初めまして。殺します(裏)
魔導管理室
ウラ
————————————とみられます。犯人は、「誰でもいいから殺したかった」と供述しており————————————』
まただ。最近このようなニュースをよく見る。曰く、最近の若者はストレスがたまりやすく、さらに残酷なものによく触れているためこのような「誰でもいいから殺したい」という人が増えるのだ云々かんぬん。
馬鹿らしい。
誰でもいいから殺したい。ああ素晴らしいことだ。ただ殺したかった、すごい事件を起こそうと思ってその手段が殺人だった。動機は様々だろうが、これに関しては良くわかる。
でも、その結果がこれか?真昼間からその辺にいた適当な人を刺す。
ああ、全くもって————————————
愚かだ。泣きたくなるほど愚かで、無様で、哀れだ。
このようなニュースを見るたびに思うのだ。本当に誰でもいいのなら、なおさら人を選ぶべきだ。
殺人とは、大きい。罪の話じゃない。人生の柱にもなりかねないぐらい、大きく、重い。それを、「誰でもいい」なんて言って簡単に済ますのは、失礼だ。殺人に。だから、この人でいい。ではなく、この人がいい。となる人を探すべきだろう。
それに、初めて。というのはどんな物でも重要なことだ。初めて学校に行った、初めてバイトをした、初めて———————————
その中でも、初めての殺しは、とても重いだろう。
それを、その辺の奴を「コイツでいいや」と殺す。軽く、流すように。
ああ、なんて、もったいない。どんな物でも数をこなせば慣れていく。それが殺人であっても。だからこそ、初めての殺人は、想いを、願いを、心を込めて、ゆっくりと味わいながら、
殺すべきだ。
その日は、いつも通りだった。
いつものように、この人なら、という人を探しに、深夜に家を出る。
その時のためのナイフを懐に隠し持ち、夜の街を歩く。
夜の街は好きだ。この探し物がなかったとしても私は同じように家を出るだろう。
煌びやかな表通りに、そこを少しずれるだけで一気に暗くなる裏路地、終電で帰ってきたであろうサラリーマンに、終電を逃したであろう途方に暮れた人たち、飲み足りないのか路上で飲み明かす人たち。
その中で何よりも好きなのは、人のいない所だ。
正確には、昼は人であふれているのに人のいない場所。
商店街とか、役所の周りとか、学校とか。
人のいないそんなところは、新しい発見でいっぱいで、新鮮だ。だから、好き。
そんなこんなで家を出てから二時間ほどが経ち、そろそろ帰ろうかと帰路についていた時、心臓が高鳴った。
なぜか、ここで帰ってはいけないような気がした。「こっちに来て」と何かが呼び掛けているような、そんな感覚が。これ以上いたら、明日にも支障が出る。と文句を垂れる体を無視して、何かに引き寄せられるように、花の蜜に誘われた虫のように、ふらふらと歩き出した。
鳥には、刷り込みという物があるらしい。初めて見たものを親と思い込んでしまう。という物だ。
彼を見た瞬間に、かつてない衝撃を受けた。脳みそに電流を流されたような、頭を思いきり殴られたような、うまく表せない。
キラキラと、輝いて見えた。ほんの僅かな光が、すべて彼に集まったように。
「初めまして」
なぜか、挨拶をした。しなければならないと思った。
「こちらこそ、初めまして」
この人だ。誰でもいい。から、この人がいい。に、あっという間に変わっていく思考を置き去りにして、魂が叫ぶ。
『————————————』
ああ、頭がくらくらする。何も考えられない。
今は、今からは、この体の奥底で叫んでいる、魂の赴くままに、
「殺します」「死ね」
駆けだした。
初めまして。殺します(裏) 魔導管理室 @yadone
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます