第11話 2章・七歳編_011_リバニア草

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 2章・七歳編_011_リバニア草

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「相手に不足なし!」

 オリビアちゃんはバンッと両手で頬を叩き気合を入れた。かなり派手な音がしたけど、痛くないのかな?


 オリビアちゃんが抜いた刀の身がキラリと光る。僕の全てを注ぎ込んで創造した刀だ。

 触ると剃刀のように斬れるくらい鋭い刃は四十五センチメートルと短いけど、これくらいが七歳のオリビアちゃんに丁度いい長さなんだよね。


「ブモォォォォォォォォォォォッ」

 空気が震える。その振動で木から緑の葉が激しく落ちて来る。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」

 オリビアちゃんも負けずに雄叫びを発し、イノシシの魔獣を威圧する。

 イノシシは二歩後ずさった。マジで? あんな大きな魔獣に気合で勝ったの? オリビアちゃんスゲー。


 魔獣が前足をかく。その度に土がめくれ上がって、穴ができた。フンッと鼻を鳴らし、体勢を低くする。

 ズドンッと地面を蹴り、先に仕掛けたのはオリビアちゃんだった。魔獣に合わせる気はまったくないようだね。


「はぁぁぁっ!」

 一瞬で間合いを詰めたオリビアちゃんの刀が、魔獣の毛皮を斬り裂く。鋭い切り傷から血が噴き出した。


「ブモォォォォォォォォォォォッ」

 怒った魔獣が口から火を噴いた!? イノシシって火を噴くの!? 冗談のような本当に、僕は呆けてしまった。

 炎のブレスは地面や木々を焼き、森の中の温度を数度上げた。生木を焼く煙が激しく立ち上り、息苦しさを感じる。


 腰が引けている情けない僕とは違い、オリビアちゃんは大きくジャンプして空中で身を翻して華麗に魔獣の上に着地。同時に刀をその背に突き刺した。


「ブモォォォォォォォォォォォッ」

 魔獣が痛みによって激しく暴れ、地震のように地面が揺れる。大木の根が地面から飛び出すほどの揺れに、僕は尻餅をついた。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 激しく揺れる魔獣の背に刀を刺したままオリビアちゃんは走った。刀は魔獣の背を軽々と斬り裂いているけど、あれはオリビアちゃんだからできることなんだと思う。


「ブモォォォォォォォォォォォッ」

 魔獣が可愛そうになるくらいに痛そうな光景に、僕は身震いする。


「斬り裂け! スラッシュッ!」

 魔獣の背から刀を抜きジャンプしたオリビアちゃんは、空中で刀を鋭く振った。その刀から鋭い斬撃が飛び、魔獣の首に吸い込まれる。

 スラッシュはオリビアちゃんが前世の知識を元に作り出した必殺技で、普通の剣士にこんなことはできない。彼女がすでに剣士よりも上の剣豪の域に入っているからできる技らしい。


「………」

「………」

 着地したオリビアちゃんが油断なく刀を構えると、魔獣の首に大きく線が走って大量の血飛沫を発した。魔獣の赤い瞳から力が抜けていき、光が失われる。

 ゆらり……ズドンッ。魔獣が倒れた振動がお尻に伝わってきた。


「ふー……」

 オリビアちゃんは残心を解き、振り返って僕にニコリとほほ笑んだ。その笑みは可憐な少女のものであり、魔獣を一人で倒すような強者のものとは思えないほどのあどけなさがあった。


「凄すぎるんですけど……」

 初めて魔獣と戦ったんでしょ? なんでそんな当たり前のように倒せるわけ? 加護が強いだけじゃなく、何よりも精神力強すぎだよ、オリビアちゃん。


 僕ではとてもできないようなことをオリビアちゃんはする。日頃の努力もそうだけど、メンタルがタフだからこそできることなんだと思う。本当に尊敬するよ。


「この魔獣、持って帰れないかな? 魔獣の肉は滋養強壮があるらしいから、治った後のママに食べさせてあげたいんだけど」

 魔獣の肉は滋養強壮があるだけじゃなく、何よりも美味しい。しかも魔力を大量に含んでいるから、摂取すると体が丈夫になるだけじゃなく魔力が上がるとジーモン兄さんが言っていた。

 僕たちが探した薬で病気が治ったオリビアちゃんのママさんが食べるには丁度いい食材だね。


「分かったよ、ちょと待ってね」

 時空神の加護を発動させて、魔獣を異空間へ収納する。これだけ大きな魔獣を収納するのは、加護レベルが一の僕には凄く大変なんだ。加護レベルが低いと収納できる容量は少ないからね。

 でもオリビアちゃんの想いが詰まっているし、彼女の初討伐の獲物だから気合を入れて収納したよ。


 探索を続けようと、リバニア草がある方角を……。ん、これは……。

 オリビアちゃんと魔獣の戦闘で酷く荒れた場所から少し離れた場所にそれはあった。

「リバニア草だ」

「本当に!?」

 挿絵と同じ形をしているし、色も表記にある濃い緑色だ。

 資料に記載されている特徴をしっかり確認して、間違いなくリバニア草だと確信した。

 魔獣の炎のブレスに焼かれなくて良かったー。

 慎重に採取して袋に優しく入れ、これも異空間に収納した。お腹いっぱいのところにさらにお菓子を詰め込んだような感じだけど、なんとか収納。


「ちゃんと収納したよ。さあ、帰ろう」

「うん!」

 僕たちは急いで村へと向かった。途中でネズミの魔獣と遭遇したけど、オリビアちゃんが瞬殺した。イノシシの魔獣に圧勝するオリビアちゃんの敵ではなかった。


「ごめん。もう収納できないんだ」

 ネズミの魔獣は中型犬より少し大きい三十キロくらいかな。それさえ入らないほど、僕の収納はいっぱいなんだ。


「無理をさせているのは私のほうだから、謝らないでほしいわ。私の方が感謝しているんだから」

 ネズミの魔獣の死体は、アンデッド化しないように焼いていく。魔獣の死体を放置するとアンデッドになるのは、僕でも知っていることだからね。

 しかもアンデッド化した魔獣はさらに強くなるから、とても厄介な存在だ。だから死体を放置できない。


 村に辿りついたのは夕方だった。

 オリビアちゃんと僕の姿が見えないから、騒ぎになっていて僕はとても気まずい思いをした。

 それでもオリビアちゃんはリバニア草を領主様に差し出して、早く薬を作ってほしいと迫った。メンタルが強すぎるよ、オリビアちゃん……。


 その日、僕は両親(主に母さん)にコンコンと説教された。

 子供が二人だけで森に入ったのだから、甘んじて受け入れる。でも皆に心配をかけたのは申しわけなく思うけど、後悔はしていない。それでオリビアちゃんのママさんが助かるなら、僕はいくらでも説教をされるだろう。



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