第42話 5章・一年生・長期休暇編_042_帰省途中

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 5章・一年生・長期休暇編_042_帰省途中

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 帰省の旅は四日目に入った。明日にはリベナ村に到着できるだろう。

「暇ね~。盗賊でも現れればいいのに」

「物騒なことを言わないでよ」

 暇でしょうがないのは分かるけど、さすがに盗賊は勘弁してほしい。


「いい加減体を動かさないと、鈍っちゃうわよ」

「イメージトレーニングをしたらどうなの?」

「イメージトレーニングか~。私とお話できなくなるわよ。寂しがらないでね。うふふふ」

「はいはい。さみし~な~」

「何よ、その言い方は。私と喋れなくてもいいわけ?」

 プーっと頬を膨らませるオリビアちゃんに、僕は笑みを向ける。暇だと言って物騒なことを言ったオリビアちゃんが悪い。さっさとイメージトレーニングして、黙れ。そんな意味を込めた笑みだ。

「うっ……何よ、まったく……」

 オリビアちゃんは不貞腐れたように目を閉じて、イメージトレーニングを始める。


 さて、僕も魔力操作のトレーニングでもしますかね。

 帰省前にドルガー先生に言われたんだけど、僕の刻印の技術は素晴らしいらしい。多分だけどドルガー先生の音を追求したからだと思う。

 そこでドルガー先生は、自分が顧問をするサークルに僕を誘ってくれた。その名も刻印サークルだ。そのままだね(笑)


 そこで僕は刻印サークルに入ることを決意したわけ。それでドルガー先生から長期休暇中の課題が出された。

 僕の刻む技術は上級生もよりも優れているらしい。でも刻印というのはそれだけじゃない。刻む魔術紋に魔力を込めなければいけない。そしてドルガー先生は、僕の魔力の扱いがまだ未熟だと教えてくれたんだ。

 考えてみれば、僕は膨大な加護の補正値による力押しみたいなことしかしてない。魔力は魔法が発動させられればいい。刻印の際に流れてばいい。そんな感じで精密に操作しようとは思うことはなかった。


 精密に魔力を操作できるようになれば、もっと刻印の効果を上げることができるらしい。将来がどうあれ、刻印は楽しい。どこまでやれるか分からないけど、僕は刻印で一流と言われるくらいにはなりたい。

 この世界での目標が増えてしまった。風呂とトイレ。そこに刻印。あと帝国に痛い目をみさせる。

 あまり目標が増えるとやりきれないから、これ以上は増やさないでおこう。


 魔力操作のやり方はドルガー先生に教えてもらった。それを意識してやってみると、体内で魔力が動くのを感じる。

 体内の魔力を感じるのは、魔法系の加護を持っていると比較的すぐにできる。

 僕は創造神の加護が使えるようになった際に、魔力を感じられるようになった。魔力が感じられると魔法も使えるし、刻印や魔術で魔力を使うことができる。ただし魔力を使えるのと、操っているのとは違う。

 魔力に意志を乗せて操る。そうならなければ、ただ魔力を無駄に垂れ流しているだけに過ぎないのだ。


 手の平の上で魔力を球体にするが、すぐに霧散した。

 また魔力を球体にし、霧散する。これを繰り返していると、時間が経つのも忘れる。


「ランドー。休憩にするわよ」

 目を開けると、オリビアちゃんの顔が目の前にあった。

 さすがに驚くから、もう少し離れて起こしてほしいよ。


 馬車を降りて背伸びすると、背骨がボキッとなった。結構長いこと集中して魔力操作の訓練をしていたようだ。


 魔法学校の先輩が魔法でお湯を沸かしてくれる。こういうことにも魔法は便利に使えるんだよね。

 そのお湯でシャナン姉さんがお茶を淹れてオリビアちゃんに出す。良い茶葉らしく芳醇な香りが僕の鼻をくすぐる。僕の前にもシャナン姉さんがお茶を出してくれる。婚約者だから、特別扱いなんだって。

 オリビアちゃんと一緒のテーブルで、お茶を飲む僕に向けて羨望の眼差しが集まる。アベル兄さんだけは、凝り固まった体を動かしているけど。いやもう一人、ボーマン先輩の視線は羨望というよりは、敵意のこもったものだ。

 僕がオリビアちゃんと同じ馬車に乗るのが気に入らない。僕とオリビアちゃんが同じテーブルで食事したりお茶を飲むのが気に入らない。ボーマン先輩は、オリビアちゃんに主家の息女以上の感情を抱いている。鈍感な僕に分かるくらいにあからさまなんだよね。勘弁してほしいよ。


 バサリとフウコが僕の横に下りた。

 騎士様や兵士さん、そして同行している生徒たちにフウコが僕の従魔だと教えてあるからいきなりで驚くことはあっても剣を抜くことはない。

「ホーウホーウ」

「そうなんだ。うん、分かった。ありがとうね」

 従魔とテイマーはテレパシーのようなもので繋がっているから、何か伝えたいことがあっても下りて来る必要はない。それでも下りて来たのは、これが目的だね。


 僕はクッキーを創造して、差し出す。フウコは美味しそうにそれを頬張った。

「ホーウ!」

 クッキーがよほど美味しかったのか、いつもよりも多く羽ばたいて空に飛び立った。朝晩は僕と同じ前世の料理やジャンクフードを食べているせいか、かなりグルメになってしまった。困ったものですよ。


「今のクッキーよね。私のはないの?」

「フウコへのご褒美なんだけど、ほしい?」

「ほしいわよ。ちょうだい」

「太るよ」

「う、うるさいわね……」

 凄く物欲しそうな顔をしているオリビアちゃんに、袋に入ったクッキーを差し出す。僕が差し出している途中に、その袋を奪い取っていくオリビアちゃん。その行動は貴族の息女としてどうなのかな?

 それ内緒で創造しているから、結構気を使うんだよ。僕たちをガン見している某先輩もいるからさ。


「で、フウコちゃんは何て言ってたの?」

「大したことじゃないよ。聞きたい?」

「まあ、聞きたい……かな」

 プイッと顔を逸らすオリビアちゃんが可愛すぎるんですけど(笑)


「この先に五十人くらいの武装集団がいるんだって」

「そう、武装集団……え?」

「盗賊じゃないかな。ちょっと数が多いけど、オリビアちゃんの天神雷光で一掃できるから問題ないよね」

「あんたねぇ……」

「サルガマル様にお伝えしてきます!」

 オリビアちゃんは呆れ、シャナン姉さんは慌てて騎士様のところに駆けて行った。

 騎士のサルガマル様は二十後半の金髪碧眼のイケメンで、代々リーバンス家に仕えている士族だと聞いている。領主様が最も信頼している騎士の一人で、お父さんも現役の騎士としてリーバンス家に仕えているそうだ。


 

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