔法障壁に防がれなかった隕石から発せられた衝撃波が、破壊をまき散らしてこちらまで到達する。

 吹き飛ばされそうになるのを、体中に力を入れて踏ん張る。

 オリビアちゃんが降り落とされないように、暴れる馬を必死になだめている。


 衝撃波は強風になり、その強風が収まり、土埃が消えていく。

 敵は……隕石の直撃か衝撃波によって三割が死亡した。残った七割も決して無事ではなく、幽鬼のような緩慢な動きで立ち上がろうとしている兵士の姿がぽつぽつと見えた。

 特に前衛中央の部隊は被害が甚大で、無事だった隕石のうち二個はここに落ちた。あとの二つは後方の部隊に一個、前衛左翼の部隊に一個だけど、他の部隊も隕石を完全に防げたわけじゃないからそれなりの被害が出ている。


 まさかここまでの威力があるとは思っていなかったから、ビックリしている。

 多分だけど……刻印の腕が上がった状態で黄銀合金に魔術紋を刻んだことで、威力が上がったと思われる。正確な刻印は大事なことだと、目の前の大惨事を見て心底実感したよ。


 この場所の空気中の魔力量がかなり多かったのも、あれだけの威力を出せた要因だと思う。火竜剣と違って、黄銀合金製の皇龍シリーズにはリミッターがないから、魔力量が多ければ多い程威力が出るのだ。


 火竜剣は戦場で使われることから、場合によっては敵の手に渡る可能性がある。その可能性はリーバンス子爵家の一族にしか渡してない皇龍シリーズよりも高いはずだから、使用する魔力量を制限しているんだ。その分、魔力が多いところでは何度でも使えるけど、黄銀合金製の皇龍シリーズは威力優先の仕様になっているんだ。


「デューク兄さん!」

 あまりの光景に使用した本人デューク様も呆然としていた。

「はっ!?」

 オリビアちゃんの声で我に返ったデューク様はバツが悪そうに苦笑しするが、すぐに表情を真剣なものにした。

 周囲を見渡すと、皆がデューク様と同じように呆然としていた。デューク様もそれが目に入ったことだろう。


「敵の状況は?」

「敵の三割は無力化。残った七割の大多数も被害を受け、大混乱しています」

「うむ……」

 一呼吸置く。その間はまるで静寂が支配したように、周囲の音が消えた。


「皆、聞け!」

 デューク様の大声は、まるで僕たちの脳に直接語りかけているかのようによく聞こえた。


「我らはこれより敵陣へ突撃する!」

 ゾワッ。騎士たちの殺気が戻ってきた。


「皆の者! 遅れるでないぞ! とーつーげーきーーーっ!」

 デューク様が皇龍隕石剣を振り下ろす。


「「「おおおっ!」」」

 まるでデューク様に操られているかのように、足が動いた。

 これは加護の力なのか? ここにいる二千人を操れるだけの加護がデューク様にあるのだろうか……。そう考えると、恐ろしさを覚える。こんなに大勢を操れる加護とはなんだろうか? 僕たちの指揮官の加護なんだけど、冷や汗が止まらない。


「ランドー! 速度を上げるわよ!」

 オリビアちゃんが馬の速度を上げた。僕たちは自分の足で走っているんだから、ちょっとは加減というものを考えてほしい。


「兄さん、オリビアちゃんに遅れたらダメだよ」

「任せておけ!」

 僕とアベル兄さんも、オリビアちゃんにつられて速度を上げた。

 体力派脳筋の兄さんはともかく、僕は頭脳派なんだけど……。


「ランドー、遅いわよ」

「人間の足なんだから当然でしょ!」

「本気を出しなさい!」

 これでも本気で走っているんだってば! 日頃運動していたらもっと速く走れるかもだけど、これ以上速く走ったらゲロ吐いて戦闘どころじゃなくなるんだからね。


「ランドー。おせーぞ!」

脳筋兄さんとは違うんだから、しょうがないでしょ!」

 ぜぇはぁぜぇはぁ。僕は魔道具を作る魔法士なんだから、そこをよく考えてくれ~。


「ランドー! そんなことではオリビアはやれんぞ!」

「えぇぇぇ……」

 デューク様までなんでこの会話に入ってくるんだよ……。


 先頭の騎士たちが敵部隊へ突撃した。僕たちはそこから百メートルくらい遅れていたから、戦場がよく見える位置にいる。意外とデューク様は匙加減が上手いと思う。ただの脳筋かと思っていたけど、違うようだね。


 騎士たちの勢いが止まらない。前衛部隊を突き抜けて、その先にいる後衛部隊へとその槍先を突きつけている。

 味方は敵前衛部隊を覆うように、展開してローマ字のWのような形になっている。中心の先端に騎士が多く配置されていて、さらに左と右の先端にも騎士がいる。


 僕たちは中心の先端からやや後方にいる。オリビアちゃんの(馬の)手綱を握って絶対に離さない覚悟です!

 デューク様もオリビアちゃんの動向を気にしているようで、常にそばにいる。でもアベル兄さんは前に出て敵をその斧で薙ぎ払っているんだよね。なんというか露払いかな。


「ほう、やるな。あの小僧」

 デューク様がアベル兄さんの戦いぶりに目を細める。


「ランドー。手綱を離しなさいよ!」

「ダメ!」

「ダメって、なんでよ!」

「オリビアちゃんの手綱を握っておくのが僕の仕事なの!」

 ここで手を離したら、あとからデューク様や領主様に何を言われることか。それ以前にいくらオリビアちゃんが強くても、後ろに目があるわけじゃないんだから戦場では僕のそばに置いておくの!


 

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