みぃつけた
「―――ふむ?女3人に男が2人…それにエルフの女が1人……事前に聞いていた通りだね」
「これで仕事は完了か?」
「そうだね、これからもちょくちょくお願いするけど、今日はこのまま帰っていいよ。明日も来れるかい?」
「生憎と今は暇だからね、金が貰えるなら働かせてもらうよ」
奴隷商に到着したインクは、ロビーで寛いでいたミルクに奴隷達の受け渡し、金を受け取る。
金は1日で稼ぐ金額としたらそれほどなのか、銀貨が2枚。
1匹オークを狩れば倍以上の収入が入る事を考えれば、少ないとも感じるが、一般人にオークは倒せないらしいし、戦闘も無くただ奴隷達を乗せた馬車の御者をすればいいだけな事を考えれば、中々の給金なのかもしれない。
この国で奴隷商などは別に違法でもなんでもないと考えれば、盗賊の襲撃だけがリスクと考えればこの仕事をやりたがる人間は多そうだとは思うが、やはり帝国民…恐らく商品の女に手を出すアホは結構居るという事だろう。
ミルクとの話し合いも終わり、奴隷商を出て行こうとすれば、ちらりとこちらを見つめるラビの視線が目に映る。
(―――頼んだよ)
(―――任せなさいな)
ミルクや他の従業員にバレないように目配せを済ませると、インクはそのまま奴隷商館を後にする。
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――――――
1時間程前、インクとラビは荷馬車を草陰に一旦止め、奴隷達に休息という名の人払いをした後、2人でこそこそと荷馬車から見えない林の中に移動する。
『…契約内容は主に3つ。私はインクの情報を誰にも漏らさない事、インクは私の情報を私が許可しない相手に漏らさない事、そしてお互いの願いを叶える為に相互協力関係を築く事。』
『俺はそれでいい……だが、ラビの“許可しない相手に漏らさない”というのはどういう事だ?』
『私の情報を話さなきゃ流浪の民の保護を約束してもらえない場合があった場合には話してもいいように契約しておかないと、後々面倒になるからね』
『なるほどね』
契約内容を確認したインク達は早速契約に移るべく、奴隷達の目に入らないように気を付けながら作業を開始していく。
契約自体はそれ程畏まってするものではないらしく、ラビは両手をインクの手に添え、魔力を巡らせると、僅かばかりの紫色の光を放った後に、インクの右手の甲に痣の様な紋様が浮かび上がる。
よく見れば、ラビの額にも同じ紋様が浮かび上がっており、綺麗な顔立ちも相まって、異様な魅力を醸し出している。
『……って、これだと他の人間に簡単に何かあったとバレるだろ!?』
『大丈夫、この紋様は契約した本人にしか認識できないから』
ラビはそう言うなり、身体のあちこちを指差し『こっちとこっち、此処にも紋様はあるが、君には見えないだろ?』と話す。
恐らく、今ラビが指差した所には、他の人と契約した紋様が浮かんでいるらしく、指を指した数をそのまま考えるなら、今のラビはインクと交わした契約を入れて5つの契約を結んでいる事になる。
本人に嫌だと感じる悪感情は一切見えないので、一族の決まりを守る為の契約ばかりなのだろうとひとまず気にしない事にした。
『これでお互いに帝国の奴らに情報を流される心配は無くなった訳だ……ただ、今更だが情報のやり取りはどうするつもりなんだ?俺もラビにスパイの事を話される心配ばかりで気が回らなかったが、俺に好き勝手に奴隷達の所に行くだけの地位は無いぞ?』
『そこは気にしなくても、こちらがどうにかするさ。ただ少しだけ紙と書く物を用意してくれないか?それを使って君と連絡を取るよ』
『……文通…?どうやって……』
『まぁまぁそこは後でのお楽しみだよ!さぁあまり悠長にしていれば、他の奴隷達に怪しまれてしまうからさっさと行こう』
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―――――――
――――――
そんな会話をして、奴隷商に送り届けたのがつい先ほど。
今はインク用に新たに住まう事を想定して用意した宿屋の一室に篭り、ラビからの連絡を待っていた。
「って言っても、どうやって手紙を…?というか送り先のこの宿屋の場所すら教えてないんだけど、そこはどうなんだ…?もしかして聞き忘れ?」
仮に聞き忘れだったとしたら、今頃ラビは『あ”あ”あ”あ”ぁ!?』と崩れ去っているかもしれないが、その場合は明日以降にどうにかラビとの接触をして、宿屋の場所を伝えに行くしかない。
妙に自信満々の様子に色々と押されてしまったが、失敗したとため息を吐くインク。
「どうやって奴隷達の居る場所に潜り込むか……いや、ミルクが言っていたし、奴隷が欲しくなった!とでも言えば案外あっさりと行けるか?……ん?」
うぅ~んと頭を悩ませていると、コツ……コツ……とインクの泊っている部屋の前の廊下を誰かが歩き寄ってくる気配が感じ取れる。
(≪索敵≫には反応が無い……でも足音らしき物は確実にこっちに向かって来てる…)
自分のスキルの情報と己の感じる違和感に疑問を感じながら、目を扉の方に向けると、何やら白い手紙?の様な物が部屋のど真ん中に落ちている事に気が付く。
「……ラビか?」
インクはすぐさま手紙を拾い上げ、折りたたまれている紙を開き中身に目を通す。
『やぁインク、私は今、薄暗くじめじめとした牢屋に閉じ込められ、奴隷の立場を解らせる為だと鞭打ちの刑を受けている!いやぁ中々の御手前に私は涎が止まらないよ!』
「まさかの実況風!?余裕の表れか…?」
先程の自分の仲間の為にキリっとした顔をしていたラビはもう終了しているのかと残念な気持ちになるライア。
それと同時に、やはりこの国の人間は奴隷達への扱いが最低なのだと再認識する。
(……今日来たばかりの人間に躾と称して、鞭打ちか……嫌な気分だ…)
『まぁぶっちゃけ、奴隷の立場で『私の未来のご主人様は何処だぁ!!』と叫んだのが悪かった所為での鞭打ちだったから、私以外の奴隷達は普通に牢屋の中に押し込まれただけだったが』
「お前だけかいッ!」
ラビの所為で、要らぬ心労が出来たとイラつき混じりに手紙を握って皺を作ってしまう。
『てなわけで、今日の所はこの奴隷商館から出される事は無かったとだけ伝えておくよ!……ちなみに手紙が届いた時、何やら変な気配を感じなかったかな?』
「…?」
『その気配は私の友達のメリーちゃんと言う者だ。これから暫くはこの手紙の受け渡しはメリーちゃんが行ってくれるから、何か私に伝えたい事があればメリーちゃんに伝えてくれ』
インクは、力いっぱい握った事で皺だらけになった手紙を読み続けていく内に、ラビと一番最初に出会った時の事を思い出していた。
『お前の思考力は
誰も居ないはずの虚空へ話しかけていた時に発していた『死んだ時』というセリフ。
そして、先程感じた≪索敵≫に察知する事の出来ない妙な気配。
インクは手紙を地面に落としながら、妙に肩が重い方に顔を回す。
“……えへへ……見つかっちゃった……”
ライアはこの時、声にならない叫びをあげたのは仕方が無い事だった。
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