ライアの戦争【5】











―――――――前衛部隊(ドライ、フィーア&ズィーベンside)





「ア、アインスさん達…もうそろそろ終わりそうですね」



「みたいね?何人か骨折させてるっぽいし、治療はしてくるのかしら?あの二人の性格的にやらなそうだし、私達が行った方がいいのかしら?」



「なんだかんだ暴れてても、私達の根幹は同じなんだから殺しはしないでしょ?そっちはあの二人に責任を取らせて、私達は私達の仕事を終わらせましょ?」



―――ダムッ!!




「「「ぎゃぁ!?」」」




アインス達が大立ち回りを繰り広げていた場所から、敵軍の中央側に行った場所でこれまたライアと同じ顔をした冒険者設定のドライとフィーア、それと実家の手伝い用設定のズィーベンの3人が分身体とドロイドの泥人形を駆使しながら、迫りくる敵騎士達を雑談を交えながら圧倒していく。




「というかアインスの奴、意外に設定とか守るタイプだったのね?私もこの戦争が終わったら顔とか体は今いるフィーアに似せるつもりはあったけれど」



「わ、私達は双子の設定で…槍使い。ある意味縛りっぽくて楽しそう、かも?」



「私はお家でお母さまと一緒にずっと家事とラスリのお世話の手伝いかしら?最近はセラ達が来て家事担当のズィーベンが暇になってたから余計に暇になりそうね……何かやろうかしら?」




会話はとても和やかで和気あいあいしている。



「ぐッ!?は、はやい!?」



「喋りながら我ら帝国騎士団を圧倒…だと!?」



「いだだだだだだだ!!!!ちょッ!?関節!!なんであえての関節技!?一思いに倒してくれよぉぉぉ!?」



だが、周囲の状況はある意味阿鼻叫喚である。



ドライはアインスに見習い、槍をそこらの木から作りだして迫りくる騎士達を圧倒し、ズィーベンは素手が一番楽とでも言いたげに≪格闘技≫で敵に近づき、正確に顎を狙い敵を無力化していく。



そんな中、フィーアが操る分身体やフィーア自身は何故か敵に関節技を決め込み、時間をかけて気絶させたり、しなくていい呟きを耳元で口ずさみ、敵の動揺を誘う。



「……さっきから気になっていたけれど、フィーア?貴方さっきから何してるの?関節技は…まぁいいとして、何を耳元で呟いてるのよ?」



「ん?えっと…『ほぉらお兄さん?こんな美少女が至近距離で抱きしめてるんだよ?こんなご褒美はそうそうないよね?…ふふ、お兄さんのここも素直n「いいわわかった、わかったからそれ以上言わないで?」…そう?」



フィーアのセリフが下ネタ系の話だとすぐに察したズィーベンは即座に話を遮る。



「はわわわわわッ!!」



「ぐふぉッ―――!?」




同じくフィーアの言葉を聞いて、色々と察したドライは自分の片割れ(双子設定)がそんな破廉恥な事をさっきから呟いていたのかと顔を赤く染め、動揺のあまりつい力が入ってしまい、敵騎士の1人がすごい勢いで吹き飛ばされたのはご愛敬として置く。





「……ドライはあの人の治療は忘れない様にしなさいよ?……それよりフィーア?一応今は本体の顔で動いているのだからそんな破廉恥な事は慎みなさい?どうするのよ、本体が『戦争の最中に敵国の人間を誘惑した』なんて噂でもたったら」



「あながち何時もの事じゃない?」



「……………」




ズィーベンは何も言い返す事が出来なかった。




「……あと300人って所かしら?他の場所を担当してる別人格達も順調そうかしらね」



「あ、返事は無しなのね?…まぁ別にいいけど」



ズィーベンは脳内で各別人格達の様子を確かめつつ、どこもイレギュラー無く対処出来ている事に安堵しながら敵を気絶させていく。




「あ、あの……飛行船の方…ツェーンちゃんが…」



先程手加減なしに吹っ飛ばしてしまった騎士の治療を終わらせたドライが、ちょうど今のズィーベン達の会話を聞いていたのか、会話の輪に入ってくる。



「ツェーン?あのビビりの子がどうしたの?飛行船でエマリアさんの遠距離部隊の警護に付いてるはず……って、うっそ」



ズィーベン、フィーアが共に、ビビり故に飛行船での護衛係を申し出ていたツェーンに意識を向ければ、なんとも言えない衝撃的な風景が映し出される。




「「……なんかライブが始まってる……」」




ズィーベン達が見たのは、何故かアイドルとしてのツェーンの姿に変身したツェーンが涙目を浮かべながら空中で歌って踊り、敵味方関係なく魅了するライブを披露する姿だった。










――――――――――――

――――――――――

――――――――








――――上空に浮かぶピンクのツインテールをなびかせ、辺りの人間の注目を集める。



先程まで飛行船を墜とそうと躍起になっていた帝国騎士達はその手を止め、その帝国騎士を倒そうと飛行船から迎撃していた王国騎士の遠距離部隊の人間達も立ち尽くす。



――――戦場に咲く、一凛の花。



ツェーンはしっとりとした唇を震わせ、場違いなれど、しっかりとした言葉を…詩を紡ぐ。



――――歌が、戦場に響き渡る。




そして、今……帝国軍と王国軍の心が一つになる。




「「「…うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」



「「「ツェーンちゃぁぁぁぁん!!!!!」」」





場は喝采。前世の日本であれば、これほどまでの歓声は無かったかもしれない。



だが、今この世界で唯一の歌姫であるツェーンの歌声はこの戦場にいる者達の心を魅了したのだ。




「「「ツェーン!ツェーン!ツェーン!」」」





辺りに鳴り響く、ツェーンを呼ぶツェーンコール…それを受けた当の本人は。






















「…うっプ……げろろろろろろろろろろ…」



宙に浮かんだまま、緊張のあまり思いっきりゲロを吐いていた。












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