ライアの戦争【6】










――――――後方部隊(フュンフ、ゼクス、ツェーンと飛行船side)







――ツェーンが上空でゲロリンする約10分前。






「総員……撃てぇぇ!!」



エマリアの号令と共に、騎士達が弓矢と魔法による攻撃を、飛行船の遥か下の地上にいる敵騎士達へと向けて放つ。



「…ッ!!攻撃来るぞぉぉ!!!盾持ちは頭上からの攻撃を防ぐ事に尽力!魔法などの遠距離攻撃を持つ者は盾持ちの陰から隙を見て反撃しろッ!!正確に敵兵に当てなくていい!あのデカ物を墜とせば我らの勝利だッ!!!」



「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」



方や、遥か上空から一方的に攻撃されている帝国軍は、何とか反撃に転じようと防御と攻撃を担当する者を分担する事によって、遥か上空の飛行船へと攻撃を仕掛けてくる。



もちろん飛行船のテラス部分で地上に狙いを付けている王国騎士を狙い撃つのは不可能だと理解はしているらしく、帝国軍の狙いは飛行船を何とか墜とす事に注意を向けているようだが。





――――ガンッ!!!



「ひぃぃぃぃぃ!?い、今飛行船に魔法が当たったよ!?めっちゃ音デカかったよぉ!?」



「そ、そうだね?でもこの飛行船は魔法の100発くらいは大丈夫なくらい頑丈だよ?」



「ツェーンは怖がりだねぇ……でも、本質はみんな同じライア本体と同じなんだから、飛行船もこれくらいの攻撃じゃどうにもならないって理解出来てるはずだけど…」





王国騎士団と帝国騎士団がしのぎを削っている中、飛行船に乗り込んでいるエマリア率いる遠距離部隊の人達の護衛と飛行船の操縦を任されたツェーン達は、王国騎士団が陣取る飛行船のテラスフロアの中でビクビクと地上から飛んでくる魔法や矢に怯えてうずくまっていた。



いや、正確に言うのならば、ビクビクと怯えているのはツェーン1人だけで、フュンフとゼクスは怯えてうずくまるツェーンの介護をしているだけだが。



「た、確かにライア本体の記憶はきちんと持ってるから、この飛行船“飛竜”が簡単に落とされるとは思ってないけど……怖いものは怖いのよぉ!!」



「う~ん……魂は違ってもライアと同一人物と言っても可笑しくないはずなのに、これだけ性格に違いが出るのって不思議だね……もしかしてだけど、ライア本体の権力者や上位貴族を怖がる所みたいに【怖がり】な部分がより濃く浮き出てる感じなのかな?」



「……ゼクスは優しい顔してるけど…ツェーンちゃんが怖がってるのにすっごい冷静に分析するね…」



「だって、いくらツェーンが怯えていてもエマリアさん達を守るのに支障はないからね?護衛も飛行船の操縦も僕とフュンフ……なんだったら僕一人分の分身体で事足りてしまうから、無理にツェーンをなだめる必要が無いというか」



ゼクスの冷静な分析と思考にツェーンが「そんなひどいぃぃぃ!!」と喚いていたが、ゼクスはのほほんとした顔で気にしない。




「あぁでも……流石にライア本体の顔で泣きじゃくられるのはちょっとだけ困るかな?地上で動いてるアインスもそうだけど、ちょっとばかりライア本体の印象とそぐわない言動をすると後々ライア本体に迷惑が掛かりそうかも」



「え、えっと…さっき地上でフィーアさん達がこの戦争が終わったら姿形を名前の元となった分身体達と合わせるって言ってましたけど…」




基本的に護衛と飛行船の操縦しかやる事のないフュンフ達(なお仕事は殆どゼクスがやってくれている)は、何かと暇を持て余していたので、各場所にいる別人格達の様子を見る為にちょくちょくとのぞき見をしていたので、地上でフィーア達が話していた会話も聞いていた。



「……寧ろなんで今姿を変えないで僕達は行動してるんだ?」



「……さぁ?ノリ…とかでしょうか…」




何事にも後回しにする癖が付いているのは人間の悪い癖だなと自身の無意識に喝を入れたゼクスは早速と言わんばかりに自分の姿を≪変装≫の力で変えていく。



とぉさん…実の父親と同じ緑色の短髪で綺麗なエメラルドグリーンの瞳。


目じりは切れ長で、綺麗が似合うイケメンの男性が出来上がる。



「…っと、確か分身体の【ゼクス】はこんな感じだったか?」



「おぉぉ!いいんじゃないかな?…ちょっと大人っぽくアレンジが掛かってる感じはするけど、ほぼゼクスって感じだよ!」



「ふむ…まぁこの姿が僕の本来の姿だってきちんと認識出来る様に常にこの姿でいようかな…?フュンフはどうする?って、フュンフは元々ラスリに兄の顔を忘れさせない為にライア本体と同じ顔にしていたんだったか」



「そ、そうだね……私はこの格好のまま…かな?」




フュンフはラスリの為に作られた兄弟の時間を捻出する為の分身体だった。



そして、フュンフの分身体を使って、ラスリと一緒に過ごす間に本当の兄であるライアの事を忘れられれば困るとフュンフの顔や体形はライア本体と全く同じ状態で設定されていたので、今回フュンフは姿を変える必要が無いのである。



「だが、フュンフは別の魂を得た事によって、ライア本体の兄弟の時間を捻出するっていう大前提が無くなっている……寧ろライアとフュンフを個別化する為に、少しは姿を変えた方がいいんじゃないか?」



「そ、そうかな?……なら、私の魂は一応女性型だし……お姉ちゃんとしてのライアの姿になろうかな?」



顔や身長は特に変えず、胸を明らか女性に見えるほどまで膨らませ、すでにスタイルの良かったライアの腰の括れとお尻…それと根本的な部分を女性へと変えていく。



「っと……どうかな?」



「おぉ…結構女性らしさが……いや、胸がある以外は普通にライア本体その物だね」



「だよね…」



元々括れている腰と細くしなやかな足をほんの少し誇張しようとも、すでに完成されている状態からいくら完成に近づけようとした所で変化など生まれる訳がない。



「まぁフュンフのイメチェンは後日ライア本体と相談しながら行うとして……おい、お前も喚いてばっかいないで、さっさとピンク髪のアイドルに≪変装≫しなよ」



「わだじヅェーンじゃない゛ぃぃ…」



「ガチ泣きしとる…」



泣き喚くツェーンを放っておけば勝手に泣き止むかと思っていたゼクスだったが、ツェーンのめんどくささは予想の斜め上だったらしく、ゼクスとフュンフが≪変装≫を終わらせるまでずっとうずくまっていたらしい。



そして、未だに自分の事をツェーンだと認めていないようで、涙と鼻水を垂らしながら反論を述べる。




「……ライア本体に頼んで、別の魂をこの子に練り込めばもう少し真面な性格になったりしないかな?」




ゼクスの物騒なつぶやきはツェーンの耳には入りはしなかったが、聞こえてしまったフュンフは思わずツェーンに同情の意味を込めて、合掌をするのであった。










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