みっつめのお話
君が人を埋めたいと言ったので、僕は人を殺すことにした。
この話になるのは5回目だ。いつも僕たちの上司を埋めたいという話から始まる。
君と作戦会議をする。どうやって殺すか。どこに埋めようか。
いつも埋める場所がないという結論で終わる。それはそうだ。ここは宇宙船の中。埋めたいのは船長。高性能AIはプライベートルーム以外のすべてを見張っているし、プライベートルームで殺しても死体を持ち出した時点で見つかる。プライベートルームの中どころか船内に埋める場所はないし、適当な星に埋めたら間違いなく惑星汚染罪で殺人罪より重い罰を受けることになる。よくて強制労働刑、悪ければ外宇宙追放刑だ。
そもそも、なぜこんな話になったのかといえばだ。
あの船長ときたら、僕にフラれたのを根に持って、僕の好きな人である君に、危険な、あるいは大変な作業ばかりを偏って押し付けているのだ。
君が死んだって、船長のほうになびいたりはしないのに。
プライベートルームのチャイムが鳴る。船長だ。僕が君といるのを知っているくせにわざわざ訪ねてくるということは、半ばいやがらせなのだろう。
「すまないね、キザハシくん。おや、パートリッジくんもいたのか」
知っていたくせに。白々しい。
「キザハシくんに頼みたい作業があってね」
うるせえ、その頭かち割ってやろうか。
「なんでしょうか」
「次の寄港の際に、買い出しを頼みたいんだ」
毒でも買ってきて食事に盛ってやろうか。
「わかりました。4火星日後でしたよね」
「ああそうだ。よろしく頼むよ。2火星日後までにはリストを作成しておく」
そう言い残すと、船長は出ていった。君はふくれっ面でつぶやいた。
「本当に最低ね」
4火星日後、僕たちの宇宙船はとある惑星に寄港した。チェックが終わり、宇宙船の扉を開けると、そこには物々しい武装をした宇宙正規軍の兵士たちが僕たちに武器を突き付けて立っていた。
「そのままひとりずつこちらに来るように。会話は禁止だ」
兵士の代表がそう告げる。僕たちはひとりずつ各々拘束され、別々に事情聴取をされることとなった。
宇宙正規軍は内乱を防ぐための軍であると同時に警察組織でもある。プライベートルームでの会話は記録や送信が禁止されているはずだが、もしかして船長を殺したいという話がばれていたのだろうか。そんな不安に駆られて、君との話も、洗いざらい話してしまった。
結果としてそれはよかったらしい。船内の反乱を促すような会話については咎められたが、処罰には至らなかった。実際の所、宇宙正規軍はこの船における勤務記録から船長の不当な采配をにらんで僕たちを事情聴取しに来たようだ。船長は他の星系の惑星勤務に落とされ、君のサポートに回っていた副船長が新たな船長になった。
船長を殺して埋める前に見つかったのは、ラッキーだったのだろう。外宇宙追放刑でどこまでも飛んでいくなんてたまったもんじゃないからね。
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