第16話 2章・七歳編_016_反撃だ!

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 2章・七歳編_016_反撃だ!

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 村人が逃げ惑う中で、アベル兄さんを見失ってしまった。

 アベル兄さんを探しながら村に入ったけど、あちらこちらで火の手が上がっている。酷い……。

「アベル兄さーん!」

「アベル兄さーん!」

「アベル兄さーん!」

 何度もアベル兄さんの名前を呼ぶと、戦っている音が聞こえて来た。そちらへと向かうと、アベル兄さんが剣を持って鎧を着こんでいる人たちと戦っていた。


 三人の帝国兵に囲まれアベル兄さんは腕を切られた。

「アベル兄さんっ!」

 腕を切られたアベル兄さんが大きく後方に飛んで、帝国兵から距離を取った。

「ランドーか! 何しにきたんだよ!」

「兄さんを連れ戻しに来たに決まっているだろ!」

「バカ野郎! さっさと逃げろ!」

「そんなことできるわけないから追いかけて来たんでしょーが!」

 兄さんの横に。切られた怪我は大したことなさそうだ。治癒神様の加護を発動して、怪我を治す。


「ははは。麗しき兄弟愛か」

 帝国兵の一人がバカにするように言った。


「兄さん、痛くない?」

「剣も腕も鈍らだ。大した怪我じゃない」

 僕たちは帝国兵に構わず怪我の状態を確認し合った。


「かー、言ってくれるじゃないか。俺の腕が鈍らだと?」

 アベル兄さんの腕を切った帝国兵が怒った口調で、威嚇してくる。


「兄さん。その剣を貸して」

「いいけど、何をするんだ?」

 大人が使うような長めの剣を受け取ると、創造を発動させて剣を斧に作り替えた。無から有を創り出すのは結構骨が折れるけど、剣を材料に斧を創るのはそこまで難しくない。

 イメージとしては鍛造された斧。僕には刀の延長線でしか刃物を創れないからね。あの皇龍火炎剣などを創った経験のおかげで、刃物を創るのはかなり素早くできるようになった。


「これを使って」

「へへへ。こりゃーありがたいな」

 アベル兄さんは斧神の加護レベル二。剣ではその力を発揮できないからね。


「「「なんだそれはっ!?」」」

 帝国兵が剣が斧になってかなり驚いているけど、ここで種明かしするなんてことしないからね。


「兄さん。援護するから、ぶっ飛ばせ!」

 どうせアベル兄さんはこのまま帰らないだろうし、こうなったらとことんやるしかない。


「おう! てめーら、覚悟しろよ!」

「はんっ! ガキが舐めたことを!」

 アベル兄さんは八歳にしては大柄だけど、それでも容姿は子供だ。僕は言うまでもない。そんな二人が何かしても、帝国兵たちは勝てると思っているようだ。

 でもさ、この世界で加護のレベルは絶対的な差を生み出すんだ。もっというと、ステータス補正値はとても大きいんだよね。


「うおーっ!」

 アベル兄さんが飛び込む。

 僕も援護で風魔法のエアロスラッシュを撃つ。僕のエアロスラッシュは、帝国兵の一人の足を完全に切断した。

「ぎゃぁぁぁぁぁっ」

「ちっ、やりやがったな!」

「ガキどもが!」

「うっせーんだよ、この雑魚兵士がよっ!」

 アベル兄さんの斧が一人の腹部を抉り、動きを止めずにもう一人の足を断ち切った。

「ぎゃぁぁぁぁぁっ」

 足を断ち切られた兵士が叫ぶ。腹部を抉られた兵士は声を出すどころではなく、内臓が零れ落ちている。結構スプラッターで目を逸らしたくなる光景だ。

 鎧を穿ち、内臓をぶちまけるほどの威力はさすがに斧神の加護レベル二だね。


「ランドーやるじゃないか」

「兄さんこそよく接近戦ができるね。怖くないの?」

「怖いわけねーよ。あいつらは害虫なんだよ。害虫を潰すのが怖いか、お前?」

「あー、なんか分かるわー」

 農家にとって害虫はブチブチ潰す対象。前世のような農薬がないこの世界では、それが普通なんだ。


「姉ちゃんを探すぞ、ランドー」

「うん」

 もう逃げ出して無事かもだけど、そんな保証はどこにもない。

 僕と兄さんは帝国兵を無力化しながら、シャナン姉さんを探した。


「エアロスラッシュ」

 僕のエアロスラッシュは帝国兵の金属鎧を貫通して足を切断する。普通のレベル一の加護だと、ここまでの威力はない。

 でも僕には三百五十もの神々の加護があり、その補正値は常識外れの数値になっている。加護がレベル一でもその常識外れの補正値のおかげであり得ない威力になっているんだ。しかも風神などの風に関する神々の加護で風の威力が上がっているのも大きいだろう。


「死ねや、この野郎!」

 ガツンッと鈍い音を立てて、アベル兄さんも帝国兵の腕や足を断ち切る。たまに内臓が飛び出したり、首がチョンパされる。斧を持たせたらさすがの強さだ。


 僕やアベル兄さんの攻撃で足や腕を失った帝国兵はすぐに止血すれば死なない。止血できればだけど、戦争というのは殺すよりも怪我をさせたほうが継戦能力が下がるとラノベバイブルに書いてあったのを思い出した。

 だから大怪我をさせて放置する。死ぬか生きるかは、彼らの運しだい。そして生き残れば、それだけ帝国軍の継戦能力を奪う。

 怪我人を介抱するための人員や薬品などの物資を無駄に消費させる。自分ながらゲスなことをしている気がするけど、そもそも攻めてきたのは帝国なんだから知ったことではない。


「お前たち、なかなかやるじゃねぇか」

 僕たちの前に派手な赤い鎧を着た帝国兵が現れた。多分、指揮官だと思う。


「貴方が指揮官ですか」

「おう、俺がこの部隊の部隊長のサンラーラ=フォン=ラーベン子爵だ。階級は少佐だ」

 兜のマスクを上げていている。年齢は三十前くらいかな。兜から赤毛が見え隠れしている。

 顔は見えるけど、この人の表情は読みにくい。場慣れしている人のようだ。厄介だな。


「僕はランドーです」

「俺はアベルだ」

 ラーベン子爵が名乗ったから自己紹介しておく。一応、礼儀としてね。


「なんでこんな酷いことをしているんですか?」

「酷い? お前たち子供には分からないようだが、我が帝国と王国は長年争っているんだぜ。敵国の国力を下げることで、帝国は有利に戦える。そういうことだ」

 言っていることは分からないでもない。でもやられた身になれば、それを受け入れるなんてできないよ。


「僕たち二人を相手に勝てる見込みはないですよ」

「かもしれねぇな」

 素直に戦力差を受け入れるんだね。やっぱり場慣れしているんだと思う。このまま素直に引き上げてくれると助かるんだけど……。


「だがよー。あれを見ろよ」

「「あっ!?」」

 僕とアベル兄さんの声が揃った。


「この村で捕らえた百人だ。お前たちが俺を攻撃したら、あの百人は容赦なく殺せと命じてあるからな」

「ぐぬぬぬ」

 アベル兄さんの歯ぎしりが聞こえる。僕も歯ぎしりしたい気持ちだ。

 ラーベン子爵はニヤリと厭らしい笑みを浮かべた。嫌な予感がする。



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