第七話 不可侵領域
「よし。中に入ったな」
ロビーから外に出てすぐの場所に、真っ黒な筒状の乗り物があった。
メギドさんがそれに乗るように言ってくるので泰久達はその乗り物に乗り込んだ。
そしてメギドさんは全員が乗っていることを確認し、自身の手を空中に這わせる。
すると、ウヴン、と小さな音がした。
「あ、あの……今何をしたんですか?」
清水が聞くと、眉をひそめながらメギドは答える。
「単に基盤を操作しただけだ。知りたいんなら帰ってから汎用人格にでも聞け」
メギドがそう言うと、清水は黙る。
「清水くん……多分あの人今不機嫌だからあんまり下手に話しかけない方が良いと思うよ」
泰久は小声で清水に答える。
「いや……それは何となく分かるんだけど……やっぱり気になるし……」
清水はそう答えた。
鳴っていた小さな音が一旦止まってから、今度はそれよりも少し高い音が鳴り始める。
「ああ。今からは俺が許可を出すまで立つなよ?危ないからな?」
メギドはそう言って、立とうとした光沢を静止する。
「あの……どうしてですか?何か危険なことが起こるんですか?」
今度は光沢がそう聞いた。
「あの……もし危険なことがあるなら神歌だけでとここから退避させられませんか?少し無理なことなのかもしれませんけど、どうか……」
そこに板倉が続く。
「いや待ってくれ凛。他の皆が危険な場所に居る中で僕だけが安全な場所で待つなんてできない。あくまでここが危険だという前提の上だけど、少なくとも、全員が安全な場所に戻るまでは……」
二人がそう話していると、メギドさんが壁を叩く。
ズガン、と爆発音が聞こえて壁が凹む。
「あのな……人が説明するより先に話すな。とにかく座ってろ」
凹んだ壁が高速で修復されて元に戻ると同時にメギドさんも椅子に座る。
(この人……もしかして人間じゃ無いのか?それこそ、この前聞いた【超人】っていうやつなんじゃな……)
泰久は椅子に座りながらそう考える。
座っていると、徐々に自分の肉体に掛かっているGが増えていっていることに気が付く。
(不思議だな……)
今まで掛けられたことが無い程大きな力を身体に掛けられても、泰久の体は何一つ悲鳴を上げなかった。
(この理由が、僕が【超人】っていうやつになっているからなのかについてはまた今度レイアさんに聞いてみよう)
暫く待っていると、身体に掛かるGの大きさは徐々に小さくなっていった。
「……よし。もう動いていいぞ。」
メギドさんがそう言うと、みんな少し体を楽にする。
「あの……今少し質問しても構いませんか?」
光沢がそう聞いた。
メギドは、今度は少しだけ不機嫌な雰囲気を緩めて話を聞く。
「何だ?」
「先程、俺達の身体にかなりの力が掛かったんですけど、何が起こったんですか?」
すると、メギドは答える。
「今俺たちが乗っているのは
そして、少し眉をひそめながら言う。
「だからさっき座れって言ったんだろうが。別にお前等を殺す気は無ぇんだから一々変に反抗して自体をややこしくするな」
(あ、また不機嫌に戻った)
泰久はメギドの雰囲気がもとに戻ったことを察して姿勢を正す。
隣では、清水が少ししゅんとしていた。
「ま、この車がスピードを出すとは言え不可侵領域までは随分と距離がある。多分二時間くらいはかかるだろうな」
「二時間ですか……」
板倉が呟いた。
「あ?なんか言うことがあんのか?」
メギドが喧嘩を売るようにそう言った。
「いえ……ただ、不可侵領域までの距離が分からないので今一イメージしにくいだけで……」
板倉は弁解するようにそう言った。
「そうか……なら別に構わねぇ。二時間は二時間だ。多少のズレは有るかもしれねぇが、大枠は変わらねぇはずだ」
そこまで言って、何かを思い出したように付け加える。
「俺は向こうの部屋に居るから何かあったら入って来て伝えろ。それと、到着まで残り三十分になったらやることが有るから、お前らの間での話やら何やらはそれまでに済ませておけ」
メギドは壁に向かって歩いていくと、そのまま壁に吸い込まれて何処かへ消えた。
「「「「「「……」」」」」」
この世界にある超技術の一端を見た気がして、六人は黙り込む。
「えっと……さ」
沈黙を破ったのは板倉だった。
「皆で何か、パーティーゲームみたいなの、やらない?」
その場の人達は黙る。
「……そうだね。まだ話したことが無い人同士だって居るだろうし、これを気に……って感じで」
少しずつ、一人ずつ動き始めた。
――――――――――――――――――――――――
「よし。時間だな。それじゃあ降りる前に説明しとかなきゃならんことを話しておくぞ」
メギドが六人の居る部屋に入ると、その六人は両手でグーを作り、それを降って行う奇っ怪なゲームを行っていた。
「……何だソレ?」
メギドが聞くと、板倉は答える。
「『ホウレンホウゲーム』ですよ。メギドさんも一緒にやります?」
六人は幾つものゲームを通して、少しだけ仲良くなっていた。
友人、とまでは言わなくとも、知り合いと言っても差し支えがないレベルには。
「時間だと言っただろう。そのゲームはキリが良いところで切り上げて、話を聞け」
六人はすぐにホウレンホウゲームを止めて、話を聞く体勢に入る。
「お前等は今から危険地帯に行くわけだ。だから、今のように丸腰のまま向かうとすぐに死んじまう。ってことでこれを使え」
そう言ってメギドは壁に手を突っ込み、数本のプラスチック製に見える筒を取り出す。
それを一本ずつ泰久達に配った。
「こいつは簡単に言うと剣だ。とある操作をするとエネルギーの刃を生み出す」
そう言われて清水が筒を操作しようとするが、それをメギドは強めに静止する。
「止めろ。それは絶対に室内で使うな。まあ、使わねぇと死ぬような事態なら構わんが、少なくとも今は使うな」
それに驚いて、清水が手の動きを止める。
「はぁ……この様子だと今その筒―
その言葉に板倉は意義を申し立てる。
「待って下さい!向こうは危険地帯なんですよね?そして、この簡易剣は自衛手段なんですよね?」
「ああ、そうだ」
事もなげにメギドは答える。
「だったら、一秒でもこれが使えない時間があるのは危険ではないですか?」
板倉の異議に対してメギドは冷めた目で返す。
「お前は馬鹿なのか、俺を舐めてるのか、それとも俺を選んだやつの眼を舐めてるのか、どれだ?」
「え?」
板倉は少し行動を止める。
「あのな、そんな危険地帯に向かう時の護衛が俺一人の時点で察しろ。お前等っていう
「でも、それならこんなもの渡す必要が……」
板倉は食い下がる。
「保険ってやつだよ。万全の備えをしていても万が一の事はある。ただ、万が一ってのは万が一でしかない。俺の判断では、その僅かなリスクよりもお前等が俺の話を聞かずに簡易剣を勝手に起動させてこの車の内側を壊すリスクの方が大きいって判断しただけだ」
「……そんなに、信用無いですか、私達」
板倉は俯き加減で聞いた。
「逆に信用される要素が無ぇだろ。乗り込んで俺が説明する間もなく即文句っていう態度で信用されるって思ってる方がイカれてるぞ。ああ、勿論悪い意味でな」
板倉はついに何も言わなくなった。
十代の少女が何も言えない様子を流石に少しは可哀想に思ったのか、メギドはフォローのような言葉を付け加える。
「まあ、あれだ。ちゃんと向こうに着いてから暫くは守ってやるから安心しろってことだ。自衛の手段を教えるのはそれからでも問題無い」
車内に沈黙が重くのしかかる。
(そっか……僕達、信用されてないのか……どうやったらこの人に信じてもらえるのかな……?)
泰久は脳内で幾つか案を考えるが、どれも上手く行かないとしか思えなかった。
(まあ、ちゃんと相手の言うことを守って、話をちゃんと聞いて、って言う感じにちょっとずつ信用を積み重ねていくしか無いんだろうな……)
輸送者はそのまま静かに不可侵領域に入っていった。
――――――――――――――――――――――――
「よし。それじゃあまず最初に電源の入れ方を説明するぞ。まずは筒のうち、凹みがある方を上に向けろ」
車から降りた僕たちは、指示に従って筒を操作する。
「よし。そのまま上に向けたままだぞ。絶対に向きを変えるな。向きを変えずに、筒底を押せ」
その指示に従って、みんな筒底を押していく。
底を押された筒から、光が生えてきた。
「うわっ!何だコレ?!」
驚いたのか、清水が少し叫ぶ。
「その刃には触れるな。もし触ったら指ごと焼き切れるぞ」
気になって触ろうとしていた泰久は慌てて手を引っ込めた。
「その刃の部分は特殊なレーザーになってるからな。大抵の物は触れるだけで破壊できる。だから取り扱いには細心の注意を払え」
皆の簡易剣を扱う手付きが丁寧なものになった。
「あ、あの……そんなに危険なものならどうしてなんの資格も無い僕達にそんなものを……」
「俺の権限でどうにかした。そもそも【安全な】装備でこんな所に来てもすぐに死ぬだけだ」
泰久が質問すると、メギドさんがそう返す。
「じゃあどうして俺たちみたいな素人をそんな場所に連れてきたんですか?」
光沢が質問した。
メギドは少し苛ついた様子を見せながら光沢の質問に答える。
「そんなもん俺が知るか。文句があるってんならこれを決めた
メギドははっきりそう言い切った。
その後、メギドは泰久達が簡易剣の使い方を学ぶ時間を取った。
「よし。もう十分確認したな?それじゃあ少し休憩してから
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