第33話 4章・一年生・前編_033_休日デート
■■■■■■■■■■
4章・一年生・前編_033_休日デート
■■■■■■■■■■
魔法学校に入学してあっという間に一週間が経過した。
僕たちは初めての週末を迎えていた。村にいた時は曜日なんて関係なかったけど、学校はちゃんと休日がある。
この世界の暦は火、水、風、土、光、闇曜日の六日で一週間になる。一カ月は五週間三十日。一年は十二カ月、三百六十日。
学校や役所は火曜日から土曜日までが一日で、光曜日は半日、闇曜日は休日になる。
そして今日は闇曜日。完全休日の日になる。
僕はロビン君と共に買い物に出かける。二人で校門で守衛所に外出届を提出して、辻馬車に乗る。リューベニックには辻馬車と駅馬車があって、辻馬車はタクシー、駅馬車はバスのようなものだ。どこへでも行ってくれる辻馬車のほうが便利だけど、そこそこ金額が張る。
「明日から本格的な実技が始まるけど、もう準備は終わった?」
「杖を購入しようと思って、これからバグズ街へ行くんです」
「そうなんだ。聞いた話なんだけど、バグズ街の奥にあるバーバラ魔法店がいいらしいよ。目立たない店だけど、いいものを揃えているんだって」
「そうなんですか。行ってみます。教えてくださって、ありがとうございます」
僕の魔術用の杖を購入した店を教えてあげる。あの杖を使って付与すると、妙にしっくりくる。しかも魔術の効果が今までよりも高くなっていた。
僕はこれまで刻印と魔術を並列で使っていたことで、作業に杖を使わなかった。でもそれを別々に行うことのメリットを知った。そして魔術に関しては杖があるとないとでは効果が違うのも、今回のことで理解したんだ。
僕は魔法用にニワトコを持っているけど、あれは力のゴリ押し用なので繊細な調整が必要な魔術には合わないんだ。魔術と魔法は似ているけど、まったく違うものだとこの魔法学校に入学して分かったよ。
魔法使い科の生徒は、ニワトコのような長い杖を使っている生徒が多い。あのような大きな杖でも、杖と人との相性がある。それは魔獣の素材を使っているからで、魔術でも魔法でも杖には魔獣の素材を使うのが一般的なんだってさ。
僕はニワトコに不便を感じていないし、魔法の授業もとってないからいいんだけどね。
ティラミナス通り二番街でロビンは辻馬車を降りた。そこの角を曲がったらバグズ街という場所だね。
「それじゃあ、気をつけてね」
「はい。ランドーさんもお気をつけて」
御者さんに馬車を出してと頼む。僕が目指すのはもう少し先のアームズ通り五番街だ。そこには騎士学校があって、僕はオリビアちゃんと待ち合わせなんだよね。
アームズ通り五番街で降りると、御者さんに銀貨五枚を渡した。三十分くらい乗ったから結構な額だ。
騎士学校の校門の前は休日ということもあって、出て来る生徒や馬車で混雑していた。
僕はちょっと離れたところで、オリビアちゃんが出て来るのを待つことにした。
基本的に平民と士族は徒歩、貴族は馬車で校門を出入りする。
校門から出て来た見覚えのある馬車が、僕の前で停まった。リーバンス子爵家の紋章がついているから、オリビアちゃんが乗る馬車だ。
扉が開かれ、シャナン姉さんが出て来る。その後からオリビアちゃんが出て来る。真っ赤な地に金の刺繍がされている軍服のような服が、騎士学校の制服だ。
「ランドー。待たせたな」
「ううん。今来たところだから」
なんだろう、僕が女の子のような返事をしているような?
「しかし似合っているね。その制服」
まさに男装の麗人だ。
「そうか? 私も結構気に入っているんだ。ははは」
騎士学校も魔法学校も外出は制服限定なんだよね。それ以外の服で外出は認められていない。
そして色についても明確に決められている。魔法学校の制服が地味な黒色なのは、戦場で目立たないため。逆に騎士学校の制服は戦場で目立つために派手な赤色になっているんだ。
魔法士は先頭に立って戦うものではなく、騎士はその逆で先頭に立つものだからなんだとか。最初僕は赤い制服と聞いて、速さが三倍になるのかと思ったよ(笑)
僕とオリビアちゃん、シャナン姉さんが馬車に乗って、買い物に出かけた。
オリビアちゃんは貴族だから、こっちでもそれなりのつき合いがあるんだ。
「これでも外面だけはいいから、任せてほしいわ」
自分で「外面だけ」というのはどうかと思う。しかし元CAなだけあって、貴族のあしらいが上手そうだね。僕なんかすぐに顔に出るから、腹の探り合いとかできそうにないし。
ちなみに魔法使いのローブの色は、身分を示すだけのものなんだ。制服ではないから外出時は身に纏う必要はない。もっとも貴族の方々はステータスシンボルであるローブを纏って出かけるみたいだけどね。
外出は制服だけど、外出先で着替えていけないという校則はない。
オリビアちゃんとの買い物はドレス選びから始まった。このドレス選びで、僕のHPはゼロになりそうだった。
女性の買い物につき合うのは凄く大変だ。どっちがいいと聞かれても困る。しかもすでに答えは決まっているのだ。間違った回答をしたら、オリビアちゃんの機嫌が悪くなる。それなら僕に聞かないでほしいと切に思うわけですよ。
ドレスの次は宝石だね。
オリビアちゃんはどんな宝石でも似合うけど、ここでも選択を迫られた。宝石が地獄の石に見えたよ。積んだら崩され、積んでまた崩される。そんな錯覚を覚えたね。
「つ、疲れたー……」
お茶のために入ったカフェで、僕はテーブルに突っ伏した。
「私との買い物はそんなに疲れるのかな?」
「………」
返事に困る質問をしないでください。
「返事は?」
「そんなことありませんです。マイラバー」
僕は背筋を伸ばして、真面目な顔になって答えた。
「マイラバーって何よ。そんなの知ってるわ」
「えぇぇ……。勇気を出して言ったのに」
「そうなの? じゃあ、もう一回言ってくれるかな?」
「……無理っす。数年に一回の勇気ですから」
「数年に一回しか言ってもらえないなんて、私寂しいわ」
目を伏せて鳴き真似しても無駄よ。その嘘泣きには騙されないんだからね。
「もう、慰めなさいよ」
「ナカナイデクダササイ」
「片言は止めて! 私が惨めになるわ」
「一応、シャナン姉さんの前だし、分かってほしいかな……」
恥ずかしいんだよね。本当に歯が浮きそうだったんだから。
+・+・+・+・+・+・+・+・+・+
応援お願いしますね
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます