第12話 2章・七歳編_012_領主様がやって来た

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 2章・七歳編_012_領主様がやって来た

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 森に入った翌日。僕は朝のルーティンワークを行ったけど、今日は倉庫の中で軟禁状態。しばらくは外出禁止になってしまったんだ。


 ジーモン兄さんが倉庫の入り口で椅子に座って本を読んでいる。母さんの命令で僕を見張っているんだよ。


 ルーティンワークの時はアベル兄さんが僕を見張る役目だったけど、ガサツな兄さんは適当にやっていた。それでも母さんの目がある家のそばでは、しっかり僕を見張っているよとアピールしていたけどね。


 多分オリビアちゃんも同じ状態だと思うから、今日は外に出ることはないだろう。


「ねえ、兄さんは成人したらどうするの? やっぱり領主様のところで働くの?」

 ジーモン兄さんは本から一瞬目を離したけど、すぐに戻した。


「そうだね。領主様のところで文官見習いをするか、あとはリューベニックに行って働き口を見つけるかのどちらかだと思うよ」

 リューベニックというのは、この村から徒歩で十日くらい離れた場所にある大きな都市だと以前聞いた記憶がある。大都会らしいけど、僕は行ったことないからよく分からないや。


「今のところ領主様のところが一番濃厚かな」

 そう言ってジーモン兄さんは苦笑する。なんで苦笑?


「ランドーがオリビアお嬢様と仲がいいのはいいけど、怪我でもさせたら僕は領主様のところで働けなくなる。そう思ったら、今の内にリューベニックで働き先を探したほうがいいのかな」

「うっ……」

 なんとも返事に困ることを言われてしまった。今回はオリビアちゃんに怪我はなかったけど、あんなことをしていたらそのうち怪我をしてもおかしくないんだよね。自粛しますです、はい。


「ランドーは将来どうするか決めているのかい?」

「僕? 僕は……お金持ちになることかな」

 風呂とトイレがある家に住みたいから、お金持ちになるつもり。でも具体的に何をするかはまだ決まってないんだよね。

 前世で十七年も生きていたけど、やりたいこととか夢は特になかった。こっちでは風呂とトイレという目標があるだけマシなのかもね。


「ふふふ。お金持ちか。ランドーならなれると思うよ」

 ジーモン兄さんは声を殺して笑っている。そんなに笑うことないじゃないよ。もう……。


「ジーモン! ランドーを連れて来てー」

 母さんの声だ。

「母さんが呼んでいるね。行こうか」

「うん」

 なんだろうか? 僕、今日は何もしてないよ?


 家に入ると、なんとそこにはオリビアちゃんがいた。かなり真剣というか、神妙な表情だ。

 その横には淡紅藤色の髪に金色の瞳のナイスミドルもいた。その金色の瞳はまさにオリビアちゃんと同じものだ……つまりオリビアちゃんのお父さんです。パパさんです。領主様です。


 まさか「お前がオリビアを森などに連れ出した野郎か! 縛り首にしてやる!」と殴りこんで来たの!? ヤバい、ヤバい! 僕、縛り首になりたくないよ!


「ランドー君。そこに座ってくれるかな」

「ひゃ、ひゃいっ!」


 オリビアちゃんがくすりと笑ったような気がした。でも今の彼女は真面目くさった表情をしている。

 僕は死刑宣告されるんだよね? 嫌だ、逃げていいですか!? でもどこに逃げよう? こんな子供が一人で逃げ出したら路上生活まっしぐら! あー、僕はどうすればいいのだろうか……。


 いやいやいや、そもそも僕が逃げたら家族はどうなるの? 僕への見せしめに、全員斬首されて三条河原にさらし首になってしまうよ! それだけはダメだよ。僕のために家族を犠牲にするのはダメだ。死ぬのは嫌だから奴隷くらいで勘弁してもらえないだろうか? 誠心誠意領主様に訴えれば、情状酌量してもらえないだろうか。


「君がオリビアを―――」

「すみませんでした! 死刑だけは勘弁してください!」

「「「………」」」

 僕はジャンピング土下座を決めた。


「なんでも言うことを聞きます! 勝手なことを言っているのは分かってます。責任は僕にあるのであります。僕を奴隷にしてくださっても構いません。ですから家族は赦してもらえないでしょうか!」

 床に額を擦りつけて赦しを請う。僕にはこれしか思いつかない。


「ぷっ……アハハハハハハ」

「え?」

 なんか笑われてます? しかもこの声はオリビアちゃん?


「何か勘違いをしているようだな、ランドー君」

「ええ?」

 今度は領主様の渋い声。


「ランドー。あんたねぇ……。ほら、立ちなさい」

 母さんがヒョイッと僕を持ち上げて立たせ、額や足などについた埃を払う。


「ランドー。いくらなんでも飛躍しすぎな考えだと思うよ」

 ジーモン兄さん?


「えええ?」

「ほら、ここに座りなさい」

 母さんに無理やり座らされた。


「言っておくが、ランドー君を死刑にしようなどとは考えてないぞ」

「はい?」

「今日は君にお礼を言いに来たのだ」

 オリビアちゃんがウンウンと頷いている。

 僕はオリビアちゃんと領主様の顔を交互に見る。


「えー、そうなのー? なんだ、心配して損したー!」

「こら、ランドー!」

「はい!」

「領主様の前なんだから、失礼な態度はとらないの!」

「はい! 申しわけございませんです!」

 母さんに叱られて慌てて頭を下げたらテーブルに額を打ちつけた。痛いっす。涙目っすよ。


「話を進めるが、いいかね」

 領主様は少し呆れ顔? そんな領主様にお詫びして、話を進めてもらう。

 母さん何してるの、領主様にお茶をお出しして。え、そんな高級なものはない? そういう時は買ってきなさい! え、調子に乗るな? すみません。


「先ずはオリビアが君を無理やり森に連れて行ったことを謝罪しよう。この通りだ」

 領主様が頭を下げた。

 僕があたふたしていると、母さんが頭を上げてと言う。


「さらにリバニア草を探し当ててくれたとか。おかげで妻が助かった。本当に感謝している」

 領主様は再び頭を下げた。

 僕と母さんで頭を上げてと頼む。この領主様、頭下げ過ぎ。こっちの身にもなってよね。貴族なんだから胸を張って「よくやった!」でいいんだけどなー。


「最後に」

 え、まだあるの!?


「あのイノシシの魔獣のことだ」

 あー、あれね。あれは村に入る前に、収納から出しておいたんだけど、ちゃんと回収してくれたようだね。


「あれほどの魔獣ともなれば、毛皮、肉、骨、牙、どれもが貴重だ。そこでランドー君はどの部位がほしいか言ってくれるか」

「あれはオリビアちゃ……様が一人で倒したものですから、僕は何も……」

 僕はオリビアちゃんと魔獣の戦いを見ていただけだから、何かをもらおうなんて思ってませんよ。


「魔獣を討伐した際は、領主が税として三割をもらう。これはいいね」

「あ、はい」

「ランドー君とオリビアで残りの七割を分けることになる。お金に換えると言うのであれば、商人に買い取ってもらう。オリビアは君の判断に任せると言っているが、どうかね?」

 あの魔獣を倒したのはオリビアちゃんだから、僕がお金をもらうのはあれだよね。


「それじゃあ、オリビア様の分を除いて、村の皆で分けてください。できれば肉を分けてもらえるといいかなと思います」

 皆で美味しく肉をたべよう!


「それでいいのかね? 大金になるんだぞ」

「いいです。僕は本当に何もしてないのですから」

「分かった。そのように手配しよう」

 よし、話がついた。あー、緊張したなー。


「そうそう、オリビアが大層いい剣をもらったそうじゃないか。そのお礼をしなければな」

 え、そんなのいいですよ。


「魔獣の皮を軽々と斬り裂く剣らしいね。それほどの剣をただでもらうのはさすがにいかないから、これを受け取ってもらえるかな」

 革袋がスーと差し出された。もしかしなくてもお金だよね?

 こんなのいただいたら、後が怖いから要らないんですけど。


「これはどうも、ありがとうございます。ほら、ランドーもお礼を言いなさい」

 母さんが革袋を引き取っていった。え、そういうシステム?

 すでにお金は母さんの懐に。もうお断りできないですが……。



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