情報整理
――――帝国side(ヘベルベールの屋敷に居る分身体)
帝国軍が出発してから、もうすぐ2週間。
すでに、悪徳貴族や奴隷商館などの細かな情報などは集めれるだけ集めきり、後は帝国潜入班のドルトン達と合流するだけだ。
「……ヘベルベール……どう思う?」
「……私からすれば、普通の事……と感じてしまうのですが、恐らく異常な事なんでしょうね…」
「という事は、本当に…」
「えぇ……ケドローモンドが≪催眠≫とやらのスキルを我々帝国民に広く使用している……ドルンという男の話は本当なのかもしれません」
戦争が始まり、ドルンが予想以上に強かったり、実は帝国の宰相に催眠術を掛けられていたりと驚きの新事実ばかりだったが、ドルンの話を聞けば聞くほど帝国の不自然な部分が明るみになっていく。
「へベルベールにかき集めてもらった資料に、麻薬や戦争に使う為の武器の密売をしている貴族が結構いた……なのに、どの貴族も“絶対に帝国にとって不利益になる事を一切してない”」
今、ヘベルベールに見せているのは、そんな裏社会と繋がりのある貴族の帳簿や密売の記録が記された資料。
普通であれば、どんな国の貴族でも自分の懐を温める為に横領や税金をチョロメかす為の裏帳簿などがあっても可笑しくはない。
なのに、帝国貴族の中に別の国と取引をしたり、裏帳簿を作成した記録が一切ないのだ。
「……帝国民が奴隷になったケースは存在せず、全国民が結構割高な税金を一切の抜けなく毎月きちんと支払ってる……この帝都だけじゃなく、周りの小さな町などでも」
これは最初から感じていた違和感ではあるのだが、ライアが分身体でスパイを帝国に送り込むまで、王国は帝国の一切の情報を手に入れる事が出来ていなかった。
つまり、戦争が停戦してから約300年…その間、帝国から流失する民は存在せず、関所などは存在するといってもライが入り込めたようにスパイをするのは別に不可能な事じゃない。
なのに、帝国の情報が一切ないという。
恐らく、王国は帝国を刺激しない為にスパイを送らなかった可能性もあるが、他の小国などは送り込んだスパイを全て返り討ちにしている。
それも、ドルンの言っていた宰相の≪催眠≫を掛けられ、情報を全て抜き出されたのだろう。
もちろんこれらは推測の域を出ないが、ヘベルベールに『他の国と戦争する際はいつも捕虜から情報を得ていると聞いてましたね』と言っていたので、多分外れた推測ではないと思う。
「……もし仮に、この宰相を倒したら、帝国民全員に掛けられた催眠が一気に解けるって事なのかな…?だとすれば……最悪、帝国民全員が暴動を起こす可能性もあり得るか…」
「ふむ…女王様が帝国全土を統治する際、一度帝国上層部全てを処刑するのも民にとって騙されていた鬱憤を晴らすいい機会かもしれませんが」
「絶対に嫌」
「おぉう……冷たい眼差しが心地いいッ!!」
ライアが掲げる不殺の理想を押し付ける訳ではないが、もし処刑を行うというのならライアの見ていない所でライアの関係ない人達だけでやってくれと切に願う。
もちろん、ライアに攻め落とした際の帝国を治める気は一切ないが、仮の場合で想像するだけでも、鳥肌が立つ。
「絶対に処刑とか見せないで……処刑文明より犯罪奴隷文明の方が私はマシね…」
「死んで楽にはさせず、長い時間をジワジワと苦しめる方がいいと……流石は我らの女王様陛下ッ!!」
「貴方、それ私が嫌がるとわかって言ってるでしょう!?ワザとなの!?ワザとだよね!?」
隙さえ見せれば、いつ何処でも虫けらを見る目で見られようとライアの嫌がる事を言ってくるヘベルベールに『…もしや一周回ってサディストか…?』と少しだけ背筋が凍る。
だが、女王様ムーブで人格否定の言葉を羅列していれば『ぶひぃ!!』としか言わなくなるのを思い出し、それはないかと安堵と疲れのため息を漏らす。
「……ひとまず、その諸悪の根源の可能性のある宰相の居場所を調べなきゃね……ドルトンさんとアーノルド様にも連絡をしておこう」
「では私めも至急宮殿へ行けるよう手配を」
「お願いね」
ヘベルベールは先程までの高揚とした顔を引き締め、まるでライアの忠実な家臣のように頭を下げ、すぐさま行動に移すべく、部屋を出ていく。
「さて……『アーノルド様、ドルトンさん…少し報告が―――』
――――――――――
――――――――
――――――
―――――???side
「……どうやら、南側はすでに戦闘が始まったらしい。戦況報告が無いのは些か疑問だが、どうせ略奪に力を入れ過ぎて我を忘れているのだろう」
「―――はぁん?そんな事で僕たちへの報告を怠ってる訳?そんな奴らクビでいいじゃん」
大きなテントが張られた森の中。
そのテントの中に集まる数人の人影。
その人影の者達が来ている服に帝国の紋章が刻まれている事から、この者達は帝国から来た人間だという事。
そして、その帝国の人間達は同じく帝国の……インク達が所属させられていた志願兵部隊の悪評を語り合っていた。
「所詮は一般市民から募った志願兵で固められた部隊なのだ、あまり強く言う物じゃないよ。というかそいつらの役目は少なくなった奴隷の仕入れが主な仕事だよ」
「え?奴隷は捕まえた人の物じゃないの?」
「所有権はあるけど、奴隷の首輪やら躾を教育する金は個人でやってもらう事になるし、そのお金を捻出出来る人なら奴隷をそのまま貰えばいいだけさ」
「ハハッ!!奴隷の首輪って国から支給されたもの以外は金貨1枚はする魔道具だろ?そんな大金をぱっと出せる奴なら志願兵にならずにそのまま奴隷商に買い物しに行くだろ!というか、嘘のプロパガンダで志願兵を募ったって事かよ?腹黒~」
「奴隷の首輪やらをどうにか出来れば奴隷の所有権は個人でいいというのは別に嘘じゃないだろ?」
話の内容は、とても善人がするような会話ではないし、何よりこの話をしている者達の声色からして人を騙す事に対して、面白がっている印象しか感じない。
「ていうか、僕の出番まだなの?いい加減疲れてきたんだけど」
「そう焦るな……情報によれば、この先に王国の要であるバグラス砦がある……お前の役目は魔法でその砦を破壊する事さ」
恐らくここに、バグラス砦の規模と頑丈さを知る王国民が1人でも存在すれば『たった一人の魔法で頑強なバグラス砦を落とせるものか』と反論していただろう。
「まっかせてよ!僕の
男……いや、どちらかと言えば成人したてか成人前とも見える男の子?が自信満々に胸を張ってそう答える。
「期待しているよ……≪魔王≫様」
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