告白

@Rui570

告白

 日本のどこかにある中学校の二年生のあるクラスの教室。一人の男子生徒が窓側の一番後ろの席で読書をしている。そこへ、一人の女子中学生が教室に飛び込んできた。

「ふぅ~、危ない危ない。あと一分遅かったら遅刻するところだった。」

その女子中学生に同じクラスの男子中学生が近づいてくる。

「おはよう日芽香さん、危なかったね。」

「うん。ギリギリセーフ。」

日芽香と呼ばれた女子中学生もにこりと笑う。

「あまりギリギリだと本当に遅刻しちまうぜ。」

「そうだね。気をつけないと。」

学級委員長を務めている男子生徒にそう答えると、日芽香は自分の席である窓側の一番後ろの席に座った。

「おはよう、孝君。」

「…ああ……おはよう。」

孝と呼ばれた男子生徒が読書しながら読書しながら返事をすると、日芽香が顔を近づけてきた。恥ずかしくなった孝は顔を赤らめて日芽香の方を見る。

「何?というか日芽香さん…近くない?」

「ごめん…孝君が何を呼んでいるのか気になっちゃって…」

日芽香はへらへら笑っている。

「今やっている映画の小説だけど…」

「へぇ~、あの映画って小説出てたんだ。私あの映画いつか観に行きたいんだぁ。」

黙って聞いていた孝はそのまま日芽香をじっと見つめながら本を閉じる。

ぼ…僕は…ダ……ダメだ……やっぱり言えない…

「どうしたの?私の顔に何かついている?」

「い、いや…そ、その…何でもないよ。」

孝は黒板の方を向き直り、本をしまって代わりに教科書やノートを出して授業の準備を始める。

孝君は私に何か言いたそうに見えたけど…まあいいか…

 日芽香もカバンから教科書やノートを取り出して授業の準備を始める。




 やがて、担任を務めている30代前半くらいの若い男性教師が入ってきた。

「皆さん、おはようございます。本日の授業で先週の金曜日にやった数学の小テストを返却いたします。」

それを聞いて日芽香が隣の席に座っている孝に声をかける。

「孝君、先週の小テスト難しくなかった?」

「そうだね…ちょっと自信ないや……」

担任の教師は続ける。

「それでは早速数学の中間テストを返却したいと思います。一人ずつ名前を呼んでいきますので呼ばれたら受け取りに来てください。」

 一人一人生徒たちが呼ばれていき、ついに孝の番だ。

「大鈴孝君、どうぞ!」

「はい。」

孝は席を立ち、前のほうに歩いていく。そして、担任教師から受け取って解答用紙を見ると、50点満点中30点と書かれている。

「君はまだまだ上を目指せると思いますからこれからも引き続き頑張ってください。」

孝はこくりと頷いて自分の席に戻った。

 自分の席に戻ると、日芽香がテストの解答用紙を後ろからのぞき込んできた。

「へぇ~、普通に点数高いね。」

「そ、そうかなぁ……前回とあまり変わっていないけど…」

「えっ?前回何点だったの?」

「えっと……前回は確か27点だったかな…」

それを聞いて日芽香は笑顔を向ける。

「点数上がっているじゃん…ちょっとだけど…」

その時だった。

「鈴元日芽香さん、どうぞ!」

担任教師から受け取った解答用紙を目にした瞬間、日芽香は喜びのあまり声を上げて嬉しそうに飛び上がった。

「やったぁ!45点だ!」

「よく頑張りましたね。もう少しで50点満点になりますからこれからも頑張りましょう。」

「はい、ありがとうございます。」

日芽香は自分の席に戻って日芽香は解答用紙を孝に見せる。

「すごいなぁ。今回のテストは難しかったのに…」

「フフフ…ありがとう…」

 僕は点数が高くない。日芽香さんは高いのに…僕はいつも普通過ぎる。

「どうしたの、ボーっとして…」

「あっ、いや…何でもない…」




 放課後。日芽香は帰りの支度をしようと荷物をまとめていた。その隣では孝も帰りの支度をしている。

「日芽香さん、ちょっといいかな?」

日芽香が前を向くと、一人の男子生徒が立っていた。

「どうしたの?」

「日芽香さん、急だけどずっと前から好きでした。」

「ここで告白するの?」

日芽香は突然すぎて驚きを隠せない。

「急でごめんなさい。よろしければ僕と付き合ってくれませんか?」

すると、日芽香はぺこりと頭を下げた。

「ごめんなさい、それはできない相談なの。」

「えっ?それってもしかして……彼氏とかいるの…?」

告白をした男子生徒は悟ったかのように口を開くが、日芽香は首を横に振った。

「ううん、そうじゃないの。私にはずっと前から好きな人がいるから…ごめんなさい。」

「そっかぁ。それなら…僕は日芽香さんを応援するよ。」

「うん、嬉しかったよ。ありがとう。」

男子生徒は日芽香を見て微笑むと、その場から歩き去っていった。




 日芽香が告白された際に明かしたずっと前から好きな人がいること…。それは日芽香の隣の席で帰りの支度をしている孝の耳にもしっかり届いていた。

 日芽香さんにも好きな人がいたのか…。けれど、誰だろう?というか僕は日芽香さんの幼馴染でずっと前から好きだったことを告白したいけど、告白してもいいのだろうか?僕はすごいドジで不運体質だから正直不安で仕方がない。

「やぁ孝、もう帰るのか?」

その声を聞いて孝が前を向くと、そこには一人の男子中学生が立っていた。

「おお修也、お疲れ様。」

 彼の名は稲垣修也。日芽香や孝とはクラスメイトで幼稚園の頃からの幼馴染でもある中学二年生だ。部活動はサッカー部に所属している。

「僕は今から帰るところだけど、修也は今日部活動ないのかい?」

「ああ。今日はサッカー部の練習は休みだ。よかったら俺の家で遊ばないか?」

修也の誘いに孝は顔を輝かせた。

「それいいね。けれど、何をして遊ぶの?ボードゲーム?」

孝は修也とすごろく、オセロ、チェスなどといったボードゲームで何度も遊んだことがある。今度は何をして遊ぶんだろうとワクワクしていた。

「今度はボードゲームではない。最近買ってもらったテレビゲームを一緒にやろうと思ってな。」

 最近買ったテレビゲーム?まさか…最近発売されて話題になっているあのゲームなのではないか?

「ゾンビに占拠された薄暗い不気味なビルでゾンビから逃げながら屋上にあるヘリコプターで脱出を目指す『ゾンビラン』だ!」

それを聞いて孝は驚きの表情を浮かべる。

「マジで!それ…買ってもらったの?」

「ああ。最大4人でプレイできるぜ。」

「へぇ~。それ面白そう。」

その声に孝と修也が耳を傾けると、帰りの支度を済ませた日芽香が微笑んでこちらを見つめていた。

「日芽香もよかったら俺の家に遊びに来ない?今から俺の家でゾンビランをやろうと思うんだけど…」

「え~マジ?行く行く行く!」

その時だった。

「失礼します!」

一人の一年生が教室に入ってきた。一年生は日芽香の方へと歩み寄ってくる。

「お疲れ様です。日芽香先輩、突然で申し訳ございませんが、大事な話がありますので屋上に来てもらってよろしいでしょうか?」

それを聞いて日芽香は孝と修也の方を向いた。

「大丈夫だよ。まずはそっちの方を済ませてから俺の家に来てくれよ。」

修也が穏やかな笑みを浮かべる。

「ごめんね、ありがとう。それじゃあちょっと屋上行ってくるね。」

日芽香は一年生と共に屋上へと歩いていき、それを見送った孝と修也も教室を後にした。




 屋上についた日芽香が荷物を降ろして真正面にいる一つ年下の後輩をまっすぐ見つめた。

「日芽香先輩、お忙しいところ屋上に来てくださりありがとうございました。」

「そんな…別に大丈夫だよ。そんなことより大事な話ってどうしたの?」

次の瞬間、一年生の表情が急に緊張に包まれた。

「あ…あの………そ…その……僕が入学して間もない頃…僕が……図書室の場所とかわからなくて困っていた時に……助けてくださり……ありがとうございました…」

「い…いや…そんな…全然大丈夫だよ。」

一年生は続ける。

「ぼ…僕は……あの頃から……ずっと日芽香先輩のことが好きです!どうか僕と付き合ってください!」

先程同級生に告白されたばかりの日芽香は驚きの表情を浮かべた。だが、申し訳なさそうに頭を下げる。

「ありがとう、嬉しいよ。でも、ごめんなさい。」

「えっ?どうしてですか?」

日芽香は真剣な表情で一年生の後輩を見つめる。

「私にはずっと前から好きな人がいる。だからなの…ごめんなさい。」

「そ、そうでしたか。それなら…日芽香先輩の恋がうまくいくことを…僕は祈っています。」「うん、ありがとう。嬉しいよ。」

目の前に立っている一年生の後輩は微笑んで日芽香を見つめる。日芽香は告白してきた一年生の後輩に見送られながら屋上を後にした。




 修也の自宅である一軒家。この一軒家にある一室が修也の部屋だ。この部屋で修也と孝はゾンビランというテレビゲームをやっていた。

「ヤバい、前にもゾンビがいる…!」

「修也、後ろからも来ているよ。」

二人は協力してゾンビから逃げているのだが、前からも後ろからも大勢のゾンビがきていてあっという間に囲まれている。

「くっそぉ…アイテムがない…」

「ごめん…僕もアイテムがない…」

逃げるためのアイテムがない二人はそのまま捕まってしまった。画面が真っ暗になって赤く光るゲームオーバーという文字が浮かび上がってくる。

「このゲーム思った以上に難しいね、修也。」

「ああ。これはアイテムをうまく使ったりしないとゾンビに捕まっちまうぜ。」

「大勢でプレイする場合はアイテムだけじゃなくて他のプレイヤーとも協力し合わないとだね。」

その声を聞いて振り向くと、一人の美少女が立っていた。日芽香である。今、修也の自宅の修也の部屋に到着したのだ。

「ごめんね、二人共。お待たせ。」

日芽香は修也が用意した座布団に座り込む。修也が黒い長方形のコントローラーを渡し、操作方法の説明をする。

「これの十字方向キーを押せば移動することができる。赤いボタンを押すと、ジャンプ。緑色のボタンを押しながら十字方向キーを押すと、キャラクターがダッシュするぞ。青いボタンを押すと、エリア中にある宝箱を開けることができる。」

「エリア中にある宝箱?何それ?」

宝箱という言葉を聞いて首をかしげる日芽香に孝が声をかける。

「エリア中にある宝箱を開けると、アイテムを手に入れることができる。アイテムをうまく使えば脱出成功につながるのさ。」

「その通りだ。アイテムを使用する際は黄色いボタンを押すんだ。わかったかな?」

「うん、わかった。それじゃあ早くやろうよ。」

日芽香は早く最新のゲームをプレイしたくてたまらない。

「それじゃあ…今度は三人でやってみようか!」

孝の言葉に修也が笑みを浮かべると、スタートボタンを押した。




 日芽香が加わり、早速三人でのプレイが始まった。日芽香が操作するキャラクターは緑色の服を着た女性キャラ、孝が操作するキャラクターは青い服とズボンがトレードマークの男性キャラクター、修也が操作するキャラクターは黒いジャケットと黒いズボンで身を包んだ全身黒ずくめの男性キャラクターだ。

 日芽香が選んだ緑色の服のキャラクターが周辺を見回す。数人のゾンビがうようよいるのがわかる。

「うわぁ、ゾンビがこんなにいるんだ。なんか思っていたのと違う!」

「日芽香、今君の近くに宝箱があるだろ?」

孝の声を聞いて日芽香が選んだキャラクターが右を向く。すると、金色に光っている宝箱が目に入った。

「あった!これを開ければ……」

「そうだ。けれど、アイテムは一つにつき一回しか使えないから気をつけてくれ。」

「一つにつき一回ね、分かった。」

日芽香が選んだキャラクターが宝箱を開けた。すると、中から水色のボールが出てきた。

「これは…?」

「アイスボムだね。」

孝が隣で説明を始める。

「これをゾンビに投げつけると、しばらくの間ゾンビは凍りついて動けなくなっちゃうんだ。けれど、アイテムは一つにつき一回しか使えないからたくさん手に入れてから使った方がいい。」

それを聞いて日芽香は近くにいたゾンビにアイテムを使わず、キャラクターをその場から逃げさせた。

孝のキャラクターはゾンビに囲まれていた。こうなったら集めたアイテムを使って逃げるしかない。孝は黄色いボタンを押した。すると、これまで手に入れたアイテムが表示され、「どれを使いますか?」という文字が浮かび上がった。

「それじゃあ……これにしよう…」

孝は赤いハンマーを選んだ。このハンマーはスーパーハンマーというアイテムでこれを使ってゾンビを殴りつけると、ゾンビは爆発を起こすのだ。ゾンビだけでなく、足元を叩けば衝撃波を起こして大勢のゾンビを転ばすことができ、しばらくの間動けなくすることができるのだ。

「これでも喰らえ!」

孝の操作によってキャラクターはハンマーを床に叩きつけた。それによって辺り一面に強い衝撃波が発生し、孝のキャラクターを囲んでいた無数のゾンビが地面に転がり込んだ。

「よし、もらった!」

孝の操作によってキャラクターはどんどん走っていく。

「孝、分かっていると思うが一応言っておく。宝箱にははずれもあるから気をつけろ。」

「そういやあそうだっけね。」

宝箱にははずれがある?初めて聞いた日芽香は不思議そうに首を傾げた。

「宝箱にははずれがあるってどういうことなの?」

修也が日芽香に説明をしようとした次の瞬間だった。

「ヤバい!」

声を上げたのは孝だった。

「どうしたの、孝君?」

「宝箱からゾンビが出てきてそのまま捕まっちまった。」

もしかして……はずれの宝箱にはアイテムが入っているんじゃなくて、中にはゾンビがいて開けた瞬間に襲ってくる感じなのか?

「今、孝ははずれの宝箱を開けちゃったけど、はずれの宝箱にはゾンビが隠れていて開けた瞬間に襲ってくるから気をつけてくれ。」

「はずれの宝箱は本物と同じ形や色をしているから開けてみないと当たりかはずれかわからないんだ。」

ゲームオーバーになってしまった孝も口を開く。

「私も気をつけないと……」

日芽香はキャラクターを操作し、エリアを歩き回るが、ゾンビが現れる。

「ヤバい、ゾンビが来た!」

日芽香はゾンビに背を向けて逃げ出す。その拍子に宝箱を発見した。

「よし、あれを開ければ……」

その時、前からもゾンビが現れた。宝箱を開けようとする日芽香の行く手を塞ぐかのように。しかも、大勢だ。それによって日芽香の操作するキャラクターが囲まれてしまう。

「ああ、ヤバい…こうなったら……」

こうなってしまったらやむを得ない。日芽香は持っていたアイスボムを投げつけた。それによって後ろから来たゾンビが凍りつく。そのすきに逃げ出すが、逃げた先からも大勢のゾンビが出現した。こうなってしまったらもう逃げ場はない。

「修也君ごめん、私も捕まっちゃった…」

「大丈夫大丈夫。こうなっちゃったらしょうがないよ。」

これで生き残りは修也のみだ。

「さて……奴らはどう来るんだろう……?」

修也はエリアであるビルの屋上を目指して階段を上って4階から5階へと移動する。屋上である6階までもうすぐだ。その時、6階の屋上に繋がる階段から大量のゾンビが降りてきた。

「こうなったらこれでいくか!」

修也は最大6発の弾丸を発射することができるライフル型アイテム・ゾンビランチャーを選ぶと早速弾丸を1発発射する。それによって真正面にいた大勢のゾンビの内1体が倒れてドミノのように後ろにいたゾンビたちも倒れていく。そのすきに修也は階段を駆け下りていって逃げだす。

「ヤバいなぁ…これは一人で逃げ切るのは難しいぜ…」

修也の選んだキャラクターはビルの1階に戻ってしまった。そこに潜んでいたゾンビたちもゾンビランチャーで撃ち抜くが、ゾンビランチャーの弾が切れてしまった。

「くっそぉ…弾切れか…」

修也のキャラクターは階段を下りてくるゾンビたちを見つめてあることを思いついた。

「よし、これならたぶん逃げられるぜ!」

修也の言葉に日芽香と孝は目を丸くした。一体何を考えているんだ?

「これで一気に決めよう…!」

修也はチェーンソー型アイテム・チェーンゾードを選ぶと、階段めがけて勢いよく叩きつけた。それを見て孝と日芽香は驚きの表情を浮かべる。

「修也君、そんなことをしたら……」

「大丈夫だ、こうすれば……」

チェーンゾードの強烈な一撃によって階段が破壊され、ゾンビたちは修也のキャラクターに近づくことができなくなった。

「そうか。こうすればゾンビたちは修也を捕まえることはできない。それを狙っていたのか。」

修也のプレイを見て孝も納得する。

「あとはエレベーターさえ使用すれば一気に屋上に行けるぜ…途中で止まってゾンビが乗ってきたとしてもアイテムでぶっ倒してやる。」

修也はキャラクターを操作し、階段の近くにあるエレベーターに歩み寄っていく。エレベーターの扉が開いた次の瞬間、そこに潜んでいた一体のゾンビが襲いかかってきた。

「まずい!」

さすがの修也も突然すぎて対応できない。よって、画面が真っ暗になってゲームオーバーという文字が浮かび上がった。




 孝、日芽香、修也の三人はコントローラーをテーブルの上に置くとジュースを口にした。

「どうだった、二人共?」

「はじめてやったけど、すごい迫力で面白かったよ。」

修也の質問に孝が笑顔で答える。

「難しかったけど、めちゃくちゃ楽しかったよ。やらせてくれてありがとう!」

日芽香も微笑んで修也を見つめる。その時だった。修也の部屋の壁にかかっている時計の音が鳴り始めた。

「何?この音?」

日芽香が時計を見ると、夕方の5時を回っていた。

「もう5時か。そろそろ帰らないと…」

「そうだね。私もそろそろ帰らないと……」」

孝は荷物を持って玄関の方へと向かっていった。日芽香も後に続く。

「二人共、気をつけて帰ってくれ。」

「うん。今日はありがとう、修也。」

「ああ。俺の方こそ楽しかったぜ。」

日芽香も修也を見て微笑んだ。

「ありがとう、また遊ぼうよ。」

「ああ。そうだな。」

孝と日芽香は修也に手を振ると、そのまま歩いていく。修也も二人の姿が見えなくなるまで見送ってから自宅に入っていった。




 その日の夜のことだった。日芽香が宿題を終わらせ、寝ようとベッドに近づいた時、テーブルに置いてあるスマホの音が鳴った。

「LINEだ。誰からだろう?」

スマホを開くと、修也からのメッセージがきていた。「明日の放課後に話がある。」というメッセージだ。

「どうしたんだろう……」

日芽香は修也が何を話したいのか気になってなかなか眠ることができなかった。




 翌日。日芽香は隣の席の前の席に座っている修也に声をかけた。

「ねえ修也君、昨日の夜話があるとか言っていたけど、それって今じゃできないの?」

「悪い。ちょっと今は他のみんなに聞かれたくないから、放課後で。」

修也はそう答えて正面を向いて授業に取り組む。

修也君は何を話したいんだろう?そう考えると、日芽香は授業に集中することができなかった。




 その日の放課後。日芽香は修也と自分以外誰もいない教室で帰りの支度をしていた。

「日芽香……」

帰りの支度を済ませた修也が日芽香の隣に立つ。

「話したいことがあるって……何なの?」

「ああ。そのことなんだけど、今から話すよ。」

 修也は一体何を話そうとしているんだ?




 その頃、下駄箱に向かっていた孝は2階に降りてそのまま1階に降りようとした瞬間、一人の3年生の先輩に呼び止められた。

「先輩、どうかなさったのでしょうか?」

すると、3年生の先輩は一枚の紙をクリアファイルから取り出し、孝に見せた。

「これは…?」

「来月のサッカー部のスケジュール表だ。これを稲垣君に渡してくれないか?」

「わかりました。多分まだ教室に残っていると思いますので渡してきます。」

来月のサッカー部のスケジュール表を受け取った孝は3階にある自身のクラスの教室へと急いだ。




 日芽香、修也、孝のクラスの教室。

「日芽香、俺は………俺は……」

「えっ?修也君……」

日芽香が修也に心配そうに見つめながら近づいた瞬間だった。

「俺は幼稚園の頃から……ずっと君のことが好きだった!だから……だから……俺と……俺と付き合ってください!」

それを聞いて日芽香も驚きの表情を浮かべ、顔を赤らめてその場で凍りついてしまう。

「し……修也君………う…嘘でしょ………」

「嘘じゃない。俺は幼稚園の頃から…ずっと君のことが好きだった…それは今でも変わらない…!」

修也の真剣そうな瞳を見て、日芽香は目の前にいる幼馴染のクラスメイトの言っていることが自室であることを悟った。だが、その瞬間に日芽香は目の前にいる幼馴染のクラスメイトに向けて頭を下げた。

「ごめんなさい、付き合うことはできないの。」

「えっ?なんで…?もしかして……彼氏がもうできているのか?」

動揺する修也に日芽香は首を横に振った。

「違うの。私には……ずっと前から好きな人がいるの…。」

「ずっと前から好きな人がいる?」

その時、後ろから何かが落ちるかのような物音が聞こえた。修也と日芽香が物音のした廊下の方を向くと、鞄を落として中身を床にばらまいてしまった孝の姿があった。

「孝、まだ帰っていなかったのか?」

修也が近づいてきて一緒に落としたものを拾い始める。

「あ…ああ…さっき先輩に頼まれて…こ……これを……修也に…って…」

孝は先程先輩から渡すよう頼まれた来月の部活動のスケジュール表が書かれた紙を差し出した。修也はそれを受け取って目を通す。

「これは……」

「部活動のスケジュール表だ。来月のサッカー部のスケジュールについて書かれている。」

「なるほどな。サンキュー。」

サッカー部のスケジュール表を修也に渡した孝はその場から立ち去った。

「ちょっと待って、孝君。」

日芽香は孝を呼んで廊下に出るが、孝はもう去ってしまっていた。

「どうした?孝に何か用でもあったのか?」

修也が尋ねる。

「ま……まぁ……ちょ…ちょっとね…」

そう言うと、日芽香は荷物を持って下駄箱を目指して教室を飛び出し、階段を駆け下りていった。まるで孝を追うかのように。

「もしかして……日芽香の好きな人って…孝じゃね…?」

自分以外誰もいない教室で修也はそう呟くと、そのまま荷物をまとめて教室を後にした。




 中学校を後にした日芽香は必死に走っていた。やがて、一人の男子中学生に追いついた。

「孝君!」

それは孝だった。孝も日芽香に気づいて振り向く。

「日芽香さん、どうしたの?」

「あの…ちょっと……言いたいことがあるんだけど……いいかな?」

「言いたいこと……何それ?」

日芽香はまっすぐ孝を見つめる。

「私…幼稚園の頃から……孝君のことが好きです!」

「ええっ!」

孝は驚いて持っていたカバンを落としそうになる。

「普通過ぎて何も特徴がないと周りから言われてばかりでも、何事にも真っ直ぐ取り組んでいこうと頑張っている孝君の姿に私は一目惚れしたの!」

そう言われて孝は顔を赤らめてしまう。

「そ……そんな…ぼ…僕が……嘘でしょ……?」

「あと……聞きたいことがあるんだけど………孝君って…好きな人とかいるの?」

「ぼ…僕は……」

孝は恥ずかしくてなかなか答えられない。

「ずっと……迷っていたんだ…」

「えっ?」

日芽香は何を言っているのか理解できないままであるのにも関わらず、孝は続ける。

「僕は…地味目な凡人だから……正直こんな僕が…大丈夫なのかと思ったから…ずっと迷っていて…言えなかった…」

「言えなかったって……何のこと?」

「それは……君のことが……日芽香さんのことがずっと前から好きだったんだ…!でも、僕は凡人だから…振られると思って……」

孝の言葉を遮るかのように日芽香は孝に抱きついた。

「別に凡人でもいい。私はただひたすら真っ直ぐ頑張る孝君のことがずっと前から大好きだった!よかったら…私と…付き合ってください!」

すると、孝も日芽香をゆっくりと優しく抱きしめた。

「返事はこれ。」

これってもしかして…OKということなの…?

 日芽香がどうなのか混乱している時、一人の男子中学生が拍手しながら歩いてきた。二人の幼馴染でクラスメイトの修也だ。

「カップル成立。おめでとう、二人共!」

孝は修也に視線を移してから日芽香をまっすぐ見つめて微笑む。日芽香も目の前にいる孝を見つめて微笑む。




 日芽香が孝と告白し合い、晴れて付き合うことになって数日が経過した。

「孝君のためにお弁当作ってきちゃった。一緒に食べよう!」

「えっ、マジ?」

日芽香がお弁当箱を開けると、サラダやウインナー、おにぎりなどが入っている。

「うわぁ…美味しそう…」

「中でも一番食べてほしいのが…このハンバーグ。」

日芽香はハンバーグをフォークで孝の口に運んでくる。

「はい、あ~んして。」

「う、うん。」

孝は恥ずかしがりながらも日芽香の言う通り口を開ける。次の瞬間、口の中にこれまで食べたことがないかのような味が広がった。

「う、うまい!」

孝は立ち上がって大声を上げてしまった。

「そ、そんなにおいしかった?」

「うん。めちゃくちゃ美味しいよ!ありがとう、日芽香さん!」

「孝君……嬉しい…!」

微笑ましい雰囲気の中、孝の前の席で自分の弁当を食べている修也が声をかけてきた。

「あのさぁ……二人共、すごい見られているけど…はずくね?」

気がつくと、担任教師を含む日芽香たちのクラスが日芽香と孝の二人を驚いた表情で見つめていた。

「私たち、みんなに注目されているね、孝君。」

「そ、そうだね…」

二人はクラスメイト達に視線を向けてからお互いを見つめ合い、笑い出した。修也もそんな二人を見て笑みを浮かべた。

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