第34話 4章・一年生・前編_034_刻印
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4章・一年生・前編_034_刻印
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「ホーウホーウ」
フウコの鳴き声で目が覚める。朝になると起こしてくれるから、とてもありがたい。僕が授業に遅刻しないのは、フウコのおかげだよ。
「おはよう。フウコ」
「ホーウ」
ん、なか大きくなってない? 隣に立ってみると、やっぱり大きくなっている。
以前は百五十センチメートルだったけど、今は百六十センチメートルはある。リューベニックにやって来て一カ月、もしかして豊富な魔力を得て成長したのかな?
「僕が与えている食事が原因という可能性もあるか……」
フウコの食事は僕が創造で創った前世のものが多い。懐石料理やフランス料理からジャンクフードまで色々あげているから、成長した?
「とりあえず、この窓から出入りできるくらいの大きさなら、構わないんだけどね」
窓は横二百センチメートル、高さ二百五十センチメートルくらいあって、ちょっとしたバルコニーもある。
「その従魔の首輪、キツくない?」
「ホーウ」
全然大丈夫らしい。どうやら羽毛で大きく見えるけど、体自体はそこまで大きくないようだ。触ってみると指だけじゃなく手首近くまで羽毛に埋まった。これならもっと大きくなってもしばらく従魔の首輪がきつくなることはなさそうだ。しかし現時点でよく外れないね?
「ホーウ」
「バランスが大事だって?」
分かったような、分からないような……。まあ、今のままでいいと言うのだから、いいのだと思う。
ベーコンエッグとパン、あとコーヒーを創造して、朝食を摂る。フウコもベーコンエッグをペロリと食べる。
窓を開けてやると、フウコは大きな翼を羽ばたかせて飛び立つ。ふと見ると、フウコの青みがかったグレーの羽が一本落ちていた。拾って触ると、胸の羽毛とは違って弾力のあることが分かる。
「そういえば魔獣の羽の芯を、杖の芯にしたってバーバラさんが言っていたっけ」
杖を購入したバーバラ魔法店の店主であるバーバラさんの言葉を思い出した。あれ以来、バーバラさんのところには行ってない。僕にくれた杖のことで聞きたかったけど、忙しくて忘れていたよ。
「この羽を芯にして杖を作ったらどうなるかな?」
なんか楽しくなってきたぞ。おっといけない、遅刻しちゃうよ。試験さえいい成績なら授業を受けなくてもいいんだけど、僕が知らないような知識を教えてもらえるから授業に出ないなんて勿体ないよね。
僕はフウコの羽を異空間に収納し、着替えて部屋を出た。
「おはようございます。ランドーさん」
「おはよう、ロビン君」
一階のロビーでロビン君が待っていてくれた。彼は律儀にいつもここで待っていてくれる。僕は待つ必要ないと言うんだけど、彼にとってはこれが当然なんだとか。平民と士族の差はそれだけ大きいらしい。
もしロビン君が魔法学校を卒業して、魔法士の称号を得たら下級士族として領主様の家臣になれる。そうなれば僕とロビン君は大枠では同等。三年後にはそうなっているかもしれないんだよね。
魔法使い科と魔道具科は校舎が違うから、途中で別れる。ほんの五分ほど一緒に歩いただけだ。
彼の背中を見送り、三年後に無事に魔法士として士官できていたらいいなと思う。
さて、今日の最初は刻印の授業だ。
ドルガー先生の声は相変わらずだけど、さすがに刻印の実習で寝るわけがない。
刻印というのは魔術紋と言われる特殊な言語を、正確に刻む必要がある。文字というものには、とめ、はね、はらいがあり、これらを正確に刻む必要があるんだ。
僕はジーモン兄さんが魔術紋に関する書物を読んでいたことから、幼い時から魔術紋に触れる機会があった。魔術紋を教えてと言ったら、それは厳しくとめ、はね、はらいを指摘されたものだ。正確さがないと魔術紋として機能しないらしい。
ドルガー先生が魔術紋を刻むのを見させてもらったけど、プログラムで動く機械のように正確だった。ただそこに魔術紋を刻む、その一心。それ以外の雑念がまったく感じられないもので、人間性を感じることができないものだったんだ。
正確に魔術紋を刻むには、人間性よりも機械性ともいうべき精密さのほうが大事なんだと思ったものだ。
僕たち生徒はひたすら金属の板に魔術紋を刻んでいる。無言で小さなハンマー振り、カンカンカンという音しか聞こえない。無駄口を叩くと、日頃は優しげな声のドルガー先生の雷が落ちる。ドルガー先生は生徒が寝ていても怒らないけど、無駄口を叩くのは怒るんだ。多分だけど、寝るのは自分だけの問題だけど、声を出すのは授業の邪魔になる。それで怒っているんじゃないかな。
カンカンカンカンカンカンカンカンカン。
どうも違う。ドルガー先生の刻印の音はこんな音ではなかった。
カンカンカンカンカンカンカンカンカン。
やっぱり違う。
この音の差はなんだろうか? まあ年季が違うんだろうけどね。どう考えてもドルガー先生は数十年修行している方だ。僕なんか本当に鼻垂れ小僧、いや、赤ん坊のようなものなんだろうな。
カンカンカンカンカンカンカンカンカン。
何年かけてもあの音を出してやるからね。こういう地道な努力は嫌いじゃないんだ。
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