契約魔術








【流浪の民】……ラビの話を聞く限り、様々な亜人種…エルフやドワーフ、それに人間に迫害された人間や亜人種と人間のハーフ達が人間達から身を守る為に身を寄せ合って出来た一族らしい。



ライア自身は見た事は無いが、ドワーフやセイレーンのハーフもいるらしく、人種は様々らしい。



「……つまり、人間達から隠れ住んでいたは良いけど、種族ごとの生活基盤に余裕が無いから色々と問題ばかりだと?」



「あぁ……帝国から身を守るのは隠れればいいが、流石に地中や活火山の近くが住処のドワーフ、森や木々の多い山を住処のエルフ、海や水場が住処のセイレーン、それらのどこにも住処を持たない人間……それだけの種族が集まれば、全員が満足に生活するのは困難……定期的に色々な住処を転々としているが、自分達が本来住むはずの環境以外だと身体を壊す者も多くてね」




最初は亜人を目の敵にしている人間達から身を守って欲しいという意味なのかと思っていたが、本質は人間達の目を気にせずに自分達が安全に暮らせる住処が欲しいという事らしい。



「それじゃ、その流浪の民を探して欲しいって言うのは?」



「それは私が奴隷狩りにあった事で、今の住処を放棄して新たな住処に移り住んでいるはずなのでな……今の私に一族の場所を知り得る手段がないからだ」



「………そうか」




おちゃらけていたラビがこれほど真剣に話すのだから、その流浪の民とやらの仲間の事はとても大事に思っているのだろうと予想は出来る。



だが、それほどまでに仲間を思っているのであれば尚の事、今さっき知り合ったばかり…ましてや、今のインクの姿は奴隷達を運ぶ密売人とも言える立場。



如何にインクが別の国の者だとわかった所で、そう易々と信用するのは何故かと疑問が出る。



「どうしてそれを俺に話したんだ?確かに奴隷解放は目指しているが、根本的に今の話しが全部ウソだった場合もあるし、何より俺が亜人達を国に売り渡すとか考えなかったのか?」



「アハハハ!今の話しでウソを吐けるなら、先程の長い沈黙などしないだろう?それに、君が亜人種に差別的な思想があったのなら私の姿を見た時にもっと蔑んだ視線を向けるはずだ……寧ろ、私の姿を見た時の君の目は『よく見慣れているかの様な』驚き1つしない平坦な目だった」



ラビに返される返答は正しくその通りと言える物で、インクが初めてラビの姿を見た時は、姿うんぬんよりも虚空に話しかける異様な雰囲気の方に意識が行き、プエリやパテル達で見慣れている長い耳には一切視線が動かなかった。




「後は勘と……その他色々の要因で、君が信用に足ると勝手に決めつけただけさ……不満かい?」



「勘て……まぁどの道今の話を信じようと信じまいと、俺が取れる手段は一つだけだ」




このエルフの女性を口封じで殺す事がライアに出来ない以上、取れる道は味方に引き込む事だけ。




「で…?協力って何をするんだ?」



「何、簡単な事さ。私がこのまま奴隷商に売られつつ、奴隷達の居る場所やそこで得られた情報をそっちに流す……それだけだよ」



ラビは特にひねりも無く、協力とは言いつつ、やれるのは情報の受け渡し程度だと肩を竦める。



「……それは…困る」



「なぜ?」



「もし、ラビが俺の情報を帝国に話せば、俺は奴隷の情報を今後得る事が出来なくなる……もちろん流浪の民の事を話したラビがそう簡単に情報を話すとは思ってないけど、尋問やら自白剤の様なものでも使われたら関係ないからな…」




尋問程度であれば、このラビという女は『喜んでッ!!』と受け入れてしまう可能性もあるにはあるが、帝国に自白剤の様な物が無いと言い切れるわけもないので、出来るだけライアのスパイが露見する可能性は低くしておきたい。




「?だから、それを考えたうえで【契約】を交わそうと言ったじゃないか?契約魔術を交わせば、どれだけ拷問を受けても、情報の漏出はありえないからね」



「契約魔術…?」




インクは『それはなんだ?』と言いたげにラビの事を見つめると、こちらが契約魔術とやらの存在を知らないと理解したのか、簡単に説明をしてくれる。




「すまんすまん…一族では結構当たり前の魔術だったからな……【契約魔術】とは私達【流浪の民】の族長……つまりは私の家系の者が使える特殊属性…【呪属性】を用いた魔法の事だ」



「呪属性……そんな属性が…」




特殊属性は千差万別、魔物の大半が特殊属性持ちだと判ってはいるが、そんな属性まであるのかと感心する。



それに、ラビは“私の家系の者が使える”と言った事を考えれば、ラビの家族全員の属性が【呪属性】持ちで、全員が【契約魔術】を使えるのだと考察する。




「この契約魔術で、お互いに縛った内容は絶対順守され、秘密厳守の縛りがされた場合は自分が殺されようと絶対に情報を漏らす事はない。もちろん、契約の破棄を行うまではどんな目に合おうとね」



「契約の破棄も出来るのか?」



「もちろん。じゃなきゃ変な契約をした際に、取り返しのつかない事になっちゃうからね」



【呪】と付くのに、そこらへんはほんのり優しさがあるのは不思議に感じるライアだったが、変に取り扱いが難しいよりは断然いいと思考を切り替える。




「それで?私の【契約】は受けてくれるのかな?」



「……わかった。その手に乗ろう」









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