北側の戦い【2】
「―――放てぇぇッ!!」
―――ビュビュンッ!!
防壁の上から、遥か遠くに見える敵陣地へと弓兵は矢を、そして魔法の使える兵士達は同じく魔法を放つが、そのどれもが相手に届く事なく、地面に落ちる。
ライアの目測では、大体300~500メートルは離れているので、どう頑張っても普通の弓矢や魔法は届かないし、精々相手軍が近寄るのを防ぐ意味合いしか持たない。
だが…。
―――ズガァァァァンッ!!
「くッ!?何故だ!?何故そこから届く!?」
敵軍である帝国がこちらに近寄るような動きは見せず、バグラス砦の騎士達が攻撃が届かないと嘆いているのを嘲笑うかのように、バグラス砦の頑強な防壁に穴をあける強力な魔法を放ってくる。
(属性は火…威力は俺の大魔法と同等でかなり厄介なうえ、飛距離はかなりの物……それを個人で行ってる)
防壁の上で敵の様子を≪鷹の目≫で観察していたライアは、相手がどんな敵なのかを分身体を通してエーリヒ達に共有する。
『ライ姉ちゃん!わたし達も出ていい?』
『流石にダメ……って言いたいけど、相手は向こうの陣地から動く様子は無さそうなんだよね……今プエリちゃん達といる分身体から離れないって約束できる?』
『うん!』『もちろんです!』
共有するのはプエリ達も同じで、外の状況を教えれば、早速戦闘に向かいたいと願い出るプエリに苦笑いしつつも、分身体と同行するのであれば許可を出すと提案し、プエリに合わせてリンも元気な声で了承する。
『よし、なら―――』
プエリ達にどう動けばいいか、今後の作戦を伝えていると、再び敵陣地から魔法が飛んでくる気配があり、流石にこのまま何度も魔法を受けてやる義理は無いと行動に出る。
「……≪錬金術≫対象を【魔女】に…」
近くに待機していた分身体を一人呼び出し、すぐさま
「―――“グラウンド・ウォール”」
―――ガガガガガガァッ!!
魔女となった分身体はすぐさまこちらに飛んでくる魔法を防ぐべく、厚さ10メートルはありそうな分厚い壁を生み出し、見事敵の魔法をせき止める。
…だが。
「……一撃でボロボロ……連続で撃たれるか、これ以上の威力で撃たれれば流石にやばいかも…」
敵の魔法を防いだ石壁は見るも無残な有様で、どう見てももう一度敵の魔法を受け止めれる程の強度は残ってはいなかった。
もちろん、再び敵の魔法が放たれる度に新しい石壁を生み出せばいいのだが、敵の攻撃が放たれるのを見た後にこちらも魔法を発動させなければなので、少しでも気を抜けば一瞬でバグラス砦の防壁は穴だらけ。
それに何より、相手の魔法の威力がこれで最大限という保証はどこにもないので、もし先程の魔法以上の魔法が放たれるのであれば、別の方法で攻撃を防ぐしかない。
「……最悪、【魔女】をもう1体生み出せば何とかなるだろうけど、巨人化の力を使ってこないと決まったわけじゃないんだ…出来れば
現在ライアの分身体はプエリ達に1体、今魔女に変えた者と状況を見渡す為に防壁の上に居た2体、それとエーリヒ達バグラス騎士団との連絡係として1体は先程の作戦本部で待機させている。
なので、実質
最悪、1体は居れば何とかなるとは思うが、念の為に戦力を温存するのは悪い事ではないだろう。
――――カッ!!
「来たッ!―――“グラウンド・ウォールッ”」
―――ズガガガガァン!!
「…けほっけほ……砂埃がヤバい……暫くは何とか耐えれる事を祈ろう」
先程とそれほど変わらない魔法の威力を見て、何とか耐える事は出来そうかなと思ったライアは、涙目になりながら次の攻撃に備え、目を光らせるのであった。
―――――――――
―――――――
―――――
「いっそげ!いっそげ!」
「プエリちゃーん、ちょっと早いよー」
「リンも早くおいでよー!急がないとライ姉ちゃんが危ないよ!」
草木の生い茂った茂みを中腰の体勢で素早く移動していくプエリ、リン、ライア、パテルの見た目3姉妹とその父親みたいなグループは、帝国軍に見つからない様に敵陣地の背後に回り込もうとしていた。
目的はもちろん、バグラス砦へ何度も打ち込まれている魔法を止める為もあるが、プエリ、リン、ライアの3人で一気に敵戦力の無力化を狙っての事だ。(パテルは無力化させた敵の捕縛やプエリ達幼い組が無茶をしないかの監視である)
「こーらプエリちゃん?そんなに興奮してるとケガするんだから…隠密行動も立派な作戦なんだから、落ち着いてね?」
「はぁい…」
それにしても、何故弟の心配をしているはずのリンよりプエリの方が落ち着きが無いのか……寧ろリンが大人しすぎなのか?と色々考えるライアの目に、敵陣地であろう場所が映り込み、即座に他の3人へその場に停止するように指示を出す。
「……(足音を出さない様に、こっちに付いてきて)」
「((はーい))…」コク…
妙に緊張感の抜ける返事を聞きながら、≪鷹の目≫と≪索敵≫を最大活用しながら敵の位置と警戒されていない場所を探り、そちらに4人で移動を開始する。
(……敵戦力は本当に100人程……弓兵らしき人も少しは居るけど、殆ど剣を持った剣士タイプの人ばかり……ならあの魔法は一体誰が…?)
「(ん~?あのすっごい魔法を撃ってるの誰なんだろう?)」
「(やっぱり、最初にその魔法を撃ってる人を倒さなきゃですよね?)」
「(……ライアの魔法と同等の威力……余程の年を取った御仁か……もしくは可愛らしい人か…?)」
パテルのそれはボケ?と少し謎の疑問が浮かぶが、一旦置いておこうと視線を敵陣地へ向ける。
先程、防壁の上から別の分身体が≪鷹の目≫で確認した時は、一人の人間が魔法を放っているのはわかったが、顔や表情までは見れてはいないので、どの人間が魔法を放っている人間かすぐには発見できなかった。
だが、相手に出し惜しみをする気はないらしく、すぐさま先程の魔法を撃ち放とうとする人間が出てきて、大きな火の玉の魔法を生み出し、ライア達の目がその人間に引き寄せられる。
「(あいつか……って結構若そうな…)「うそ……」……リン?」
今まさに、巨大な火球を発射しようとする少年と言われても可笑しくない魔法使いを目にしたリンが、隠密中という事も忘れて声を上げる。
――――カッ!!!
「――――リクッ!!!」
魔法の発動によって、辺りに鳴り響く轟音と共に、リンの悲痛な叫び声が掻き消される。
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