ブラコンの決意










「そう言えば最近、リンはよく実験室に出入りしているみたいだけど、何かしているの?」



「あ、それは……」



―――ガチャ




実験室で戦争の話ばかりしているのも変だなと思い、ライアがふと、リンがここ最近実験室によく出入りしている事を思い出し、それを尋ねると、リンが口を開く前に実験室の入り口の扉から誰かが入ってくる音に気を取られる。



「…あれ、ライアさんとリンの2人ですか?」



「リグ」




実験室に入って来たのは、いつも実験室の隣の部屋でクストと合成魔石の実験を繰り返す事をお願いしている≪合成術≫使いのリグだった。




「リンがいつもの時間になっても来なかったので、心配で見に来たんですけど、ライアさんと何かお話があった感じですか?」



「いつも?って事はリンの用事はリグの所だったんだね?待たせたみたいでごめんねリグ、話はさっき終わって、少し気になった事があったから俺がリンに質問してたんだ」



「ごめんねリグ…私もちょっと話す事に夢中でリグに連絡するの忘れてたよ」




リグは特に気にした様子もなく「いいよ全然!寧ろライアさんの用事の方が大事だし、合成術の話はいつでも出来るからね」と軽い様子で謝罪を受け入れる。



聞けば、ライアがリンを保護してから、自分と同じ≪合成術≫の使い手である同い年ぐらいの男の子がいるとは聞いていたらしく、暇な時にでも色々と話を聞いてみようと考えていたらしいのだが、つい最近偶然リグとリンが冒険者ギルドで出会ってからよく≪合成術≫の話をしに実験室に訪れる様になったのだとか。



片方は自分の身体を中心に合成をし続けた合成術師。



もう片方は、加工が難しいとされていた魔石を日夜合成し続け、レベルを上げた合成術師。



自分に出来る技と自分に出来ない技を語るのはもちろん、元々特殊スキルの≪合成術≫スキル持ちが少ない事もあり、意気投合は早かったらしい。




「最初は私とは違った形で≪合成術≫の正解を突き進めたリグには嫉妬もしましたけど……それ以上に≪合成術≫の難しさとかをわかってくれる仲間がいて嬉しかったんです」



「スキルがわかっても、最初なんて石とか木ぐらいしか合成出来なかったからね……」



お陰で、元々ダンジョンでのレベル上げに勤しんでいたリンが、その時間を削ってでも実験室通いをやめなかったという訳かと納得する。



「プエリちゃんが『リンちゃん、ダンジョンに潜る頻度落としてるみたいだけど、なんだか最近楽しそうなんだよね』って言ってたけど、そう言う事だったんだね……良い事じゃん!」



小さい子供が家族を救うと躍起になって、己の幸せよりも力を追い求める様になるより、仲間や大事な者を作り、楽しい生活で笑顔になってくれる方が、大人としては嬉しく思う。



(……それに…)



ライアの楽しそうで良かったと安堵したセリフを伝えた時のリンの顔が、どう見ても仲間意識という友情以外の感情が籠っていて、リグを見つめる目に若干の熱を感じる。



(初々しいねぇ……リグはまだそう言った感情は無いっぽいけど、同じスキル持ちとしてかなり気を許しているみたいだし、もしかすればもしかするかもねぇ!)



リグはリグで、リンのキメラの身体には特に忌避感を覚えている様子はないようだし、リンの事を時間になっても来ない事に心配して探しに来る辺り、女の子として扱っている様子もあるので、恋愛感情が芽生えるのも時間の問題かもしれない。




「…それでライアさん?この間からリンと話してたんですけど、リンの自分の身体に素材や魔石を取り込む技術をどうにか危険の無い技術として確立させようって話になったんですけど…」



「……それは…だいぶ難しい話だね」



話が合えば、話も進むという事なのか、ライアが考えもしなかった≪合成術≫の人体合成術をきちんとした技術に昇華したいというリグ達の言葉に驚きの感情が隠せない。



「というかリンはその話に賛成なの?自分を苦しめた方法なのに」



リグは別にいいのかも知れないが、実際の被験者であるリンがその話に納得しているのかとそちらに目を向ければ、迷いなく首を縦に振るリンが居た。



「…私にとって、自分の身体に魔物の素材を合成する術は、痛くて苦しくて……とてももう一度やりたいと思える様な行為じゃない事は確かです」



「なら…「でも」…」



苦痛に耐えるでもなく、悲しみに暮れるでもないリンの表情には確かな決意が見て取れる。




「でも……それは私にそうさせた帝国の錬金術師達が悪いのであって、≪合成術≫は悪くない……寧ろ、そこの技術をきちんと使えなかった私に対しての悔しさの方が強いです」



もしもきちんと力を使えていたら、弟を守れていたはずだから…。



口には出さなかったが、リンはそう目でこちらに訴えかける様に決意の決まった目でライアに語り掛けて来る。



「……そっか……そう言う事なら俺は反対はしないよ……でもさすがにそんな危険な事を2人でやらせる訳にはいかないよ?」



「はい!そこはライアさんやリネットさん達にお願いして、色々と助言をいただければと思って……」



“最初は自分の髪の毛や爪と言った場所に素材を合成してみようかと思ってて…”と話すリグ達に、万が一の時はライアが≪錬金術≫で身体を直してあげないとダメな奴じゃんと呆れつつ、ライアやリネットの傍に居て、マッドサイエンティストが移ったかな?と自虐に似た感想がライアの胸に浮かぶ。




「何を実験するにも、必ず俺やリネットさん……はなんでも許可を出しそうなので、モンドさんに許可を貰ってから実験する事、そしてダメと言われた事は絶対にしない事……守れる?」



「「はい」」



リンとリグの元気な返事に「やれやれ」と肩を竦めたライアは、静かにため息を吐きだすのだった。






……ちなみに後程、リンに『どうしてリグの事を好きになったの?』と遠まわしに聞いてみたのだが…『弟のリクに名前とか顔立ちも似てて話しやすかったし、リグと一緒に居るととても安心できたから』と言った、弟のリクが判定基準な内容だった為、リンはブラコンの気が強いのかも知れない。









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