南側の戦い【3】
「でりゃあああ!!」
「なんとッ!?」
――――ガキィィンッ!!
ボンドブがこの戦、自軍の負けだと諦めかけた時、予想外の人物がポーズを決めている3人の内の一人であるシグレに襲い掛かる。
(ド、ドルン!?)
「撤退しろッ!!今はひとまず逃げる事に集中させろ!!」
「な……わ、わかった!」
シグレに襲い掛かったのは、インクと先程まで一緒に物陰に隠れていたはずのドルン。
ドルンが腰から下げていた申し訳程度の片手剣を鞘から抜き出し、あの騎士団の中でもトップを競うシグレと鍔迫り合いに持ち込みながら、戦意を失いかけていたボンドブへ喝を入れる。
「だから、そう簡単に行かせるつもりは………くっ!?」
重い……シグレの心に浮かんだ言葉は只々目の前の男の剣が“重い”という事。
ワイバーンを何度も狩ることによって、非常識なレベルアップを果たしたシグレが剣で押し返せない程の重みを感じた事により、シグレの中で目の前のドルンの警戒度が跳ね上がる。
「―――シッッ!!」
「―――フッッ!!」
――ブゥンッ!!
その攻防を見ていたアインとベルベットもまたドルンの事を警戒し、2人がかりで横から剣を振りかざすが、素早く後ろに引かれ、2人の剣は空を切る。
「とと!…おぉうおぉう?流石に3対1はズルじゃないか?もしかしてあんたらのどっちかはその女と良い関係とかかい?それなら一応謝ってやってもいいが?」
「あ”ぁ!?私はご主人様一筋じゃぼけぇ!」
「そうだ!!わっちらは主君の物ぞ!?そのような俗物的な関係で一括りにするなど言語道断ッ!!」
「…あ……く……ぬぅぅ……」
ドルンは挑発交じりにそう軽口を叩けば、シグレとベルベットは若干切れ気味に否定を入れ、まんまと挑発に乗った形になる。
「……あんたも大変だな?」
「くっ!!」
そして、何故か出会って数秒の相手に、自分の思い人を悟られたらしいアインは、ドルンの可哀そうな者を見る目を向けられ、つい悔しさから下を向いてしまう。
「……ってドルンお前!戦えたのか!?」
「おぉ?そりゃ志願兵に志願するくらいにはな?……というかインクてめぇ!?折角俺が時間を稼いでんだからさっさと撤退しろや!?」
4人の攻防にあっけに取られていたライアは、場の雰囲気が落ち着いたタイミングで正気になり、ついドルンに問いただしてしまう。
「って言っても、流石にこの3人を留めた所で他の騎士団もいるみてぇだし、簡単には逃げられねぇよなぁ…」
インクが逃げ出していない事に声を荒げるドルンだったが、周りで今だ撤退が出来ていない兵士達の様子が目に入ったのか、冷静に状況を分析し、そう1人愚痴る。
「かぁー!…カッコつけて他の奴らを逃がそうとか思ったが、流石に全員は無理そうか?これなら俺一人逃げ出す方が簡単だったかもな」
「自分ひとりなら逃げきれると?」
「さぁな?やってみなきゃわからんさ……だが、ああもかっこつけた手前、今さらしっぽ巻いて逃げんのは恥ずかしいんでね……インクッ!!せめておめぇくらいは逃げてくれよ?じゃなきゃ俺の行動が無意味になっちまうからなぁ!」
如何にも『ここは俺に任せてお前は先に行け!』なかっこいいドルンに少しだけ見直すが、それと同時に申し訳ない気持ちがほんのりとライアの胸に灯る。
(なんだよ……性根が腐ってるのかと思ったけど、いい奴はいい奴なんじゃん…)
帝国民全員が奴隷制度を良しとしているだけでも、いい目では見れないが、それも国の今までの歴史によって変わる価値観だと思えば、ドルンはかなり善人の良い人なのかもしれない。
流石にこのままシグレ達と戦闘を繰り広げる後ろから騙し討ちするというのは申し訳ない気持ちが溢れてしまい、ライアの性格ではその選択が取れなくなってしまう。
「はぁぁぁ……シグレ、アイン、ベルベット……他の場所を頼む」
「「「了解しました」」」
「はい?」
インクの深いため息と共に発せられた言葉に、ドルンの前で臨戦態勢だった騎士達3人が武装を解き、すぐさま他の場所に向かおうと足を動かす。
しかし、あまりに突然の事に驚きを隠せないドルンは、去っていく騎士達3人を止める事さえ忘れ、アイン達に指示を出したインクに目を向ける。
「………あぁぁーー……マジ?」
「マジ」
今の『マジ?』にどれほどの意味が込められていたのかは予想するしかないが、恐らくインク=敵対スパイといった方程式がドルンの頭の中に出来た事は確かだろう。
「ちなみに名前も顔も作り物だから」
「え、ちょ!新事実が多い多い!…え?俺結構インクの事友達的なあれで見てたけど俺の一人よがりか!?」
「それは本当に申し訳ない気持ちでいっぱいかな?」
「くそぉー!うっそだろ?俺の目も曇ったもんだなぁ……」
ショックが大きいのか、ドルンは悲し気に落ち込みながら地面にがっくりと倒れこむ。
「……なんで正体を現した?」
「お前がいい奴に見えたから、このまま騙し討ちで終わらせるのは嫌だった」
「……アホ程に甘ちゃんだな」
「よく言われるよ」
地面に倒れこんでいたドルンは『よっと』と素早く起き上がり、気だるげにインクの方に目を向け、口を開く。
「騙しやがったな
「……絶対に逃がさないよ」
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