動き出す帝国
――――帝国side
「我々帝国の栄光はもう目前であるッ!諸君ら屈強なる騎士、兵士諸君……勝利を皇帝陛下にッ!!」
「「「うおぉぉぉぉぉッ!!」」」
現在、帝都の大きな広場にて、戦争に向かう戦士達を鼓舞する為の進軍式が行われており、今回戦争に参加するであろう帝国兵約1万人が士気高らかに先導者の声に呼応する。
ある者はこれからの戦いに武者震いを隠さず、ある者は王国に居るであろう民達を奴隷に出来ると邪悪な笑みを浮かべている。
そんな中、ライア…の分身体であるインクはどこにいるかと言えば、進軍式の最後尾……志願兵達の集まる場所のさらに最後方にて、盛り上がる帝国民達を冷めた目で見渡していた。
『……総兵力は約1万人、騎士と思わしき位の高そうな者達が3千人程で、他の殆どが一般階級の兵士達や志願兵と言った内訳ですね』
『そうか……敵戦力がどの方向に進軍するのかはまだ詳細な情報はわからないか?』
『まだ確かな事はわからないですが、騎士階級の者達は王都を襲撃する部隊に組み込まれているらしいので、少なくとも王都アンファングには騎士3千人は向かわれると思います』
インクの脳内では、王都アンファングに居るアーノルド付きの分身体を通して、敵戦力を随時報告を上げ、バグラス砦、リールトンの街、ヒンメルの町と同時進行で情報の共有を行っていた。
『3千……それに合わせて巨人の力が王都を襲う訳か……ライア殿が居なければ、この戦いはきっと負け戦だったのだろうな……よし!ライア殿、敵軍が王都へ向け出発を開始したタイミングでドルトンら帝都潜入班を出発させる。力を貸してくれ』
『はいッ!』
アーノルドとの連絡で決まった作戦を各分身体を通して、情報を共有させると、インクは一度目を閉じ、再び雄たけびを上げる帝国兵達に視線を向ける。
「……なんだインク?しけた顔して?もっと声を上げておけよ。こういうのはノリみたいなもんだからよ」
「ドルンか……いや、少しだけ考え事をしててな。こういう場のノリというのは少し気恥ずかしくて騒ぐに騒げないんだよ」
「あっはっはっは!そりゃ珍しいシャイな性格してんな!俺ぁ柄にもなく気分は上がっちまうたちだからよ……こういう祭りは全力で楽しんじまうわ」
柄にもなくとドルンは言うが、どう見ても祭りやら騒がしい所が大好きなヤンチャなタイプに見える為「見たまんまじゃねぇか」とツッコミを入れる。
ドルンとは、志願兵に志願しに来た時からの付き合いではあるが、基本的に悪ぶっている性格で、人を見る目があるゴロツキという印象しか持っておらず、それはここ1か月程、同じ奴隷商館で働いた仲だとしてもその印象が変わる事はなかった。
「……ドルンは……この戦争で死ぬとか考えはしないのか?」
「あぁん?王国相手に死ぬつもりで行く訳ないだろ?」
「例えだよ例え……どんなに力量差があったとしても、刃物を持っている相手なんだ、自分が死ぬ可能性だってあるだろ?」
寧ろ、帝国が何故ここまで自信満々に負ける気が無いのかの方がライアには不思議でならないが、そこはあえて触れずに、そう質問を投げかける。
「あー?んー……なんでだろうな?あんま死ぬとか考えた事はねぇが……人間が死ぬ時は死ぬし、どうこう出来ないんなら色々考えても無駄じゃね?とは思うけどよ」
「そんな適当でいいのか?……ミルクが悲しむとか考えないのか?」
この1か月ちょっとで分かった事だが、ドルンとミルクは恐らくお互いに思い合っている恋人か両想いの未だ恋人に慣れていない関係性だとライアは当りをつけている。
普通の感覚で考えれば愛おしい人を残して死ぬなど、考えられないほど無念で怖い事だと思うし、その感覚がドルンにはないのか?と遠回しに語り掛けるインク。
「あ?あぁ……そりゃ…………」
「ドルン…?」
何か、ドルンの心の中に引っ掛かりの覚える所があったのか、インクの質問に返事をしようと口を開いていたドルンの動きが止まる。
明らかに何か動揺をしている様子のドルンに、やはりミルクとは恋仲なのかと確信すると同時に『なんで即答で返事を返さないんだ?』と不思議に感じる。
「なんだ?ミルクの事を大事に思ってるなら死にたくはないだの、最低限の危険は冒さないだの言わないのか?」
「………」
インクの煽りとも取れる発言にもドルンは大した反応はせず、インクは余計にどうしたんだ?と言った感情が湧いてくる。
「なんで……だろうな……なんかわかんねぇけど……死ぬとか考えられねぇんだよな……」
「は?」
「だぁぁぁ!!なんか考えんのがダリィ!それ以上聞いてくんな!頭が可笑しくなる!」
流石にドルンの様子が可笑しいと感じたインクだったが、いきなりドルンが考える事を放棄したのか頭を振るい、インクに「もう質問はすんな」と拒絶の反応を見せてくる。
「…お前、頭大丈夫か?」
「どういう意味だこら!?」
いつもはこんな頭の回転の悪い男じゃないはずだが、と普通に心配で声をかければ、皮肉の聞いた罵倒に取られたらしく、眉をひそめながらこちらをにらんだ後「だぁ!心配して声をかけて損したぜ!じゃぁな!」と隊列の前の方に去って行ってしまい、声をかける事が出来なかった。
(……あれは……絶対普通じゃなかったよな…?)
別に帝国の人間に情が湧いたという訳じゃないが、流石に1か月も同じ職場で話した仲の人間が普段と可笑しければ心配もしてしまうが、もしかすればミルクとの間に何か喧嘩でもあったのかもと考え直し、ひとまず気に留めるだけで、今は放置でいいかとライアは頭を切り替えるのであった。
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