第六話 ザ・出発

「いやいや……判明しなかったって……それ、って事じゃないんですか?」


 泰久は不思議そうな表情でそう聞く。


「いえ、確かに特異能力に該当する因子は発見できたのですが、その詳細が判別できませんでした。申し訳ございません」


 レイアは頭を下げてそう言う。


「あ、いや、別に攻めたわけじゃなくて……とにかく、僕にはその『特異能力』っていうのがあるんですか?無いんですか?」


「あります。しかし、それが何なのかまでは判別できませんでした」


 レイアは断言する。


「何だ、それなら別に大丈夫です。何なのかはまたゆっくり調べていけば良いでしょう」


 泰久は安心したようにそう言う。


「えっと……それで、他のデータとかはあります?今回の身体検査で調べたことって、その【特異能力】に関することだけじゃ無い……ですよね?」


 泰久はそう尋ねる。


「はい。その他にも様々な身体データや『魔素』量のデータを採ってあります」


 泰久は、知らない単語が出てきたことに少し困惑する。


「その……魔素?って何ですか?」


 泰久はそう聞く。

 

「まあ、何となくイメージは出来ますけど、一応確認しておきたくて……」


「詳細に説明する場合、累計六十時間を超える学習コースを必要としますので、簡易化した説明に変更させて頂きますが、よろしいでしょうか?」


 泰久の質問に対し、レイアはそう提案した。


「それでお願いします」


 泰久はその提案を受け入れて、レイアの話に耳を傾ける。


(まあ、多分細かいことを知ろうとしたら僕の全く知らない法則とかも出てくるんだろうな……)


 レイアは話し始める。

 

「簡単に言いますと、あなた方の世界における電気の役割を果たしているのが魔力です。現在、この世界であらゆるエネルギーの媒体となっているのが魔素を起源とした【魔力】なのです」


「例えば、私が今利用している機体の動力となっているのは魔素です。二日に一度、所定の場所で【魔力】を機体の内部バッテリーに蓄え、それを元に私は活動しています」


「こちらが魔力の説明を可能な限り簡略化したものです。魔力について追加での説明をお聞きになるか、魔素についての説明にお進みになるか、どちらに致しますか?」


 レイアはそこで一旦話を止めた。


「つまり、魔力は高性能なエネルギー媒介者、っていう理解で良いんですよね?」


「今はその理解で構わないかと」


 泰久は頷く。


(正直、今の説明だけでは情報が少なすぎる気もする。でも、ここで追加の情報を聞くと、随分と話が長くなりそうだな……)


「……仮に追加で説明することになるとしたら、どのくらい掛かるんでしょうか?」


 泰久は恐る恐るそう聞く。


「【魔素初級編】を受講いただく場合、約四十時間のコースとなります。尚、料金に致しましては徴収しておりませんので、ご安心下さい」


 レイアはそう答えた。


(あと四十時間……そんなに話させるとレイアさんが疲れちゃいそうだな……止めとくか)


「じゃあ、魔素?についての説明の方をお願いします。これも出来るだけ簡略化して頂くことって出来ますかね?」


 泰久はそう聞いた。


「畏まりました。魔素についての可能な限り簡略化した説明を行わせて頂きます」


 レイアはそう言って説明を始める。


「魔素についてお持ち頂きたいイメージはただ一つです。【極小の微粒子】それだけです。その粒子が移動するときにエネルギーが発生する、もしくはその移動自体をエネルギーと捉えていただくような形でお願いします」


(極小の粒子……電子みたいなものかな?だとしたら、質量はあるのかな?クウォーク?レプトン?種類は?)


 自身が物理の授業で得た知識を引っ張り出してその話を理解しようとする。


(まあ、何となくは分かった……かな?)


 取り敢えず電子と似たようなものであろうと認識することは出来た。

 

「宜しいでしょうか?」


「あ、はい。一応理解は出来ました。それで、1つ質問があるんですけど……」


 泰久はそう聞く。


「どういった質問でしょうか?」


「僕の『魔素』量を測ったって言ってましたけど……それって僕の体内にある『魔素』の量のことなんですか?」


 泰久は聞く。


(そんなもの測ってどうするんだろう……?)


「いえ。単純に貴方の体内にある魔素の量を測ったわけでは無く、貴方の肉体の『魔素放出可能量』等を測り、その情報から総合的に判断した『魔素を扱う適正』を数値化したものです。」


 レイアはそう答えた。


「なるほど……それで、僕の数値ってどうだったんですか?」


 泰久がそう聞くと、レイアは動きを止める。


(あ……もしかして聞いちゃ駄目だったのかな……?)


 泰久の心配を他所に、レイアは手を翳す。


 すると、何もない場所に突然一枚の紙が現れた。


(え?え?!)


 驚いて声も出せない泰久に紙を手渡す。


「こちらが今回の貴方の検査の結果を印刷したものになります。どうぞ、お受け取り下さい」


 勢いに押されて泰久は髪を手に取る。


「あの……失礼に聞こえたら申し訳ないんですけど……これ、電子化とかしないんですか?こんなに技術が発展しているなら電子化しそうなものなんですけど……」


 泰久が聞くと、レイアはこう答えた。


「現在、我が国で一般的となっている通信手段は体内、主に脳内に情報端末を埋め込むものとなっております。しかし、楠田様はこの世界へお越しになったばかりであるため、その埋め込み処置がまだ行われておりません。そのため、魔素を通した情報伝達が出来ず、このように実物の媒体で伝えさせて頂くこととなりました」


「なるほど……分かりました。ありがとうございます」


「いいえ、お構いなく」


 そんなやり取りの後、泰久は渡されたシートを見る。


「ん?」


 シートには、泰久が見たことの無い文字が書かれていた。


「あの……これってどう読めば良いんですか?読み方が分からないんですけど……」


 泰久はどこか困ったような顔をしてレイアにそう聞く。


 レイアは泰久から返された紙を見ると、少しだけ動きを止めてから頭を下げた。


「申し訳ございません。こちらの不手際で日本語化していないシートを渡してしまいました。すぐさま日本語化したものをお渡ししますので、少々お待ち下さい」


 そう言って再び立ち尽くす。


 そうして作業を始めようとしたところで泰久が待ったをかける。


「ちょっと待って下さい……ってどういうことですか?日本語、というか、日本を知ってるんですか?」


 泰久がその質問を言い終わるよりも先に作業を終わらせたレイアがその質問に答える。


「はい。我が国が召喚する異世界人の殆どは【地球】なる場所の出身です。その為、地球で使われていた言語の内、ある程度主要な言語、具体的には英語・中国語・ヒンディー語・スペイン語・アラビア語・ベンガル語・フランス語・ロシア語・ポルトガル語・ウルドゥー語・インドネシア語・ドイツ語・日本語の十四言語に関しましては私にインストールされております」


「十四ヵ国語も扱えるんですか?!」


 レイアは頷く。


(凄いな……バイリンガルとかトリリンガルとか言う次元じゃ無いぞこれ……)


 泰久は驚きながらそう考えた。


「それはそうと、せっかく結果を印刷したのですからぜひご確認を……」


「あ、そうですね。今確認します」


 泰久は自分の持つ紙を見る。


「……えっと、この数字は高い方なんですかね?」


 79という数字を見るが、泰久はその数字がどの程度のレベルなのか判別できない。


「そうですね。この世界に生きている通常の人間と比較すると、かなり高いほうかと」


「じゃあ、その……他の異世界出身者?と比べると?」


 『この世界に生きている』という言葉が気になり、泰久はそう質問する。


「異世界人、で構いません。そこと比べると平均的なものかと思われます」


 レイアがそう答える。


(平均的……か。これは喜んで良いやつなのかな?)


 泰久は複雑な顔をして考え込む。


「ご心配無く。【異世界人】の方はいずれも非常に高い身体能力や魔素使用可能量を誇り、ほぼ全ての方が【超人】に当たる方ばかりですから」


「超人?何ですかそれって?」


 聞き慣れない単語を聞いた泰久は質問する。


「何らかの理由で従来の人間から外れた方々の総称です。厳密な定義は違うのですが、そう呼ばれています」


「え?実際の定義はどんな感じなんですか?」


「それはですね……」


 二人はそれから、かなり長い時間話していた。


 ――――――――――――――――――――――――


 不可侵領域アンタッチャブルへの出発当日の朝。


 泰久達六人はロビーに集まっていた。


 その六人に向かって、首から下と口を全て鎧で覆った男が話しかける。


「よう。初めまして。今日から数日間お前等のお守りを任せられたメギドだ。お前等、俺に迷惑かけんなよ?」


 言葉に苛立ちを含めながらメギドはそう言う。


「あの、この人は何をするんですか?」


 清水が青髪に向かってそう聞く。

  

「この人はメギドさん。帝国うち主力部隊の副団長さん。かなり偉い人だから、君達も失礼が無いように」


 そこまで言ってから青髪は詳しい説明を付け加える。


「今日から数日間、君達は不可侵領域アンタッチャブルに向かうんだけど、そこはこの世界の中でもトップクラスに危険な場所なんだ。だから、いざという時に君達を守れる人が必要でしょ、ってことでメギドさんが派遣されることになりました」


 そして、笑顔で続ける。


「ついでに、このタイミングで君達のお世話を別の人に投げました。つまり、これからは僕自身の研究に専念できるってことです」


 その場に居る人の内、メギドと青髪以外の全員が驚いて声も出せない中、青髪は満面の笑みでそう言う。


「というわけで、多分君達と会うのはこれで最後です!僕はこれで解放だ!」


 青髪はそのまま何処かへ向かっていった。


「はぁ……まあ、そういうこった。なるべく俺に迷惑をかけるなよ?」


 メギドさんはそう言いながら歩いていく。


 僕達が呆然としながらその様子を見ていると、メギドさんはこう言う。

 

「……おい。何をしている?早く来い」


 その言葉に全員が急いでメギドさんの後ろを追いかけた。

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