第41話 5章・一年生・長期休暇編_041_オリビアの逆鱗

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 5章・一年生・長期休暇編_041_オリビアの逆鱗

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「ホーウホーウ」

「うぅん……おはよう、フウコ」

 五月の強い朝日が目に痛い。

 フウコは四月に百八十センチメートルまで成長したけど、それ以上にはならなかった。それでも僕よりはるかに大きいんだけどね。それと羽の青みが強くなって露草色つゆくさいろっぽくなっている。胸の白色と露草色の配色が鮮やかで綺麗だ。


 僕も成長して百五十五センチメートルくらいはあるけど、まだオリビアちゃんのほうが高い。ほんの少しだよ……。


 今日は里帰りするために、リューベニックを発つ日。

 先ずは朝食。フウコには悪いけど、今日はホットドッグ。食べにくそうだけど、我慢してね。しかしフウコはなんでも残さず食べる。お利巧だね。

「ホーウ」


 階段を下りていくと、いつものようにロビン君が待っていてくれた。そのそばにさらに三人がいる。この三人は今回の休暇で帰省する上級生たちで、リーバンス子爵領に実家がある平民だね。

「おはよう、ロビン君」

「はい。おはようございます。ランドーさん」

 爽やかな美少年の笑みが眩しい。僕も前世よりはイケメンに近いと思うけど、彼にはとても勝てない。てか、この世界の人は美形が多いから、前世より容姿がよくなっても、僕はフツメン止まりなんだよね……。なんか悲しい。

 先輩たちとも挨拶をして、さらに待つ。


 しばらく待って、最後の一人がやってきた。彼はボーマンさん。士族だから他の平民の三人よりも立場は上だね。

「やあ、待ったかい。すまなかったね」

 僕とはあまり絡まないから気にしてないけど、身分をひけらかす三年生の先輩だね。


 それぞれの荷物を持って、寄宿舎を出る。

 僕は背負い袋一つ。重いものは異空間に放り込んである。

 ロビンはちょっとした旅行カバンが一つだけ。一カ月も向こうで過ごすのに、かなり少ないね。

「荷物、それだけ? 少ないね」

 僕は異空間に放り込んであるから、ダミーのカバン一つでも問題ないけど、普通はもっと大荷物だよね。


「服が必要なら、向こうで買えばいいと思いまして」

 そうかロビン君は商家の子供だから、お金には困ってないんだね。僕もお金には困ってないけど、それでも元々農家の六男だから節約癖が染みついている。

 平民の先輩三人は大きなカバン一つ。士族の先輩は従者に大荷物を持たせている。よくあんなに持つね、両手と両脇にカバンを抱えているんだよ。男なのにそんなに何を持って来たんだか……。


 僕たちは全員オリビアちゃんと一緒に里帰りする。

 他に騎士学校の生徒六人もいるから、学生は全部で十三人になる。その中に僕の一つ上のアベル兄さんもいるんだ。

 皆一緒に帰省すれば、その分の護衛などの経費が浮く。オリビアちゃんは貴族家の息女だから、帰省に合わせて十人の護衛がリベナ村からこのリューベニックに到着しているからね。それに領主家の息女であるオリビアちゃんとお近づきになれるのが大きい。

 だからいつもは別々の帰省なのに、皆が集まっている。


 帰省ラッシュが始まっているようで、魔法学校の校門は貴族の馬車でごった返している。今日ばかりは僕たちも馬車で校門を出る。

 学校のそばでは邪魔になるからリューベニックの出口付近でオリビアちゃんたち騎士学校組と合流した。今日もオリビアちゃんは凛々しい男装の麗人だ。

「おはよう、オリビアちゃん」

「おはようございます! オリビア様!」

 ボーマンさんが凄い勢いで腰を九十度折って頭を下げた。なんとも素晴らしい米つきバッタぶりだね。サラリーマンの中間管理職ってこんな感じなのかな……。


「よう、ランドー」

「兄さん。久しぶりだね」

 試験後の長期連休が年二回あるけど、去年アベル兄さんは帰って来なかった。休み中ずっと騎士学校で稽古をしていたらしい。だからアベル兄さんとは一年半ぶりになる。


「今回も帰ろうとしなかったから、無理やり引っ張ってきたのよ」

 シャナン姉さんがアベル兄さんの耳を引っ張った。

「いてーよ、姉さん」

 なるほど。シャナン姉さんがいなかったら、今年も帰らなかったか。アベル兄さんには本当に困ったものだ。


 僕はオリビアちゃんと一緒の馬車、アベル兄さんやロビン君たちは他の馬車に乗り込んで一団は出発した。

「ランドーは試験の結果はどうだったの?」

「うん。思ったよりもいい成績だったよ」

 総合9位を取ったと言ったら、オリビアちゃんは我がことのように喜んでくれた。でもオリビアちゃんの成績を聞いたら、もっと凄かった。


「総合2位なの? 凄いね!」

「座学があまり得意じゃないから、1位は難しそうだわ」

 2位ってことは、座学が悪いと言ってもそこまで酷い点数じゃないはず。むしろ一般的にはいい点数だよね? そうじゃなければ実技で満点取っても2位になるのは難しいと思うよ。


「2位でも十分じゃない」

「1位じゃなければ、2位もドベも変わらないと、誰かが言っていたわよ?」

「それは希望者がどんなにいても、一人しか合格できない就職試験のような特殊な場合のことだよ。たとえば東大入試で2位の成績なら間違いなく入学できるし、それこそエリートコースに乗れそうじゃんね」

 オリビアちゃんの横にはシャナン姉さんもいるけど、東大の意味が分からないみたいで首を少し傾げた。


「そんなに必死にならなくても、私は成績に拘ってないから大丈夫だよ」

 え、そうなの。だったら最初からそう言ってよね。


「ところでバルガンテス侯爵家の五男だっけ? あれからどうなったの?」

「トディアスね。ちゃんと痛い目を見せてあげたわ。あの黄銀合金の刀はいいわね。鎧を砕いて、さらに腕の骨を複雑骨折にできたわ」

 意趣返しができてオリビアちゃんはとてもご満悦だ。その横でシャナン姉さんが深いため息を吐いたのには、何か意味があるんだろうね。


「シャナン姉さんのそのため息は、どういう意味かな」

「オリビア様は簡単に言っておられますが、トディアス様はあと少しで腕を切断するところだったのですよ。回復魔法が使える魔法士様や、高額なポーションが惜しみなく使われたと聞いています」

「私だってあいつが調子に乗らなければ、もっと手加減をしてあげたのよ」

 オリビアちゃんはプイッと顔を逸らした。やってることはかなりエグいけど、その所作は年頃の女の子らしく可愛いものだ。


 その後のシャナン姉さんの話によると、トディアス様の右腕は治ったらしい。でも粉々になった骨が歪な状態でくっついたらしく、剣を自由自在に操るようなことはできなくなったとか。

 訓練中のできごとだからオリビアちゃんにはなんの責任も罪もないけど、ちょっとやりすぎだよね。

「何言ってるのよ。あいつ、私に試験で負けろって脅してきたんだからね。本当は殺してやろうかと思ったけど、腕の一本で勘弁してやったのよ」

「あー、そういう奴なんだね……」

 オリビアちゃんたち女性のお尻を触ろうとしたり、試験で不正をしようとする奴ならいいか。殺したらさすがにやりすぎだけど、トディアス様はオリビアちゃんの逆鱗に触れるようなことをしてしまったんだから自業自得だと思う。


 

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