ギャルエルフとアイリスとの歓談









帝国との開戦が近づく中、冒険者達は戦争に備え装備を整えたり、己の生まれ育った故郷を守りに街を出る者も多く存在する。




では、その他の戦闘能力を持たない一般市民達はどうしているのかと言われれば、こう答える。



「でさー?この間、武器屋の息子のエデル君いるじゃん?私告られちゃってさー」



「あらあらまぁまぁ……エデル君ってまだ7歳の子供じゃん?」



「なんでも『エルフのねぇちゃん、キレイで好き!』だって!ヤダ照れるわー」



「流石顔の作りが可笑しいエルフね…何よこの白い肌?私達への挑発と取っていいのかしら?」



(馴染んだなぁエルフ達…)




―――――平和その物であると…。








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―――――






エルフ達が移住してきてから、リールトンの街にエルフの姿がよく見られるようになり、街の住人達は亜人に対して、それほど珍しがるような視線はほとんど消え失せ、今では買い物に市場に出かければ、買い物籠片手に獣の肉を物色するエルフ達がよく現れるようになった。



「え?値引きしてくれるの?おじさんやっさしー!」



「あははは!嬢ちゃん達はキレイな子ばっかりだから店に来てくれるだけで他の客も釣られてくるからな!サービスぐらいするさ!」



「キャー!おじさんかっこいー!」



…そして、何故かエルフ達のギャル化がさらに進んでおり、ライアの中でエルフ=パリピのイメージが膨らんでいく一方である。





そんなエルフ達の将来が心配になる時もあったのだが、帝国との戦争が噂されるようになった今は街の住人と一緒に『また戦いか』と不安に思っていると思ったのだが、どうやらリールトンの街の住人はそれほど戦争の事を心配してはいないらしい。



それは何故か聞き込みをしてみると、街の人間達は声を揃えてこう発言する。



「『エルフ達が火竜を倒した【竜騎士】のインクリース子爵が何とかしてくれる』って広めてるらしくて……それを街の冒険者達も賛同するもんだから異様な期待感を向けられてまいりましたよ……」



「あら…でも民達が不安な気持ちで生活するよりはいいのではなくて?」



「それはそうなんですけど…」




街での状況を語り合うのはこの街の領主の娘であり、リネットの妹であるアイリス。



今日は、冒険者ギルドの仕事終わりに帝国の状況やら王都、バグラス砦の様子も報告がてらアイゼルの下にアハトを派遣したのだが、どうやら仕事で留守だったらしく、その場に居合わせたアイリスの相手をしているという状況だ。



ちなみに、エルフ達の状況や街での話は基本的にノイン(もう一人の分身体受付嬢)が見聞きしてくるので、その情報をアイリスに話している。



「でも、ライア様としてはあまり英雄視されるのは肩身が狭いというのは何となくわかる気もしますわ。ですが、今回の戦争でもどうせ武功をお立てになられるんですから、もうどうしようもなさそうに思いますけれど?」



「……流石に今回は褒美をもらうほどの貢献はしないと思いますよ?寧ろ、戦争の時期を早めた部分もありますから、寧ろ男爵位に落とされたり…「ありえないですわね」…ですよねー」




ライアとしても爵位を落とされるのはそれほどいい印象を周りに与えないので、ただの冗談のつもりではあるのだが、これ以上目立つような褒美は勘弁して欲しい思いは本物である。




「今だ飛行船の運送業や第二ダンジョンの開発も中途半端だし、どうせ褒美が貰えるなら暫く自由に動く為の休みが欲しいものですよ」



「それは未来の子供の為かしら?」



「もちろんです」



寧ろ子供が第一優先でなくて何が優先されるというのかと吹っ切れたように話すアハトの姿にアイリスは呆れたような笑みを溢しながら「親バカなお儀兄様で、嬉しいような…」というセリフを口に出す。



「……そういえば、お子様のお名前はもうお決まりになられたのですか?」



アハトとアイリスの会話を後ろでずっと聞いていたアイリス専属のメイドのルルが、どうしても気になった部分だったのか、なんとなしにアハトに質問を投げかける。



「……まだ……です…」



「あら、意外ですね?今のライア様であれば、妊娠が分かった時点で名前を決めようと四六時中悩み抜いて、名前を決めているモノだと思いましたが…」



「そうですわね?何か理由がありまして?」




ルルもアイリスも不思議そうに顔を傾げて疑問を浮かべるが、アハトは乾いた笑みを浮かべながら口を開く。



「四六時中……が今も続いてる…みたいな?」



「「あぁ……なるほど…」」




アハトの発言で、予想の斜め上ではあれど、自分の領地の名前ですらあれだけ決めきれなかった人が、ほんの数か月で己の愛する子供の名前を決めきれる訳もないかとアイリスとルルは妙に納得してしまった。



事実、ライアはリネットの妊娠が発覚してから、リネットと一緒に、時に仲間達と一緒に、時に一人でと悩みに悩んでいながら、すぐに名前を決めきれずにいたのだ。



「候補とかはないんですか?例えば二人の名前を合わせて―とか?」



「男の子ならライオットとか女の子ならリネイアとかは考えましたけど……他の候補も捨てきれずにずるずると……」



「あら、いい名前ではありませんか?…ちなみに他の候補とやらは幾つぐらいあるんですの?」



「ざっと全部で108程」



「自分の子は煩悩か何かなのかしら?」




自分でも考え過ぎなのはわかるが、こういう名前を決めるというイベントは個人的に大事にしなければと思っているので、どうしても簡単には考えられないのだ。



「……まぁせめて、この戦争が終わって、赤ちゃんが産まれるまでには決めておきませんとね……初めて自分の子供と出会った時に名前を呼べないのはお互い不幸ですから」



「うっ……はい…きちんと決めておきます…」



いつも暴走気味のアイリスに諭されると何とも言えない感覚に陥るなとしょんぼりとしたライアは、必ず出産前に子供の名前はきちんと決めておこうと心に誓ったのであった。








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