呪魔法の力











「な、なので……今後は……わた、わた、わたし……メリー…が連絡係…と」



インクは小刻みに身体を震わせながら、目の前に落ちている紙に書かれた文字に目を通すと、インクの言葉に呼応するように、万年筆が機嫌が良さそうに上下する。



(……ラビのやつぅぅぅ……絶対今度会ったら文句言う……)




そう、ある程度想像はつくかも知れないが、今インクが置かれている状況は云わば心霊体験。



つい先刻前に、ラビと初めて邂逅を果たした場面で見た“虚空に向かって喋る”アレはやはり、ライア達には見えないこの世ならざる者、つまりはラビは幽霊を認識し、会話も出来るという事だったらしい。



そしてラビの『後でのお楽しみ』と言った連絡手段がまさかの幽霊配達。



インクが先程感じ取った部屋の前の廊下を誰かが歩く気配も≪索敵≫に引っかからない異常性も全て、今インクの目の前に居る?幽霊の仕業だったらしい。



お陰で、この世では怖い物など権力者からのプレッシャー以外には殆ど存在しないと思っていたライアが、小鹿のように足を震わせて、顔色を青ざめさせてしまう。



―――カッカツ…



「ひぃ…」



そして何より、そんな恐怖の対象となっている幽霊がどういう原理かは知らないが、ポルターガイスト的な力を使ってか、持参の万年筆を器用に動かし、紙に文字を描いてこちらとのコミュニケーションを取ろうとしてくるのだ。



先程も、幽霊の声的な呟きの所為でラビの手紙を落としてしまった際に、手紙をこちらに浮かせてまるで『どうぞ?』と言いたげに渡してくるし、手紙を読み終われば宿屋の備え付けに置かれていた無地の紙に『私はメリー…ラビのお友達です……今後のラビとの連絡は私、メリーが連絡係を務めさせてもらいますね』と懇切丁寧に説明された。



これだけ真っ直ぐこちらに語り掛けて来られれば、流石に悲鳴をあげて逃げたり無視したりもし辛く、何とかへっぴり腰になりながら、その場に立っている状況である。




「え、えっと……『ラビには出来るだけインクさんが驚く登場の仕方をしろと言われ、いきなり背後から声をかけさせていただきました。驚かせて申し訳ありません』……ラビィッ……」



メリー?からの伝言を見て、恐怖より僅かにラビへの怒りが勝ったインクはラビに対しての怒りを発露させる。



―――カッカッ…



「えと……『基本的に、私が手紙をお届けした後はインクさんの伝言などがあれば受け堪ります。ただ、私のこの物を持ち上げたりする力はラビからの借り物なので、手紙を持ち帰ると言った方法は取れないので、口頭でお願いします』……借り物?」



―――カッカツ…



「『今私は、部分的に霊体の一部を物質化する事によって物を持ち上げていますが、この力はラビの“呪属性”の魔力を私に付与してもらって初めて出来ている力なんです』……なるほど」




つまり、この幽霊のメリーが物などを浮かしたり、声を発声する事の出来る特別な存在なのではなく、呪属性の力によりメリーの霊体の力を底上げしているような物なのかと当りを付ける。



「『なので、付与されてから常にラビの魔力を消費し続ける状態が続くので、大体1時間くらいで元の状態に戻ってしまいます。なので、帰りにインク様の手紙を持ち帰るだけの魔力の残りが無いので、口頭での伝言でお願いします』…なるほどね……ってあれ?」



――――ひゅぅぅ……



先程まで紙の上でスラスラと動いていた万年筆がいきなり光を失っていき、煙が散るかのようにインクの目に見えなくなっていく。



「もしかして、今言ってた呪属性の魔力が切れたのかな…?万年筆自体が霊体の一部だったって感じか……一応まだこの場に居ると思って言うけど、ラビへの伝言は大丈夫、また次もよろしくって伝えておいてくれると助かるよ」





……………………………………………





「……返答が無いは無いで異様な雰囲気だな……え、もう行ったよね?まだ居る?」



そこから数十分の間、インクは居るかどうかもわからないメリーの存在に怯えつつ、幽霊って存在を認識出来たら出来たで怖いが、存在しているかわからない状態もかなり怖いのだと再認識するのであった。










―――――――――――――

―――――――――――

―――――――――








――――おまけライアside






「リ、リネットさん?起きてる?」



「んえ?どうしたのですライア?」



「ちょっと今日は抱き着いて寝てもいいですか?」



「?別にいいのですよ?珍しいのですね。寝た後に寝相で抱きしめられる事は毎晩ですけど、寝る前に抱き着いていいか聞いてくるのは……何かあったのです?」



「抱き着き癖は……すいません、もう抜けそうに無いですね……ちょっと色々あってリネットさんの温かみを感じたいというかなんというか……」



「何なのです、それは?ほら、おいでなのです」



布団の中で、こちらに両手を広げて『おいでおいで』してくれるリネットの胸元にすり寄って行き、お腹の赤ちゃんに圧をかけないように気を付けながらリネットの身体を抱きしめる。




「おぉよしよし~なのです」



「……えっと、流石に撫でられるのは恥ずかしいんですけど…」



「安心できないです?」




………………





「安心します…」



「素直で宜しいのです」




それから暫く、リネットはライアが寝付く間の数十分間、にこやかに笑みを浮かべながらライアの頭を撫でていた。




「……(子供が生まれたらこんな感じなのですかね?……顔が可愛過ぎてずっと抱きしめていたいのですよぉ)」



「ZZzz……」



いつも抱きしめられる事の多かったリネットは、その日初めて愛しい人を抱きしめて甘やかす快感を覚えたとか覚えなかったとか……。



ただ一つ言えるのは、この日を境に、数日おきにライアの事を抱きしめて寝るのがリネットのブームになったとの事だ。









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