南側の戦い【1】









――――インクside(志願兵部隊)





「がぁぁぁ!!くっそ!」



「どこにも王国の連中が居ねぇじゃねぇか!」



「なんだなんだ?王国の連中は辺境の開拓地一個攻め落とされただけで周辺の村すら避難させてんのか?日和やがって!」




―ーガズンッ!!



男が空の樽を蹴り飛ばし、誰もいない放棄された村にけたましい音が鳴り響く。



現在、インクが潜入している志願兵達で構成された志願兵部隊は、先導の帝国兵士に導かれながら、王国の村や町へ略奪行為をかける為に幾つもの村を回ってきた。


だが、そのすべての村がすでにもぬけの殻状態であり、奴隷も食料も何も略奪が出来ていない状況であった。



もちろん、略奪を楽しみにしていた志願兵達は苛立ちが募り、先導をしていた正規兵達は「王国は逃げてばかりだな」と王国に対して愚痴を漏らす。



「かぁー!流石にこんだけ収穫がねぇと赤字一直線だな」



「……まぁな」



そんな苛立ちで雰囲気が悪くなっている中で、比較的冷静な部類のドルンとインクは「この戦争は外れだったか?」と世間話を繰り広げながら、インクは周りの様子を伺う。




「……総員ッ!!探索が終わった者から次の村に向かうッ!何としても食料だけは探し出せッ!」



(……食料は略奪在りきで考えていたから残りが不安……今さらながら良くこんな行き当たりばったりな作戦で動いてるな……)



志願兵達は自分達の利益を優先して奴隷集めに目が行っているが、戦争に勝つ事を第一目標にしている為か、兵士達が十全に行動できるように食料の確保に目が行っているらしい。



だとしても、現地調達(王国の町村を襲撃)で予定を組んでいる為、このような想定外な場面でかなり焦ってはいるらしい。



(……他の志願兵達はそれほど危機感は無い…というよりも苛立ちが勝っているって感じか……)



これなら。とライアは内心でほくそ笑みながら、合図を送る。



『……お願いします』




――――ビュンッ!!



「ぐあぁっ!?」



「なッ!何事だ!?」




村で辺りを見渡していた志願兵の一人の肩に矢が放たれ、その男性の悲鳴を聞きつけた兵士が事態の把握をすべく、声を上げる。



―――ビュンッ!ビュビュンッ!!



「ぎゃぁ!?」



「あがぁ!?」



「クソッ!?…敵襲ッ!!西側より弓兵の攻撃です!!」




続けざまに幾つもの矢が飛んでくる状況に、冷静な兵士が敵の居る場所を観測し、すぐさま情報の共有を行う。



「総員ッ!頭上を警戒しながら敵弓兵へ襲撃をかけろッ!!」



「「「はッ」」」



部隊の指揮官らしき兵士の言葉でスイッチが入ったのか、兵士達は飛んできた矢を盾や剣で弾きながら弓兵の居るとされる方向へ歩を進めていく。



流石に矢を避ける訓練をしていなかった志願兵達はそれに付いて行く事は出来ていなかったが、村の家を盾にして矢を回避したり、矢で怪我をした兵士達の回収に向かうといった動きをする。



もちろんインクも矢は避けつつ、建物の陰に身を潜めながら周りの状況を把握出来る位置に移動している。


ドルンも意外に動けるタイプの人間だったらしく、インクとそれほど距離の離れていない建物に身を隠しながら、矢に打たれた兵士の回収に動いていた。




「くそッ!どこにも居ねぇ!!」



「落ち着けッ!弓兵のみだとすれば、位置がバレた瞬間に逃げ出しているはずだ!だがまだそう遠くには逃げれてはいない!念の為に辺りを隈なく捜索しろ!!」



放棄された村の件もあってか、苛立ちを吐き出すように怒鳴る兵士へ窘める様に指示を出す指揮官兵士。


そして、その指揮官兵士の言う事は合っていて、すでに弓兵部隊は下がらせていて、そこらに人は居ない。



辺りを探させても人っ子一人いないと予想は付けていたのか、捜索を開始して数分後に誰もいないと報告をもらった時は落ち着いた様子で「そうか…」と頷くだけだった。



敵を取り逃した事に兵士達は辛酸をなめる思いだったが、何も敵の後を追いかける手段が一切ない訳ではない。



見れば、足元の土の道に敵弓兵が逃げた時の足跡などが残ってはいるので、敵がどの方向に逃げたのかは調べる事が出来る。




「……この方向は……第二目標のリールトンの街とか言う所か…」



指揮官の兵士は、リールトンの街がある方に視線を向け、鋭い眼光で睨みつける。



「隊長……もし奴らがここらで我々帝国軍を待ち伏せしていたのすれば……」



「あぁ……王国の奴らは我らが攻め入る事をある程度予想していた……もしくは知っていたという可能性もある」



一兵士の言葉で、流石に隊長と呼ばれた指揮官兵士も王国が帝国の情報を独自に手に入れている可能性があると口にする。



「そんなまさか……王国の奴らがどうやって我らの情報を?」



「さぁな……仮にスパイなどが入り込んでいたとしたら……いや、我が帝国の警備網を突破して来れるとも思わんがな……」



思わず、近くで話を盗み聞きしていたインクの肩がビクッと動きかけるが、それに誰も気が付くことはなく、話は進んでいく。



「……寧ろ、敵は我々の動きを把握する為に待ち伏せを用意していた…?そちらの方があり得そうではあるな」



「では?」



「すでに王国の連中に我らの居場所はバレた可能性は存在する……ならば、その情報を無意味にする為にも攻めに動いた方がいいだろう。運が良ければ、先ほどの待ち伏せをしていた弓兵部隊から王国へ情報が渡る前に潰せる可能性もあるからな」



「「「「おぉぉぉ!!」」」」



(えぇぇ……そこでそう言う考えに行っちゃうんだ……)



スパイの可能性まであと一歩の所まで思考が動いていたのに、寸での所で帝国民特有の【根拠の無い自信】によって、見当外れな答えに行き着く。



(でも、まぁ……狙い通りリールトンの街に向かってくれそうだから、俺達はこのまま準備を進めるだけだけど)




裏でアイゼルの騎士団に指示を出していたライアは、追いかけて来なかった場合に備えて、帝国軍から1キロ先に待機してもらっていた騎士達にリールトンの街へ撤退の指示を出すのであった。












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