空での戦い方








「飛行船ですか?今は王都の外に停留させてますが」



「元々、帝国との戦争が開始された時は、王都の上空に飛行船を待機させて、敵戦力の偵察に使われる予定なんですよね?」



「そうですね。アーノルド王子にもそのように飛行船を運用するように言われてます」



飛行船の強みは、偵察や空路の選択肢が増える事にある。



敵の動きを上空からリアルタイムで把握出来れば、それだけでかなり有利だし、先日までプエリ達をバグラス砦に送り届けたように空路で人材や資材の運搬には適している。



「その飛行船って大体どれくらい高く飛べる物なんですか?」



「正確な限界高度を調べた訳じゃないですけど、あの雲よりもさらに高い場所くらいは飛べますよ」



この世界に正確に物を測る単位はないので、上空7000メートルとか言われても理解は出来ないはずなので、目に見える雲を例題に出して、それよりも高く飛べる事を説明する。



「……それほどですか……もしよろしければ、その飛行船に乗せていただき、実際に雲の上まで行って貰う事は可能でしょうか?」



「それは構いませんが、どうしてですか?」



何か飛行船でやりたい事でもあるのか、エマリアは真剣な表情で飛行船への搭乗願いを申し出る。




「実は、騎士達の中にいる遠距離攻撃主体の部隊の者がいるのですが、その者達がより活躍できる場所を探していた…という感じでして」



「あぁなるほど…飛行船から攻撃を行えるのかという事ですね?」



「はい」



聞けば、王都に在中する騎士達の殆どが剣や槍を主体とした近接戦の者が多いらしく、バグラス砦のように籠城戦を主体とした遠距離主体の騎士というのがそれほど数がいないらしい。



確かに、帝国との戦いを想定するバグラス砦とは違い、王国騎士団の主戦場は主に魔物退治や街の治安維持である。



魔物であろうと、犯罪者を取り締まる時だろうと、必要になるのは大体が近接戦な為に、王国騎士団に弓兵や魔法兵の需要は少ないという訳だ。



もちろん、今エマリアが言ったように一応遠距離攻撃主体の部隊もあるにはあるらしいが、活躍できる場は少ないらしい。



「となれば、協力するのはやぶさかでは無いですよ。元々飛行船の使い道としては兵器としての使い道も考えられていたので、きちんと上空からでも地上に向けて弓や魔法を飛ばす事は可能です」



「本当ですか?」



「はい。……ただし、問題がない訳でもありません」



「問題…と、いうと?」



ライアの言葉にごくりと息を飲むエマリア。



「まず、雲の上まで高度を上げてしまえば、まず矢も魔法も狙いがつかない事。もちろん高度を下げれば問題はないですが、その分地上からの攻撃が襲ってくる可能性もあります」



「それは……≪鷹の目≫のスキル持ちであってもですか?」



「えっと、目の問題ではなくて、どちらかというと気流の問題ですかね」



「きりゅう…?」




地上を生活しか知らないエマリア達はわからないかもしれないが、空の上というのは想像よりもかなり風が強い。



地上では、建物や地形の影響で風の勢いが弱まり、日常的にとても強い風というのは発生しないのだが、上空に関しては遮蔽物が一切ないので風の勢いが弱まる事はない。



もちろん、飛行船を飛ばす空域やある程度、高度の低い場所であれば風も落ち着いているのだが、雲の上、もしくはそれに近い場所であれば話は変わってくる。



敵の攻撃が一切届かない空域から攻撃を仕掛けようにも、距離が伸びれば伸びる分だけ矢や魔法が受ける風の影響も大きくなるので、いくら目で標的を狙った所で、実際に当たるのは遥か遠くの的外れな場所だろう。




仮に、遠距離部隊を飛行船に乗せるのであれば、地上から200~300メートルほどからの攻撃が精々だろう。


それでも矢が放たれて狙い通りに飛んで行くのかは賭けであるが。



「――って感じでしょうか?」



「……なるほど……」



ライアはその事を説明すれば、エマリアは何か考えるようなしぐさで目をつむる。



「……風魔法で矢に受ける上空の風の影響を減らす……というのはダメなんでしょうか?」



「風魔法ですか?……それは…どうなんでしょう?」



この世界の風魔法のイメージは神樹の森のエルフ達が使っていた詠唱魔法が記憶に残っているが、当然の如く、亜人種以外の人間にも風魔法が使える者は存在する。



エマリア曰く、遠距離部隊の者達の中には風属性持ちの魔法使いが結構所属しているらしいので、魔法の補助有りであれば、飛行船からの高高度狙撃も可能なのでは?という事らしい。



「それは…行けるかもしれませんね。私は風魔法は使えないのであまり詳しくはないですが、もしも風の問題がどうにか出来るのであれば上手くいくかも…」



「では…!」と期待に目を輝かせるエマリアにライアは笑顔で頷く。



「もしよろしければ、お時間がある時にでも実際に飛行船に乗っていただいて確認しましょうか」



「よろしくお願いします!では早速明後日……」



そこから、ライアの分身体を一人エマリアと一緒に行動させ、お互いの予定をすり合わせながら飛行船の軍事演習の話を詰めていく。




「………な?任せておいて良いと思えるだろ?」



「え、あ…そういえば、途中からドルトンさん会話に参加してなかった……」




途中から自然に会話からフェードアウトしていたドルトンにいきなり話しかけられたライアは、ドルトンの存在に驚きながら「任せた結果、ドルトンさんの存在感が無くなってきたのでは?」と少々失礼な事を考えるライアであった。








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