第21話 3章・学校入学編_021_進路

 ■■■■■■■■■■

 3章・学校入学編_021_進路

 ■■■■■■■■■■


 あの悲しみの日から歳月が過ぎて僕は十一歳になった。


 父さんは五十を目前に、隠居すると言い出した。といっても畑の世話はこれまで通りするんだけど、その頻度を下げて孫の世話をして暮らすんだとか。

 それで家の横に小さな家を建てて、母さんと一緒に移り住んでいる。


 家長になった長男のベルトン兄さんには子供ができた。ルディオと名づけられたその子は、元気な男の子で今年で二歳になる。

 なかなか子供ができなかったけど、ルディオが生まれて一安心。おかげで父さんが隠居宣言するほど、ルディオを可愛がっている。


 三男のフーベルト兄さんは結婚した。かねてから好意を寄せていたルールーシーさんとはダメだったけど、カーファさんという一歳年下の女性と結婚したのが一年前のこと。仲睦まじく森のそばの家で暮らしている。


 次女のマルファ姉さんは今年嫁に行った。リューベニックの商家の次男で、行商の途中にリベナ村に立ち寄った際にマルファ姉さんを見染めたそうだ。一目惚れってやつだね。アオハルだね~。


 四男のジーモン兄さんは、昨年から領主様のところで見習い文官として働き始めている。見習いだから給金は少ないようだけど、領主の家臣用の長屋は二食付きで家賃が安いと聞いている。

 ジーモン兄さんに今のところ浮いた噂はない。ジーモン兄さんは女性より本に興味を示す人だからね。女性関係は前途多難かな。


 五男のアベル兄さんは今年からリューベニックの騎士学校に入った。将来騎士になると言って苦手な勉強もがんばり、なんとか騎士学校の入試に合格して入学できた。勉強を教えた僕としてはあれでよく受かったものだと感心したものだけど、斧神の加護レベル二は貴重だからその点が考慮されたんじゃないかな。

 アベル兄さんはあのルークス村のことが心につっかえているようだ。それで唐突に騎士になると言い出したんだと思う。


 それから次男のゲッツ兄さんが死んだ。魔獣討伐を生業にするハンターになって三人でパーティーを組んで活動していたんだけど、その仲間と魔獣討伐の依頼を受けたはいいけど三人共帰って来なかったらしい。

 ハンターは命をかけて魔獣を狩る職業だから、死亡率は結構高い。僕もそのことは知っているけど、やっぱり身内が死んでしまったら悲しい。


 最後に長女のシャナン姉さんだけど……。家族全員が死亡して財産はともかく、さすがに名主を継ぐわけにはいかなかった。そこで生まれ故郷のこのリベナ村に帰ってきて、今は領主屋敷で働いている。

 元々文字の読み書きができたし計算もできるから、オリビアちゃんつきのメイドになって教師みたいなこともしている。オリビアちゃんが出かける時は、シャナン姉さんも同行することが多い。それはつまり、うちに入り浸るということだね。領主様も粋なことをしてくれる。

 ただ……あの日以来、シャナン姉さんは笑顔を見せたことがない。帝国は絶対に許せないよ。


 さて僕のことだけど、今では僕が倉庫のただ一人の主だ。中二階がこんなに広いなんて感じたことなかったよ。

 そんな僕もそろそろ将来のことを真剣に考える時期を迎えている。領主様からは魔法学校への入学を勧められている。それもいいかと思いつつ、あまり気乗りしない自分がいる。

 僕は何をしたいのだろうか? 帝国は許せないけど、だからと言って兵士として戦争をしたいとは思わない。でもそれ以外に何があるかと聞かれると、何も思い浮かばない。

 魔法使いの学校に入るなら、十二歳になる前―――つまり今年の後半に入学試験を受けることになる。入学試験の願書提出日までに、判断しないといけないんだよ。

 この世界は成人も早いけど、人生設計はもっと早くしないといけない。前世のように成人年齢を超えても、学生をするなんてあり得ない世界だ。


「ふー。僕は何をしたいのか……?」

「何かしたいことがなければ、私と一緒に来なさいよ」

 先程まで刀を振っていたオリビアちゃんが、後ろにいた。


 シャナン姉さんがオリビアちゃんの休憩用のお茶を淹れる。

「お嬢様。お座りください」

 シャナン姉さんが椅子を引き、オリビアちゃんに座るように促す。

 僕のようなあまり知識のない者から見ても、シャナン姉さんはメイドとしてなかなか優秀に思える。名主の家で一定の礼儀作法を学んだようだね。


 オリビアちゃんがお茶に口をつけたのを見て、質問をする。

「オリビアちゃんと一緒って、どこに行くの?」

「私は騎士学校に入るわ」

 騎士学校かー……。騎士学校というと、イメージは体育会系だよね。あの暑苦しい体育会系のノリは苦手なんだよね。熱血? 僕と真逆で、無理。


「騎士はちょっと……」

「何も騎士になれとは言わないわ」

「ん? どういうこと?」

「私の従者として、ついてきなさいってことよ。魔法学校に入学したっていいのよ」

「魔法学校はともかく、オリビアちゃんの従者は気苦労が凄そうだよね」

「私のような素直な子を掴まえて、失礼ね」

「いやいやいや、オリビアちゃんの従者なんてしたら、禿げる自信あるよ、僕」

 オリビアちゃんは頬をぷくりと膨らませた。可愛いのだけど、従者はないわー。お婿さんなら考えるんだけどね~。今でも美少女だけど、将来はもっと美人になると思う。それに竹を割ったよう性格も好ましいよね。オリビアちゃんのお婿さんになって、主夫しゅふをするのもいいか。甲斐甲斐しくオリビアちゃんの世話をして、帰りを待つ夫。やっぱ苦労しそうだな……。


「シャナンもついて来るし、アベルとマルファもいるわよ。リューベニックに姉が二人と兄が一人いるんだから、心強いでしょ」

「そりゃまぁ……」

 僕はマルファ姉さんに育てられたから、姉さんに会えるのは嬉しい。シャナン姉さんは僕と離れて寂しがるだろうし、アベル兄さんは無茶してそうだ……。僕もリューベニックに行くか……。しかしオリビアちゃんの従者はないわー。ないったら、ないわー。



+・+・+・+・+・+・+・+・+・+

応援お願いしますね

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る