第八話 緊急避難
「なぁ楠田、ここ、かなり廃墟っぽいな」
「うん。凄いね……人の気配が一切感じられない」
そう言って、泰久はメギドの方を見る。
メギドは苛立ちながら誰かと話していた。
「それ、本気ですか?」
『ああ、そうだ。条約の問題で入れない場所のギリギリまで行け』
「……そうですか」
メギドは一端言葉を止める。
(この口ぶりだと、相当本気で俺達を領域近くまで行かせたいらしいな……)
さて、とメギドは思考を重ねる。
(俺やこのガキ共の安全を考えるとこの辺りで引き返すべきだろうが、それをすると戻ってからの俺の立場が危ない……)
そこまで考えてから、メギドは話す。
「申し訳ありませんが、
『相変わらず、口は回るようだな』
電話の相手はそう言った。
「そうしないと生きてけないんですよ。とにかく、今回の話はここまでで構いませんね?」
『ああ、そうだ。私としては残念なことに、君は私の方針に乗り気では無かったようだな。しかし、これも仕事だ。君の意志とは関係無しにやってもらうぞ』
「……分かっているなら結構です。では」
そう告げて、メギドは泰久達の方に向き直り、歩いてくる。
「あの……何をしていたんですか?」
泰久は向かってきたメギドにそう聞いた。
「少し指示があってな。それを聞いていた。それじゃあ、指示通り向かうぞ」
メギドはそう言いながら領域の奥へと向かう。
その途中で後ろを向いてこう言う。
「俺から10メートル以上離れるな。その範囲内なら大抵のことが起こっても助けられるが、その外側は保証できない」
学生6人は慌てて付いて行く。
「ここから奥に向かうに連れて、どんどん危険度が上がっていく。俺も指示が有るから一応お前等を連れて行くが、お前達が死にかねないと判断したらその時点で引き返すからな」
そう警告し、敵を倒すことも同時に行いながら奥へと進んでいく。
少し慌てながら泰久達はそれに着いていった。
ある程度進んだところでメギドは立ち止まる。
「……ここから後数十メートルだけ進む。しっかり着いて来い」
メギドは少し考えるような素振りを見せてからそう言う。
(少し、出てくる
不安要素はあるものの、敵の数が少ないなら危険度は低いだろうと考えてメギドはゆっくり奥へと進んでいく。
「……この辺りが限界だな」
メギドは、【超人】だ。
天然の【超人】を模して造られた、言わば【疑似超人】とでも言うべき存在だろう。
天然の【超人】の多くは、ただ身体能力が高いだけでなく、大抵何か特殊な能力を持っている。
そして、それを模して作られた存在でも
メギドの場合は、第六感とも呼べるほどの危機感知能力を有していた。
その直感がこれ以上先へ進むなと告げてくる。
(さっきまでも確かに危険だという感じはしていたが、ここから先は完全に別物だ)
これ以上はいけない。
そう感じ取って、後ろに居る泰久達に指示を出そうとする。
「よし、お前等。もう十分見学は出来ただろ?そろそろ帰
その瞬間、メギドはその場から飛び退く。
飛び退いたあとの場所が真っ二つに割れ、何かを挟み込もうとするかのように互いにぶつかる。
メギドが即座に飛び退いていなかったら、挟み込まれていたのはメギド本人だっただろう。
「お前等!バラけずに一塊になって逃げ」
メギドが後ろをに居る光沢達を見ると、どこからともなく現れた
襲っているモンスターは実に多種多様で、顔が半分以上機械になった犬や全身が金属で覆われたミミズ等も居た。
見てみると、殆どが生物系のようにも見える。
(ありえん……
不可侵領域の奥部は国際条約上禁止されている。
その理由は現在まで明らかになっていないが『様々な国が隠したいものがあるから』や『内部の奥に超危険な生物が居るから』等、様々な予想が立てられている。
しかし、幾らど予想が立てられていようと結局は憶測だ。
国際条約で立ち入りが禁止されているとは言っても、不可侵領域と接している国の政府に賄賂でも支払えば領域内に入ることを見逃されることも多い。
そんな状況を利用して、人間が死んでも全く問題にならない
その実験の中には成功するものも有れば、失敗するものもある。
そうして失敗した実験体を放置したまま帰れるというのも
放置された実験体達の大部分はエネルギー不足や
しかし、中には長期に渡って生き延びるものも存在する。
そういった実験体は独自に群れを作って活動し始め、それらは『
こういった経緯から、不可侵領域内に居る
だからこそ、いくつもの種族が協力して行動するなど本来はあり得ないのだ。
(何が起こっているのか分からんが……とにかくあいつらを守りながら撤退する!)
そう決めて、メギドは光沢達の方へと向かおうとする。
そのタイミングで、メギドの後ろに太さ4メートル、長さ15メートルほどの巨大なヘビが数匹現れ、光沢達の方へ向かおうとする。
向おうとヘビが方向を変えた瞬間、蛇の胴体が前後真っ二つに切れた。
「……今忙しいんだよ」
ヘビの死体の上で片手に光剣を持ったメギドは呟いた。
「邪魔、しないでくれねぇか?」
ヘビ達は一瞬怯んだように動きを止めるが、何かに引っ張られるようにして再びメギドに襲いかかる。
今度は数匹まとめて襲いかかってくる。
こうなると流石にメギドも一撃でとは行かないのか、まず相手の攻撃を捌くことから始めた。
しかし、隙を見つけるとすぐに首を切り落とす。
一匹処理するごとに捌かなければいけない攻撃が減っていき、次の一匹を行動不能にするまでの時間が短くなっていく。
(これで、最後だ!)
最後に動いていた一匹を片付けると、メギド着地する。
体制を整えたあと、そこら中にあるヘビの死体を一瞬で細切れにする。
そのまま方向を変えて光沢達の元へと向かおうとする。
「……またか」
そこに再び四匹のヘビが光沢達の居る場所への道を塞ぐように現れた。
(邪魔だな……一旦無視して光沢達を連れて撤退するか?)
いや、とメギドはすぐに自分の考えを捨てた。
(光沢達と共に逃げるなら、結局ここにいる
メギドは一番手前に居るヘビを一撃で切り倒す。
その死体を壁がわりにし、二体目のヘビへと近付いた。
「熱や魔素量で相手を探知するんだとしても、間にデカい熱源や魔素源があったら分からねぇよな」
戸惑っているヘビを切り捨てて踏み台とし、次のヘビを飛び越す。
残る障害は四匹目のヘビだけ。
最後のヘビは空中に居るメギドに噛みつこうと、口を開けて飛び掛った。
(空中じゃ身動きが取れねぇ……なんて考えてんじゃねぇだろうな)
メギドは宙を蹴ってヘビの顎を切る。
口を閉められなくなったヘビは少しの間固まっていた。
そのヘビの背中を開き、勢いをつけて蹴り飛ばす。
まだ無事だった一匹のヘビは、蹴り飛ばされたヘビに当たって吹き飛んでいった。
ここでやっとメギドは光沢達を視界に入れる。
「お前等!!無事か?!!」
メギドが駆け寄ると、簡易剣を片手に持った光沢が叫ぶように言う。
「メギドさん!!三人が!!」
メギドが見渡すと、楠田・許斐・石井の三人が居なかった。
「どっちだ!?どっちの方に居る?!」
メギドが聞くと、光沢はある方向を指差す。
そちらには、夥しいほどの
(この数……倒すだけなら出来ないことは無いが……その後逃げ切るのは厳しいな……)
メギドは判断を固めた。
「退却だ」
「えっ?」
光沢が驚いた声を上げ、板倉が強めに睨んでくる。
「あの数相手だと、仮に三人を助けられたとしてもその後お前たちを生きて返す保障ができない。今は『救えるかもしれない人数を府増やす』よりも『救える人数を減らさない』ことを優先する」
左肩に光沢を、右肩に清水と板倉を抱える。
「ちょっと!助けないと!俺だけでも下ろしてください!そうしたら三人とも助けられ」
その瞬間、光沢の首が絞められる。
光沢は突然のことに驚くが、少しするとすぐに藻掻き始める。
しかし、数秒と経たずに意識を手放した。
(こいつが本当に【超人】ならばこの程度で気絶するはずは無いんだが……もしかするとまだ体の扱い方にら慣れてないのかもしれんな)
「ちょっと!神歌!?大丈夫?!」
「気にすんな。気絶させただけだ。一、二時間もすりゃあ起き上がる。それより、お前らは暴れるなよ」
そう言って板倉の方をチラリと見る。
(さっきのはただ混乱していただけだろう。一旦落ち着けばこいつもちゃんと協力してくれるはずだ)
今度は逆側に居る清水の方を見る。
清水は先程からずっと青い顔でプルプルと震えていた。
(ま、始めて戦場の雰囲気を感じ取ったらこうなるだろうな。半狂乱になってないだけマシと考えるか)
メギドは足をしっかり曲げて、大きく飛び上がった。
空中を蹴って一気に移動し、輸送車の前までたどり着く。
遠隔操作で輸送車を開け、その中に清水と光沢を放り込む。
(この状況……一人で全部やるのは無理だな)
「おい!板倉つったな。中に入って緊急連絡をしとけ!」
板倉はぎょっとした顔をする。
「緊急……そんなのやり方分かりませんよ!」
「簡単だ!中に入って『緊急連絡!コード0833の事態が発生しているため、急遽帰還します!輸送車の移動許可を!』って感じで言えば良いだけだ!」
「っ!分かりました!そう言えば良いんですね!?」
板倉は輸送者の中へと駆け込んで行った。
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