変態エルフさん







「―――お?なんだ…ついに長々とした放置プレイは終わりか?見ない顔もいるようだが」



「………」



「おっほぉ!ここで無視は中々の手練れですなぁ…」



インク達に気が付いたエルフの女は、奴隷として捕まっているというのにそれほど悲嘆している様子は見えなく、寧ろ自分を売り払おうとしている(ように見える)インク達を恨むどころか、待ちわびたとでも言いたげな顔をこちらに向けて来る。



しかし、そんな反応もいつもの事なのか、案内の男性は黙々とエルフの女を連れ出す為に、作業に没頭し、エルフの女の言葉に一切のレスポンスを返さない。



「……ふぅ……そちらの初めましてのお兄さんがもしかして私のご主人様候補とやらかい?見た感じ、奴隷なんていう悪しき文化を良しとするような下種には見えないが……もしかして、帝国ではこんな優しそうなお兄さんでも奴隷を物として使えるほどの悪逆非道なのかい!?…なんて素晴らしい……」



「おい、口を慎め亜人種……貴様の様な劣等種は人間に扱われてこそ……ん?素晴らしい?」



流石に祖国の悪口を言われ、黙っていられなくなった男は、イラつきを隠そうともせずにセリフを吐くが、エルフの女の最後の言葉で言葉に詰まる。




「素晴らしいじゃないかッ!つまりは国民全員が私の事を甚振ってくれるのだろう!?くぅぅッ!!帝国とはなんといい所なんだ!」



「やめろッ!?まるで帝国がお前みたいな変態の為に存在している変態国家みたいに聞こえるわッ!!」



(……変態って、何処にでもいるんだなぁ……)



一辺たりとも絶望していないエルフ女のセリフについ、案内男も反論しているが、こんなやり取りも初めてでは無いのだろう。



男は深いため息を漏らすと同時に、牢屋に繋いであったエルフ女の鎖を取り外すと、リードのように牢屋の外まで引っ張って来て、鎖の先をインクに渡してくる。



「……俺は他の奴らを連れて来る……あんたはこのド変態を連れて建物の外に出といてくれ…」



「あ、あぁ……」



疲れた顔をして渡された鎖を手に持ち、心の中で『この女と2人きりにされるのはちょっとやだなぁ…』とちらりと考えつつ、建物の外に向かう。



「ぐっ……ふふふ…中々いいリード捌きじゃないか」



「………」



度々、両手と両足(足は歩行がギリギリ出来る程度)を縛られている為に、何度もエルフの女はコケそうになり、自然と奴隷の首輪に繋がる鎖が引っ張られ、エルフ女は嬉しそうな声をあげる。



「うむ……私としては、もう少し乱暴でこちらの限界を超えた責め苦をしてくれる屑の中の屑みたいなご主人様が好みだが……君は少々優しすぎるな?」



「そんな好みの人初めて……多分初めて見たよ」



「何故言い直した?」



「気にしないでくれ……」




もしかすれば、ベルベットもこの女と同じ趣向なのでは?と考えたが、もし仮にベルベットがこの女と同じ趣向なのであれば、逆説的にライアは屑中の屑という結論に至る可能性が脳内に浮かんだ瞬間に、その考えを振り払うように頭も一緒に大きく振る。



「そんな事より、あんたはどうして奴隷として捕まったんだ?ここら辺じゃエルフなんて神樹の森ぐらいにしかいないだろうし、神樹の森に引きこもっていれば捕まる事は無かっただろう?」



「なんだ?心配してくれるのか?存外、悪逆非道の帝国民の中にも心優しき人間もいたという事か?」



「………」



ハッキリとここで王国の出だと言えれば楽だが、そんな事は絶対に出来ないので、誤魔化し含めて何も口を開くことなく沈黙で返事を返す。



「結論から話すなら、私は帝国の地……ここから馬で10日程の森の中で人攫いに捕まったのだ。仲間とはぐれ、帰る当ても無く森を彷徨っていた所を運良く」



「運がいいと言えるのか…?」



「そして、君は神樹の森と言っていたが、私は神樹の森出身のエルフでは無いよ。先祖は一緒だったかもしれないが……。私は大昔に神樹の森を飛び出し、世界の広さを確かめようと冒険家になったエルフの末裔で【流浪の民】と呼ばれる一族だ」




「流浪の民……それって…」




「―――待たせたな…少しばかり奴隷の男が暴れようとしたから躾をしていて遅くなった」




エルフの女に流浪の民について、詳細な話を聞こうと思ったが、建物の中から奴隷の首輪を装着させた男女5人……内1人の男は暴力を振われたのか、顔に殴られた痕があり、他の者達も怯えた様子で外に出て来る。



「一応この男の奴隷2人を万が一盗賊にでも襲われた時用の護衛として使わせるつもりだったんだが、1人はまだ反抗心が残ってるようだから1人だけを護衛として使ってくれ。志願兵希望のあんたも最低限戦えるはずだからこの仕事に選ばれてるんだし、万が一の際は頑張れよ」



「あぁ……」



ちなみに、この廃村までの道のりは、かなりボロボロの荷馬車一つを馬一頭で引いてきているので、奴隷達の搬送は問題は無い。



その際ミルクに『ボロボロと言っても、馬も付いているし、すぐに壊れるような物でもない…奴隷と一緒にネコババされる可能性は考えないのか?』と聞いたが『そんな性根の腐ってる奴をドルンが間違って連れてきたことはないね。…まぁ万が一そんな事が起きれば、帝都で生活していけなくするくらいの力はあるからどうにでもなるよ』とケラケラと笑いながらそう話していた。



ドルンの目利きに余程の自信があるようだったが、それならなぜインクが金儲け目的じゃなかったと気が付けなかったのだろうとすごく不思議に思ってしまう。




まぁ、どの道ライアは情報を手に入れるのが目的なので、ネコババする気も何も無いが。









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