第15話 2章・七歳編_015_来襲
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2章・七歳編_015_来襲
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装飾した皇龍火炎剣の鞘と柄もできあがり、やっと献上の日を迎えることができた。
「使い方は―――」
オリビアちゃんに説明したことと同じことを領主様にも。で、早速草原にやって来たわけですね。
数日前にオリビアちゃんが試し撃ちした場所には、くっきりと痕があった。そりゃーあれだけの状態だったのが、数日で消えるわけないよね。普通なら災害だよ、あんなの。
「これは……」
「領主様に献上する前に試し撃ちをした痕です」
「むぅ。なんとも恐ろしい威力のようだな」
真剣な面持ちの領主様自ら皇龍火炎剣を振るみたい。そういうのって、騎士さんに任せたりしないのかな?
「パパも楽しみにしていたのよ」
オリビアちゃんが耳打ちしてくれて、謎は解かれた。領主様もオリビアちゃんと同じ脳筋系の人のようだ。
「来たれ皇龍……おおおっ!?」
剣を天空に向けキーワードを言った領主様が、剣に巻きつく炎の龍を見て目をキラキラさせている。子供かよとツッコみたくなったけど、しないよ。
「はぁぁぁっ! 唸れ皇龍火炎剣!」
かけ声までオリビアちゃんと一緒だね(笑)
炎の龍は再び草原にその傷痕を残した。僕はせっせと水を撒く。後始末大事。火事ダメ、これ絶対。
僕が水撒きして戻ると、キャッキャッと騒ぐ領主様がいた。護衛の騎士たちに自慢しているよ、あの人。オリビアちゃんは間違いなく領主様の娘だね。
「ゴホンッ」
咳払いして取り繕うところも一緒だね。
「ランドー君。これはとてもいいものだ。家宝に相応しいというよりは、国宝級だと思うよ」
「喜んでいただけて、よかったです」
領主様は満足したようだ。これで僕のミッションは完了ですね!
領主屋敷に場所を移し、僕は今回の報酬をもらった。
ずっしりと重い革袋を、背嚢にしまい込む。いくらかな? 家に帰ったら確認しよーっと!
気づくと、いつの間にか季節は冬に入っていた。空っ風のような冷たい風が僕を容赦なく吹き飛ばそうとする。
先日、長女のシャナン姉さんに二人目の子供が生まれたと手紙が来た。それでシャナン姉さんの子供を見に行こうということになり、母さんとマルファ姉さん、アベル兄さん、そして僕の四人が、シャナン姉さんが住むルークス村へ向かっている。
姉さんはルークス村の名主さんの家に嫁いでいる。名主というのは数十から数百の家をまとめる公職で、世襲でもあるから前世で言うところの玉の輿だね。
ルークス村はオリビアちゃんのパパさん―――領主様が治める領地の中にある村で、僕が住むリベナ村よりは規模が小さいけど、名主さんの跡取り息子の奥さんだから藁の中に潜って寝る僕よりはいい暮らしをしていると思う。
これは僕の人生初の旅で、とても楽しみにしている。
僕がいつも薪拾いをする林を抜けると、小高い丘がある。その丘を越えた先にルークス村はあるらしい。歩きで半日の距離だけど、今日は荷馬車でルークス村に向かっている。泊まりだと気を使わせてしまうから日帰りにするんだって母さんが言っていた。
オリビアちゃんも一緒に来るとか言っていたけど、領主様がダメと拒否って実現してない。村の中を一人でウロチョロしているだけでも、かなり大目に見ているようだから今回は無理だった。
荷馬車の荷台で林の木々を抜ける風に煽られていると、視界がクリアになる。丘が見えた。九十九折で上っていき、丘を下りようとしたら煙が見えた。
最初は食事の支度や鍛冶工房のものだと思ったけど、時間はまだ午前中だ。この国の食事は朝夕の二回。朝は早く今朝食を作る家はない。そして夕食にしては早すぎる時間で、これもない。しかし僕たちが目指しているルークス村の方角からかなり多くの煙が立ち上っていた。
「何かおかしくない?」
「そういわれれば、煙があんなに……?」
母さんもおかしいと気づいたようだ。
丘を下りていると、村のほうから人々が駆けて来る。何か慌てているようだ。
「母さん!」
「あいよ!」
馬に鞭うち、荷馬車の速度を上げる。
駆けて来る先頭の人が「来るなーっ!」と叫んでいる。「帝国兵だ!」「早く戻れ!」と必死に叫んでいる。
「帝国兵だって!?」
「母さん、帝国兵って……」
マルファ姉さんが青い顔をしている。小刻みに震えていることから、これはマズい気がした。
帝国兵、正確にはアファメル帝国軍。
僕たちが住むタクレット王国の西にある国で、よく戦争をしているらしい。
領主様も二、三年に一回は出征しているとオリビアちゃんが話していいたのを覚えている。
でも領主様が治める土地は、国境からやや内陸にあって直接帝国軍に侵略されることはない。なんでこんなところに帝国軍がいるのだろうか? もしかしたら、すでに国境沿いで戦いがあって王国側が破れてしまったのだろうか?
母さんが荷馬車を止めて、方向を変える。
「母さん、行かないの」
「バカをお言い。帝国兵がいるルークス村に近づくわけにはいかないよ」
「でもシャナン姉さんが」
「シャナン一人のために、お前たちを危ない目に合わせるわけにはいかないんだよ」
母さんは迷うことなく判断した。でもその目を見れば、シャナン姉さんを助けに行きたいと思っているのは明らかだ。
「俺が行く!」
アベル兄さんが荷馬車から飛び降りた。
「アベル! 戻って来な!」
「俺なら帝国の野郎をぶっ飛ばせる!」
いやいや、アベル兄さんがいくら強くてもまだ八歳なんだよ。帝国兵がどれだけ進入しているか分からないけど、ダメだって!
「アベル!」
マルファ姉さんの悲痛な叫び声は、アベル兄さんを止めることはできなかった。
「僕が行って来るよ」
「およしっ!」
「でもこのままではアベル兄さんまで失いかねない。僕は大丈夫。創造神様の加護が僕を守ってくれるから!」
僕は荷台から飛び降り、アベル兄さんを追った。母さんとマルファ姉さんが僕の名前を呼んでいるけど、今はアベル兄さんを連れ戻す。できればシャナン姉さんを助け出すんだ。
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