第6話 1章・転生編_006_転生者でしょ?
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1章・転生編_006_転生者でしょ?
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僕の家は小さいけど、庭だけは広く倉庫もある。
長男のベルトン兄さんと次女のマルファ姉さん以外の子供―――男四人は倉庫の中二階で寝ている。
今日も中二階の藁の中に潜り込んで、小さな窓越しに月を見た。
この世界の月はちょっと歪な形をしていて、瓢箪型なんだよね。しかも季節によって色が変わり、春は緑、夏は赤、秋は黄、冬は青色をしている。今は春から夏に変わる時期で緑色に鈍く輝いている。
元の世界では考えられない形と色の月に、僕は願いを込めて祈る。努力を惜しまず精進します。どうか僕を見守っていてください。
「おい、ランドー。お前、可愛い彼女ができたんだってな!」
父さんによく似た三男のフーベルト兄さんが、僕を揶揄ってくる。
フーベルト兄さんは森神の加護レベル一を授かっている。森神の加護は森の中にいることで効果があるから、農閑期になると毎年近くの森に入って薬草採取や狩りをしている。
「彼女じゃないよ、友達だよ」
「お前はボーっとしているんだから、しっかりした子がいいと母さんが言っていたぞ。その子はしっかり者か?」
「まだ五歳なのに何を言っているのさ。それよりもフーベルト兄さんのほうはどうなのさ、ルールーシーさんと」
「バカ! 俺とルールーシーはなんでもないぞ!」
慌てるところがなんでもあると言っているんだよ、フーベルト兄さん。
「僕とオリビアちゃんもなんでもないよ」
僕は慌てず否定しておく。
ふふふ。これでも前世十七歳だからね。フーベルト兄さんよりも大人なのです!
「いいなー、ランドーは。俺も可愛い幼馴染がほしいぜ」
そう言うのは五男のアベル兄さんだ。
「僕と一歳しか違わないんだから、アベル兄さんもオリビアちゃんと友達になればいいじゃないか」
剣神の加護レベル三のオリビアちゃんと、斧神の加護レベル二の二人なら気が合いそうだよ。
「弟の彼女を取るなんてできるかよ!」
「いや、彼女じゃないし……」
さっきから皆してオリビアちゃんを彼女扱いするのはなぜ? オリビアちゃんは領主様の娘さんだから、身分が違うんだからね。
しかもアベル兄さんは、幼馴染イコール彼女なんだね(笑)
「明かりを消すから、早く寝ちゃいなよ」
四男のジーモン兄さんは本をパタンと閉じてロウソクの火を消した。
夜に本を読むのに光が必須だから、ロウソクの管理はジーモン兄さんがしている。
ジーモン兄さんは農民の子では珍しい書物神の加護レベル一を得ている。書物は名主さんやオリビアちゃんのお父さんの領主様から借りて読んでいるんだ。
書物は結構高価なものらしく、うちのような農家では買えなんだって。僕はそんなジーモン兄さんに文字を習ったおかげで読み書きはできるようになっている。
この家で読み書きができるのは、母さんとジーモン兄さん、そして僕の三人だけ。嫁に行った長女のシャナン姉さんも文字の読み書きはできたけど、他の家族は文字の読み書きはできない。
農家で文字の読み書きできるのは珍しいことらしく、誰も不思議に思っていないんだよ。
僕は藁の中に入り直し、目を閉じた。
明日も物質の創造をがんばろう。おやすみなさい。
あれからほぼ毎日オリビアちゃんが家にやって来る。
僕は物質創造、オリビアちゃんは木刀を振りまわす毎日だ。
彼女はスカートを穿いているから、時々下着がチラリと見える。僕はロリではないが、美少女のそれはそれで眼福だ。
さて、夏も本番になって毎日暑い。多分三十度にギリギリ達してないくらいだろうか。そんな日々が続いている。
気温は前世程じゃないけど、エアコンも扇風機もないから夏の暑さを凌ぐのは大変だよ。
梅雨はないけど、雨は適度に降る。特にこの季節は通り雨が多く、雨が降ると気温が下がって助かっているよ。
僕とオリビアちゃんは、近くの小川に来ている。僕が毎朝水を汲んでいる小川で、子供の膝上くらいの深さしかないし、雨が降ったあとでも股下くらいの深さしかないから溺れる心配はない。
二人で水の中に足をつけて涼んでいると、小魚が跳ねた。長閑な光景に、心が和むね。
ふと彼女の木刀を見ると、柄の部分が赤黒く変色していた。あれはマメが潰れた手で握っているから血が染みついているんだろう。彼女の剣に対する姿勢がストイックすぎる。
これで剣神の加護レベル三なんだから、将来どれほど凄い人になるんだろうか。
「ねえ、ランドー」
「何?」
「将来の夢ってある?」
「将来の夢……」
なんというかアオハルのような質問だね。前世はそういうことに無頓着に生きていたけど、この世界では違う。今の僕には夢がある!
「うん、あるよ」
「どんな夢?」
「風呂とトイレがある家に住むこと」
「……ぷっ。あはははは」
きょとんとした直後に噴き出して大笑いされてしまった。でもこればかりは前世の記憶を引きずっているんだよね。
「何それ、おかしい、あははは、やだ、笑い死ぬ、冗談じゃないの? あははは」
「僕は本気なんだけど……」
オリビアちゃんは一頻り笑い、指で涙を拭いた。涙流すほど笑うかな、人の夢を。
「ごめん、ごめん。風呂とトイレは私も大事だと思うわ、ほんと。そんなランドーは転生者だよね!?」
「え?」
「薄々そうじゃないかなーって思っていたのよ。あの飛行機事故の後、私は剣神から加護をもらってこの世界に転生したわ。ランドーもあの飛行機事故で死んだんでしょ?」
飛行機事故のことを知っているってことは、オリビアちゃんは間違いなく転生者だ。こんなに身近に転生者がいるなんて、偶然なのかな?
「転生のことは誰にも言ってないわ。ランドーもそうでしょ?」
「あ、うん。誰にも言ってない」
「それでいいと思うわ。下手に知られると、面倒だからね。そいうことは」
面倒というか、知らせる必要性を感じてなかっただけなんだけど……。
「でも転生者なのに、なんで創造神の加護がレベル一なのよ? 皆レベル三の加護じゃないの?」
オリビアちゃんは首を傾げて違うのかなと言っている。
「多分、僕以外の人は皆レベル三の加護だと思うよ」
「は? なんでランドーは違うの? まさか神様に喧嘩売っちゃった?」
「喧嘩を売るどころか、忘れられていたんだ」
「はぁ?」
僕はあの時のことを話した。
「え? そんなことがあるの? しかも加護が三百五十個もあるなんて、チートじゃない!」
「全部レベル一の加護だから、レベル三の加護には敵わないよ」
「そんなことないわよ!」
か、顔が近いんですけど……。
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