第3話 止まない雨

映画館えいがかんると、

ショッピングセンターのまど雨粒あまつぶがついていた。


かさってきてないよー」

月乃つきのちゃんはガクっとかたとす。

「ど、どうしよっか」

わたしはたたがさがあるから、

えきまでなら月乃つきのちゃんをかされてあげられるけど……。


いまかえったら月乃つきのちゃんは、えきからいえまであめれてかえることになる。


むまでここにいたら?

おれらもかさないし」

「そうだね、朝日あさひ


ショッピングセンターないをふらふらとあるいていたけど、

最終的さいしゅうてきにはゲームセンターであそぶことになった。


月乃つきのちゃんはリズムゲームが得意とくいで、

蒼太そうたくんはシューティングゲームが得意とくいみたい。

希代きだいくんはUFOユーフォ―キャッチャーが得意とくいで、まことくんはエアホッケーが得意とくいだった。


わたしは……あえてうならバスケゲームかな。

春翔はるとくんのいえにはバスケットのゴールがある。

小学校しょうがっこう授業じゅぎょうで、バスケが苦手にがてだってはなしたら、

春翔はるとくんがシュートの仕方しかたおしえてくれたんだよね。

うれしかったな。



「なんだかんだ、結構けっこうあそんだな」

蒼太そうたくんにはなしかけられていると、

あつい、はらった、あっつ」

と、エアホッケーであせだくになったまことくんがやってきた。

「なんで、そんなにあせかいてんだよ」

蒼太そうたくんはわらいながら、そでまことくんのあせをぬぐってあげている。

おれ代謝たいしゃいいから! 元気げんきだから!」

そういいながら、蒼太そうたくんにあせをふいてもらうために、

かがんでいるまことくん。

ふたりの姿すがたはまるで、ドッグランにいるワンちゃんと、ぬしのようだった。


「このとしになって、ゲームセンターでこんなにうごくなんて……」

「まぁまぁ、たまにはいいんじゃない?

うちらもたのしめたし」


「ね、星羅せいら?」

「うん」


月乃つきのちゃんのとおりだ。


希代きだいくんは、こんなふうすこあきれているみたいな発言はつげんをしてるけど、

実際じっさい結構けっこうたのしんでいたとおもう。


蒼太そうたくんとまことくんのやりとりをやさしそうなかおているし、

UFOユーフォ―キャッチャーで次々つぎつぎ的確てきかくにぬいぐるみをっていた希代きだいくんはすごくたのしそうだったから。


わたしは希代きだいくんにってもらったぬいぐるみマスコットに、

視線しせんとす。


月乃つきのちゃんとおそろい、うれしいな。


「うち、おなかいてきたー。

なんかべてかない?」


そうだね、とわたしがうよりもさきに、


ぐぅきゅるる


と、わたしのおなか返事へんじをしてしまった。


「ご、ごめんなさい」

にしなくていいよ」

月乃つきのちゃんはそうってくれるけど、

「え、いまはらおと夜宮よるみやさん……?

結構けっこうデカかったね。

そんなにはらってるの?」

と、まことくんがうくらいにはおおきなおとだった。


まこと、そううなって。

おれだってゲームのおとまぎれて、何回なんかいはららしてんだから」

「まじかよ、やばー」

こういうときに、さらっとわたしから自分じぶん話題わだいをそらしてくれる蒼太そうたくんはすこしカッコいい。


まぁ、

「おれ、おこのき、いたいかも」

なんて希代きだいくんみたいなタイプもいるけどね。




「いらっしゃいませー。5めいさまですね。

せきどうぞ―」


希代きだいくん以外いがいは、べられればなんでもいいとうことだったので、

わたしたち5にんはおこのさんにた。


「ご注文ちゅうもんまりましたら、おこえがけくださーい」



注文ちゅうもんめて、店員てんいんさんをぶと


「あれ、星羅せいら?」


たった一言ひとことだけでだれかわかるくらい、

わたしのこころのこっているひとがやってきた。


「え、は、春翔はるとくん!?」


「あはは、おどろかせちゃって、ごめんね」

「わ、わたしこそまさか春翔はるとくんが、ここにいるとはおもっていなくて、

その、ごめんなさい」

「なんで星羅せいらあやまるの」


あたまでてくれる春翔はるとくん。


うれしい、ひさしぶりだ。

失恋しつれんしたつらさよりも、

どきどきする恋心こいごころがよみがえってくる。


「あ、たせちゃってごめんね。

注文ちゅうもんきします」

そうってわたしのあたまからろして、

それぞれの注文ちゅうもんいていく春翔はるとくん。


めずらしく蒼太そうたくんはすここわかおをしていた。


「もしかして夜宮よるみさんのおにいさんですか!?」

まことくんの何気なにげない質問しつもんで、

わたしはられたときのことをおもした。

「んー、たようなものかなー。

星羅せいらとはいえ近所きんじょで、家族かぞくぐるみのいをしてるから」


ね?

わらいかけてくる春翔はるとくんに、

わたしはせいいっぱいのつく笑顔えがおこたえた。

「うん。そうなの。

いつもやさしくて、たよれる素敵すてきひとだよ」


「えー、うれしいな。

ありがとう、星羅せいら

ここのごはんだいおれはらうよ」

「いいよいいよ、払わなくていいよ春翔はるとくん。

ちゃんとおかねってきてるから」

「いいって!

あ、もちろん、みんなぶんもごちそうするね~」


ちょっとっててね―、と春翔はるとくんは

店舗てんぽのキッチンへもどっていった。


星羅せいらにあんなカッコいい幼馴染おさななじみがいたなんて、

らなかったなぁ~?」

「な! おごってくれんなんて、ラッキー」

月乃つきのちゃんとまことくんはその話題わだいちきりだ。



「あのひとと、なかいいの?」

蒼太そうたくんがわたしにいた。


うん


って、こたえればよかったんだろうけど、

さっきのつく笑顔えがおでエネルギーを使つかたしたわたしは

むかしはね、いつも一緒にいたの」

と、正直しょうじきこたえてしまった。


「おまたせしましたー」

注文ちゅうもんしたものをってきてくれたのは、

べつ店員てんいんさんだった。


どこかほっとした、わたしがいる。


でも

昼川ひるかわ先輩せんぱいが、星羅せいらちゃんはあまりごはんりょうべられないってってたけど、

こんなに注文ちゅうもんして大丈夫だいじょうぶ?」

と、店員てんいんさんがわたしにこっそりこえをかけてきた。


わたしは

「ほとんど、みんながべる分です。

わたしはひとつを、ともだちと半分はんぶんにしてべるので」

と、小さな声で答えた。


「よかった。

昼川ひるかわ先輩せんぱいうらですごく心配しんぱいしてたから……」

と、わたしにはな店員てんいんさんは、安心あんしんしたようなかおをしている。



美味おいしくべたあと会計かいけいをしようとすると

「あー、昼川ひるかわくんのいもうとさんだね。

昼川ひるかわくんにおかねもらったから、

そのままかえっていいよ。

またべにてねー」

と、店長てんちょうさんらしきひとわれた。



また、いもうと、という言葉ことばいた。


現実げんじつからをそらしていたけど、

春翔はるとくんのまわりにいると、

わたしは、いもうとという単語たんごくことがおおかった。



わたしは昼川ひるかわ春翔はるといもうとのように溺愛できあいしている


小学生しょうがくせいとき

「あ、春翔はるといもうとちゃんだ。おはよう」

と、男女だんじょわず、上級生じょうきゅうせいこえをかけられることはおおかった。


「あぁ、きみが夜宮よるみやさんか。

昼川ひるかわくんから、よろしくたのまれたぞ。

昼川ひるかわくんと夜宮よるみやさんは、本当ほんとう家族かぞくみたいにそだったんだってなー」

なんて、担任たんにん先生せんせいわれたこともあったな。



冷静れいせいに、現実げんじつおもかえしてみれば、春翔はるとくんははじめから

わたしをいもうとのようにしかていなかったのかもしれない。


みとめたくなかった。


わたしは春翔はるとくんのやさしさにどきどきしたことが

何回なんかいもあるけど、春翔はるとくんはいつもわらないやさしい笑顔えがおをしていた。



わたしは、恋愛れんあい対象たいしょうにすらなっていなかったんだな。


きそう。



まどからそとると、まだあめっているみたい。

でも、月乃つきのちゃんと希代きだいくんはならごとがあるみたいで、

そろそろかえろうかというはなしになった。


月乃つきのちゃん。

わたし、たたがさあるから

途中とちゅうまで一緒いっしょはいってかえろ?」

「ほんとっ!?

ありがとう、たすかるー」

「え、おれらは?」

「ご、ごめんね。

たたがさ1ぽんしかってきてなくて……」

「どんまい、まこと

まぁ、まこと多少たしょうあめれても平気へいきでしょ。

頑張がんばってえきまではしりなよ」

のぞみだけ、ずりぃよ」



ショッピングセンターのぐちまでくと、

春翔はるとくんがいた。


「あ、よかった、まだいた。

星羅せいらかさってる?

おれ一緒いっしょはいる? いえまでおくるよ?」


わたしは春翔はるとくんの恋愛れんあい対象たいしょうではないとづいてしまえば、

春翔はるとくんのこのやさしさが、恋愛れんあい感情かんじょうではないとづいてしまう。


多分たぶん春翔はるとくんがっていた親愛しんあい


家族かぞくみたいに大切たいせつで、しあわせになってほしいっていう気持きもち。


大丈夫だいじょうぶだよ。春翔はるとくん。

わたしりたたみかさってきているから」

「そう? ほかのみんなは?」

かさってるの、わたしだけみたいで……」

「そっか……。

おれしてもかずりないよね。

ビニールかさでよければってあげようか?」


「いえ、大丈夫だいじょうぶです。

えきまですぐだし」

さきことわったのは、蒼太そうたくんだった。

「おい蒼太そうた―、せっかくこうってくれてんのに」

まことくんは不満ふまんそう。


ひと親切しんせつっかりすぎるのもよくないって。

あの、ごはんおれらの分までおごってくれて、

ありがとうございました」


「あざっした」

「ありがとうございましたー」

蒼太そうたくんにつづけて、希代きだいくんと月乃つきのちゃんがおれいう。


「ごちそうさま、春翔はるとくん」

わたしもつられるように、おれいう。


「いいのいいの、おれはらいたかったから。

それよりきみ礼儀れいぎただしいんだね。

名前なまえは?」

朝日あさひ蒼太そうたです」

蒼太そうたくん、ね。おぼえておくよ」


「じゃ、おさきにー」

春翔はるとくんはさきかえっていった。


「んじゃ、おれもかえるわ。

またなー」

と、まことくんははしっていった。


わたしも月乃つきのちゃんと一緒いっしょかえろうとすると、

「あ、夜宮よる

蒼太そうたくんにめられた。

「なに?」

蒼太そうたくんはくちひらいては、くちざすことをかえしている。


はぁ、とためいきをつきながら

星羅せいら、ごめん。

うち、希代きだいはなしたいことあるから、さきかえってて」

と、月乃つきのちゃんはわたしの背中せなかした。


かさはいる?」

「うん。おれつよ。

ありがとう、夜宮よる

わたしは蒼太そうたくんとひとつのかさをさして、

ふたりでかえることになった。


うしろから

約束やくそくなんてしてたか?」

「うるさい、だまって」

という、希代きだいくんと月乃つきのちゃんのやりとりがこえてくる。

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