第40話 4章・一年生・前編_040_試験終了。そして結果

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 4章・一年生・前編_040_試験終了。そして結果

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 デッサンが終わると、魔術の試験場に向かう。彫金は三日間で作品を完成させればいいので、デッサンだけして今日は終了にした。

 こういう配分はそれでいいかどうか分からないけど、やってみるしかない。


 魔術の課題は短剣に風属性の魔術を付与するというもの。武器だから攻撃性の付与を要求されている。

 何度もいうようだが、魔術は刻印と違って魔術紋を刻むことはない。魔力で魔術紋を形成し、その魔術紋を短剣に定着させるのが魔術になる。

 魔法士が戦場で味方に即席魔剣を与えるためによく使われているらしい。魔術は時間経過と共にその効果が薄れていくから、数時間から数日後には効果切れになるのが一般的なんだ。


 短剣にエアロスラッシュの魔術紋を定着させる。一見なにも変わってないけど、短剣が魔力を纏っていることが僕には分かる。

「出来ました」

 熟練の魔法士なら一分もかからない作業だけど、試験時間は三十分もある。といっても加護が魔術神ではない初心者もいるから、三十分あってもギリギリだったりする。


「それではそこのガントレットをつけてから、魔術を発動させたまえ」

 ガントレットを手につけるのは、魔術が暴走した際に腕を保護するためらしい。結構無理して暴走させる生徒もいるらしいから、かなり頑丈そうなガントレットだ。


 言われたように金属のガントレットをつけて、魔力を流して魔術を発動させる。魔法使いが魔法を発動させるよりも、少ない魔力で魔法と同じ効果を発動させるのが魔術の特徴。魔法のように魔力を扱えなくても、ちょっと意識するだけで発動できるからお手頃感があるね。

 短剣から風の刃が発射された。ここで暴走したら不合格で追試決定だから、まずは第一関門突破。

 十メートルほど先の目標の丸太に、長さ二十センチメートル、最大深さ五センチメートルの傷がついた。金属鎧だと斬り裂けるか分からない威力だけど、衝撃で後方に倒すくらいはできるだろう。騎馬戦なら、それだけで落馬させれて有利に戦えるようになるはずだ。


 無事に発動したことから、あとは先生が短剣と丸太を確認して採点が行われる。

 魔術教師のベルンダーグ先生がブツブツ言いながら、記録を取っている間僕はぼーっと待った。

「採点は終わった。もう行っていいぞ」

 特に質問されることなく解放され、ホッと胸をなでおろす。


 今日はここまで。

 残る彫金と刻印はあと二日かけて仕上げることになる。

 ペース配分はいい感じだと思う。僕は刻印に関してはかなり自信があるし、今回の魔術文字なら半日もあれば刻めるはずだ。

 問題は彫金のほうだ。某スマホメーカーのマークのような齧られたリンゴを一日半で彫りきることができるか……。四教科はやっぱり時間が足りないか。でも四教科どころか実技五教科全てを受講している生徒もいるんだよな……。上級貴族のアリシア様だ。


 彼女は僕が受講している刻印、魔法薬学、魔術、製作に加え、魔法も受講しているんだ。製作は縫製を選んだようだけど、縫製もかなり時間のかかるものだからね。


 二日目は彫金に全てを費やした。やっぱり一日で終わらず、三日目に持ち越しになる。三日目は先に刻印を済ませて、彫金の追い込みをした。

 刻印の試験は俗にコンロと呼ばれる魔術紋を刻んだものだ。刻印を円状に刻んで、その中心に魔鉱石と言われる魔力を含んだ石を置くと、火が点くというものだ。

 刻印の中では簡単な部類のもので、貴族屋敷には必ずあるような魔道具になる。刻印は三十分で終わった。これだけは自信があるけど、早く終わりすぎて自分でもびっくりしている。コンロの火もちゃんとついたから、起動や性能に問題はない。

「いい魔術文字だ。君は刻印の才能があるようだな」

 ドルガー先生に褒められて、とても嬉しい。嬉しさのあまり、思わず木に登りそうになってしまった。冗談はさておき、これは点数も期待できそうだ。よしよし。


 彫金は時間一杯まで粘った。それでも納得できたものではないけど、提出した。こればかりは時間制限があるからしょうがない。

 これが二年生になると四日、三年生は五日をかけて試験が行われる。僕たち一年生は三日でもヘトヘトになって試験結果を待つことになった。

 多分、教師たちは試験期間中は夜遅くまで採点したり、その集計などをしいていることだろう。体を壊さないようにしてほしいものだ。


 試験は週の始めの火曜日から始まり、僕たち一年生は風曜日で終わる。土曜日からは完全にフリーとなるため、遊んでもいいし、自主的に勉強してもいい。

 僕は部屋にこもって、黄銀合金で皇龍火炎剣とその姉妹剣である皇龍暴風剣、皇龍地獄剣、皇龍隕石メテオ剣の四本を創り上げた。

 刻印の技術がかなり上達したことと、素材が黄銀合金になったことで、皇龍火炎剣の効果もかなり上昇していると思う。試し撃ちがしたいけど、さすが魔法学校の訓練場でぶっ放すわけにもいかず、翌週の火曜日を迎えた。


 僕は実技四教科の試験を受けたけど、採用されるのは点数の良い三教科のみ。一番点数が悪い教科は切り捨てられて合計点が出るんだ。五教科でも同じように上位三教科の点数の合計だね。


 成績発表はボードに貼りだされる。一学年六十人の成績が、それで一目瞭然になっている。


 アリシア=バルガンテス  総合592点(1位) 筆記297点(1位) 実技295点(1位)


 ルーザック=エルバン   総合589点(2位) 筆記296点(2位) 実技293点(2位)

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 ランドー=オリーベン   総合568点(9位) 筆記279点(11位) 実技289点(4位)


 おおお……。僕が総合9位! 六十人中の九人目ですよ。

 実技が思った以上に良かったようだね。

 ベストテンに入っているんだから、そこそこ胸を張って故郷に帰れるね。


「ランドーさんは9位なんですね! さすがです!」

「そういうロビン君のほうこそ総合10位じゃん。しかも僕と総合で1点差だから、次は抜かれそうだよ」

 同じリーバンス子爵領の仲間がベストテンに入ったのはとても喜ばしいことだね。二人で大手を振って故郷に帰れるじゃないか。


「しかしアリシア様はさすがだね。筆記も実技も1位で堂々の総合1位だもんなー」

「上位の皆さんは全員貴族様ですね」

「やっぱり英才教育を受けているんだろうね」

 家名持ちが上位を独占状態なのに、その一角にロビン君の名前がある。平民で唯一トップテン入りだ。ちなみに僕も士族で唯一トップテン入りらしい。


 成績発表を見終わった僕は、教室に入った。

 そこには沈んだルーク君と、それを慰めるリンさんの姿があった。

「おはよう」

「おはようございます。ランドーさん」

「………」

 ルーク君は成績がよろしくなかったようだね。


「次、また頑張ればいいじゃないか」

 勝者の余裕を見せつつ、ルーク君の肩に手を置く。今の僕は、ルーク君にとってとてもウザい奴なんだと思う。


「9位様は余裕だな……」

「そういうルーク君は何位だったの?」

「それを聞くかよ……」

 机に突っ伏すルーク君。そんなに悪かった? まさか60位ドベ


「ルークは48位でした」

「うっ。なんで言うんだよ……」

「いや、言わなくても成績は掲示されているんだから、隠す意味はないよ」


「下にまだ十二人もいるじゃないか。大丈夫だって」

 何が大丈夫か言っている僕自身も不明だけどさ……。


「成績なんてのは、何位でもいいんだ。ただ鍛冶が満点じゃないんだ。師匠に顔向けできないぜ」

 いや、満点って……。


「ルーク君は鍛冶だけは満点を取ると、お師匠様に約束したそうなんです」

「ルーク君にはお師匠様がいるの?」

「はい。鍛冶師の方です。あまり大きくないですけど、工房を構えています」

 ルーク君は魔法系の加護を持っているんじゃないの? 鍛冶師の弟子なら、そのまま師匠について修行すればいいのに、なんで魔法学校なんかに入ったの?


 ルーク君は魔法系の加護を持っているけど、性格的にどうしても合わなかったらしい。そこで鍛冶に出会い、鍛冶師に弟子入りしたらしい。

 しかしルーク君の父親は怒った。魔法使いとして期待していたのに、息子が鍛冶師に弟子入りしたと聞いては冷静でいられなかったらしい。貴族や士族は騎士とか魔法士というものに、幻想的な何かを抱いている変な人種だからね。


 そこでルークは鍛冶師になることを父親に許してもらうために、父親と二つの約束をした。

 一つめは魔法学校を卒業すること、二つめは名を上げているリーバンス子爵家が推薦した生徒と懇意になること。

 それはいい。問題は鍛冶師の師匠のほうだ。ルーク君が何度も頭を下げて頼み込んでやっと弟子にしてもらったのに、魔法学校に入学することになった。師匠に申しわけないと思ったルーク君が師匠と約束したのが、鍛冶で満点を取るということらしい。

 なんとも……まあがんばれ。それだけかな。


 

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