帝都戦【1】










――――一方その頃、帝国に潜入予定のドルトン達はと言えば、徒歩とライアの【重力属性】の魔道具を駆使して空を飛び、バレる事なく帝都の街へと降り立つ事が出来た。



そして、帝国に到着早々、すぐに皇帝の住まう王宮に潜入……とは行っておらず、一旦帝国の城下町にてライが拠点にしている宿に潜伏中であった。



「≪催眠≫か……無策で飛び込めば、我々もあっという間に無力化されるかもしれないという訳か」



「ドルンの記憶が、今になってなぜ戻ったのかは不明ですが、今までのわずかに感じていた帝国への違和感を考えれば、まず間違いなく≪催眠≫のスキルは存在しているかと」



戦闘が始まっている中、すぐにでも王宮に潜入を決行しないのは、今まさに話題に上がった宰相ケドローモンドのスキル…≪催眠≫への対策を考える為であった。



「ドルンの記憶では、直接頭に手を置かれた瞬間に記憶が飛んでいたはずと証言があったので、手の接触でスキルが発動するのかとも思いましたが……帝国民全員が少なからず≪催眠≫の影響を受けているのであれば、手を直接触れずとも発動させる事が出来るのかもしれません」



「……なんと厄介な…」



この世界に転生してきてから、≪分体≫と≪経験回収≫の兼ね合い上、様々なスキルを見聞きしてきたが、国全体へ影響を及ぼす程のスキルなど聞いた事がない。



それも手を頭に当てただけで、望んだ記憶を消し去るなど悪意を持つ者達にとってみれば破格のスキルだろう。



一応、ライアは使う事は一切していないが、実はライアのスキルの中にも記憶を消し去る事の出来るスキルは存在している。



この世に生を受け、初めてスキルを取得したあの5歳の時に手にしたスキル≪経験回収≫。



若干、ライア自身も忘れかけていた事だが、この≪経験回収≫もスキルを使用した対象の“スキル使用後”からの記憶を自由に消す……というよりは奪う事が出来る。



スキル使用以前の記憶はどう足掻いても消し去る事など出来ないし、≪経験回収≫の本元である経験値自体もスキル使用以前の経験値は回収できないのだ。



それを考えれば、宰相の持つと思われる≪催眠≫は【手を触れれば記憶や認識を自在に操れ】、【帝国全土に何かしらの方法で影響を与える事の出来る】スキルという事になる。



(……化け物か?……いや、別に全部が全部スキルの所為と決まったわけじゃないけど…)




どの道、帝国攻略を遂行する上で、宰相をどうにかしなければ王国に勝利はないのだとため息を吐く。




「……≪催眠≫に関して、ひとまず“手に触れない”…そこだけは徹底する事にして、宰相の相手を私……ヘベルベールの屋敷に待機させている分身体に任せてもらってもいいですか?」



「……だが、もし仮に君が≪催眠≫の餌食にでもなれば…」



「えっと…一応分身体なので、私本体にまでは影響はしないんじゃないかなぁって……それに、言っては何ですが、私はそれなりにレベルが高い方だと思いますし、もし≪催眠≫に抵抗する事が出来るのだとすれば、レベルの高い私が盾になった方が安全だと思います」



この世界のレベルは強さの指標にはなっているが、特に毒や精神攻撃への耐性を現すものではない。



ライアの言っている事はただの気休めの一種であるのはドルトン達もわかっていたが、このままこの宿屋で話し合いを続けていても、答えなど出る物でもないかと冷静になる。



「……王国騎士団の騎士団長ともあろう私が、インクリース殿に頼り切りとは……戦争が終わったら、インクリース殿の下で修業をさせてもらおうかな」



「修行……ワイバーン狩りしか出来ないですよ?」



「あっはっはっはっは!!是非とも頼みたい!」




ライアの『ワイバーンをさも簡単に狩れる動物』と言っているような発言に、ドルトンを筆頭に帝国潜入部隊の面々が呆れ半分頼もしさ半分で吹き出し、柔らかな場の空気が生まれる。




「よし……我々潜入班の目的は、皇帝の身柄と≪催眠≫のスキルを所持すると思われる宰相ケドローモンドの捕縛、もしくは撃破だ」



「私達分身体はドルトンさん達の足と姿を隠す為の補助……それと皇帝と宰相ケドローモンドを担当します」




分身体達は王国から来た10人とライ、それにヘベルベールの屋敷に待機する2人で計13人。



ドルトン率いる精鋭5人とコルドーの6人一人一人に分身体を付け、【重力属性】を使った移動と【幻属性】の魔法で潜入班の姿を消す役目を引き受ける。


残った分身体達の内、3人は皇帝と宰相をどうにかする組に別れ、ライともう一人の分身体は万が一、王宮内で大規模な戦闘がおこった際に街の住人の避難やドルトン達の逃げ出す為の退路の確保に動く事になった。



そして残った分身体2人は帝国の目が戦争やドルトン達に向いている隙に乗じて奴隷達の開放も同時進行で行う予定なので、ドルトン達が出発したらライアの分身体達は各方面に散らばる事になる。




「諸君…特に気を負う必要はないが……必ず生きて、そして勝つぞ」



「「「「了解ッ!」」」」




この作戦に選ばれた精鋭達が覚悟の決まった表情で返事を返し、すぐさま行動を起こす為に宿屋の部屋を出ていく。




「コルドーも気を付けてね」



「もちろんだよ…ライアちゃんにコッテリと絞られたんだから」



そして、最後に部屋を出ていくコルドーへの声掛けを済ませ、ライアも自分のすべき事をなす為に動き出すのであった。









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