ふたつめのお話

君が人を埋めたいと言ったので、僕は人を殺すことにした。

君は昔からちょっと変わった人だった。妙なことを言っては、周りに否定されて。それでも撤回しない。本当だと訴える。そんな癖があった。

「この山に人を埋めると、10日後に宝石になるらしいの」

君は穴を掘りながら、そう教えてくれた。君のいつもの癖かもしれない。でも、僕はそれを信じることにした。いや、そんな君の言うことに縋らなければならないほどに追い詰められていた。

死体をひとつ穴に放り込んで、土をかぶせる。きれいなままの死体だ。傷は少ないほうがいいらしい。

「10日後、またここで待ってるから」

君は笑う。

「手伝ってくれてありがとう。またね」

僕はそんな君に手を振って、山を下りると、土で汚れた靴を履き替えて家に帰った。


10日後、僕は再び山を訪れた。君が来るのを待つ。風が木の葉を揺らす音が、不穏に響く。

君が来るのを待つ。太陽が空の高いところまでくる。まるで罪を見透かされているようだ。

君が来るのを待つ。雲が日差しを遮る。運命が暗転する瞬間のような気分になる。

君が来るのを待つ。何かの気配を感じて振り向く。誰もいない。

君が来るのを待つ。君が来るのを待つ。君が来るのを待つ。

ついに待ちきれなくなった僕は、死体を埋めたはずの場所を掘り返す。君が嘘をついたのだろうか? ただ僕に共犯者になってほしくて?

そう言ってくれたらよかったのに。

そんなことを思いながら掘り返すと、スコップが硬いものに当たる。骨だろうか、そう思ってその周りを掘ると、穴に差し込んだ光がきらりと反射した。

骨じゃない。金属でもない。例えば、そう、宝石みたいな反射。

無我夢中で掘り返した。君の言っていたことは本当だったんだ。昔から嘘つきだと思っていたけど、実はずっと本当のことを言っていたのかもしれない。

だんだん形が見えてくる。人がそのまま結晶化したような、そう、人型の宝石。

そうしてすっかり掘り返したとき、気がついた。


どういうことだ。僕たちが埋めた死体はひとつだった。宝石が増えるなんて、聞いてない。

穴に下りて確かめる。上に重なった宝石は、君と同じくらいの大きさだった。

まさか、と思いつつ、その宝石に触れようとしたとき、後頭部に強い衝撃が走り、何もかもが終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る