帝国の動き








――――王都アンファングside



帝国軍が動き出して、早2週間。


バグラス砦も王都アンファングも緊張感に包まれながらも、未だ姿が見えない帝国軍に対し、怯えることなく闘志を漲らせ、士気を高く保つ事が出来ていた。



とはいえ、帝国と真っ向と戦争を起こすなど、何百年かぶりの事ゆえに、戦争を体験した事のある人間は存在せず、不安な気持ちも確かに存在していた。



「……北側は今だ敵影は見えないか…南側の進行はどの程度かな?」



「先にヒンメルの町に来るのであれば、後2週間程掛かる距離でしょうか?ただ、周辺の放棄された町村を見て、略奪が出来ないと苛立って行動している為、もしかすれば略奪を優先して、リールトンの街に進路を変更する可能性もあるかと」



「その場合はどの程度で到着する?」



「3日程で」



「……安心は出来ぬな…」



今、王宮の会議室にて言葉を交わすのは、アーノルドとそのお付きの分身体であるライア……そして、その話される情報を聞き、頭の中であれこれと悩ませる上位貴族に国王陛下。



「インクリース殿、北側の侵攻軍に分身体とやらは忍び込ませておらぬのか?」



「流石に、北側はこの戦争の主戦場と考えられているらしく、志願兵のような寄せ集めの戦力は入り込めませんでした……今、敵軍で情報を探れるのは帝都の情報と南側に進軍を進めている志願兵部隊の2か所のみです」



あわよくば、全ての状況を知りたいという気持ちが抑えられないのか、この数週間何度も聞かれた質問をライアは怒る事無く簡潔に説明する。



今ライアの分身体達が潜入して情報を集められるのは、ヘベルベールと一緒に行動をさせている魅了担当2人が帝都の中心部や貴族連中からの情報を。


街の外側と言える平民達が住まう市街地での情報をラウル亭のライが。



そして、街以外の情報として、南に進軍中の志願兵部隊にインクがいる構図になっている。



ただ、すでに帝都の街は殆ど空っぽと言っていい状態なので、ヘベルベール達は役に立たないし、ライに関しても元々戦争の始まりを予測する為に潜入させていただけなので、特に情報が探れるという訳でもない。



一応、ヘベルベール達に付けていた分身体2人の内1人を奴隷側の情報を集める為にインクに変装させて、幽霊のメリーとは今も連絡を取ってはいる。



まぁ志願兵として戦争に行くとラビに最初に話していたのもあり、メリーに『あれ?なんでまだいるの?』的な事は聞かれたが、分身体の事は戦争が終わってからの説明の方が安心だろうと「気にしないで」とごまかしておいた。



「仮に、リールトンの街に進路を変更されるとすれば、一番最初に戦闘が開始されるのはリールトンの街か……準備はもう整っているのか?」



「アイゼル様への連絡も住んでいますし、リールトンの街に在中する騎士団、それに私の分身体とハルピュイア達がすでに戦闘準備を完了させて待機させています……それに、元々敵軍を襲撃する為に送っていた我が騎士団の精鋭達もリールトンの街の近くまで来ていますので、戦力的心配は大丈夫かと」



「……ライア殿の騎士団は、帝国軍がヒンメルの町に到着する前に襲撃する予定で動いていたのだったな」



帝国軍の動きが完全に把握出来るライアだからこそ成り立つ話ではあるが、今進軍を続ける志願兵部隊の動きを常に把握し、背後…もしくは兵達が休息の為に夜寝ている絶好のタイミングで襲撃をかけるという作戦は、些かずるいと言われても仕方がない作戦かもしれない。



その作戦は事前にアーノルドには報告していたし、アーノルド自身も「その襲撃が成功すれば、南側は心配しなくて済む」と賛成してくれていた。



「ふむ……奇襲性は失われるかもしれないが、そこまでリールトンの街が近い所にいるのであれば、いっその事リールトンの街の総戦力と協力して、真正面から敵軍を潰せばいいのではないか?」



会議に参加していたお偉い貴族の一人がそう提案すれば、他の貴族達も賛成なのか“うんうん”と頷き合う。



「ですが、折角敵の位置を把握出来ている状況を使わないのは非常にもったいない気もしますな」



「ならば、あえて敵の目をリールトンの街へ向けさせ、街に向かってくる敵軍の後ろにインクリース殿の騎士団を配置させ、前と後ろで強襲をかけるというのは?」




状況に応じて、作戦を柔軟に変更する事を厭わない。



それを国家の首脳部が行っている状況に驚いてしまう。




(普通、こういう国のお偉いさん達って頭が固い人が多いイメージだったけど、めっちゃ柔軟な考えしてる……なんだろ…帝国の人達を見た後だからかもしれないけど、王国って良い国かも)



真面目に話し合う中、帝国だけならず、王国にも失礼な考えを浮かべるライアだったが、その別の事に思考が行っているのをアーノルドに気が付かれたのか「ライア殿?」と声を掛けられ、すぐに正気に戻る。



「っと、すいません……では、アイゼル様に報告と作戦の許可を取りに向かっても?」



「最悪、リールトンの街で籠城戦になる可能性も考え、王都から物資の運ぶ準備はしておくとリールトン伯爵に伝えてくれ」



「かしこまりました!」




……帝国が動き出してから2週間…ついに盤面が動き出す時が来た。








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