帝国での暗躍
【ラウル亭】での仕事を終えたライは、早速情報の詳細……志願兵の募集に関しての裏を取るべく、街を歩く事にした。
『……ったるぜ!……よ王国!』
『…………奴隷……だねぇ』
『志願兵には……が必要……』
街を歩けば、どうやら大体の住民達が戦争についての事を噂しているようで、街中を歩いていれば10分に1度は必ずその話題がライの耳に入ってくる。
(……情報の発信は新聞や人伝……それに大通りに張り出されているビラ……その全てに志願兵に関しての情報が書かれてる)
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1つ、志願兵は誇り高き帝国民のみが志願する事が可能。
1つ、王国で略奪した物は全て国に提出する代わりに、捕えた王国民を個人用の奴隷として扱う事を許す。
1つ、給金に関しては、個人の力量を測った後に配属先を決め、そこから給金の金額が決まる。
※なお、志願兵の募集は2か月後の今日までを期限とするので、志願者は帝都の中央軍司令部に申し込みするように。
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新聞にもビラにも、書かれている事は同じで【ラウル亭】で見聞きした情報とそれ程違いはない。
若干、ビラの所々に感じ取れる帝国貴族の高慢さが見え隠れしているが、そこは別にどうでもいい。
ただこのビラを見る限り、一つだけライアが知らなかった情報があった。
「…2か月後……志願兵集めに2か月の時間を取るのなら、その2か月は帝国は動き出さない……寧ろ志願兵や帝国軍の正規兵達の装備品やその他の準備を考えれば、最低でも3か月は攻めて来なさそうなんだよな……」
もしもライアの予想通り、3か月後以降に帝国が進軍を開始するとなれば、帝国と事を構えるのは実質4,5か月後…。
帝国と王国との間には大きな山岳地帯と人の手の入っていない未開拓地域もある為、王都アンファングに着くだけでも1……いや、2か月以上は掛かる。
リールトンの街(南側)にも向かって進軍してくるのであれば、進路は違えど同じぐらい離れたこちら側に来るとなれば、開戦は半年以上先になってしまう可能性がある。
……だとすれば、少しだけライアにとってほんの少し都合の悪い事になる。
(……半年後に開戦……戦争の規模が小さく、簡単に終戦することが出来たとしても、後処理や帝国への賠償問題やら奴隷の開放だとかやらで単純に8~9か月……)
実際には奴隷問題やらはライアが担当しなければいけない訳では無いし、分身体をふんだんに使えばもっと早くに事態を収める事も不可能ではないのだが、問題はそこではない。
「既にリネットさんは妊娠1ヵ月ちょっと……今から9か月やら10か月も経ったら、私の子が生まれて来ちゃうッ!!何としてでもそこまでには戦争を終わらせておきたい!」
声は抑えていても、己の未来の子供への愛で、無茶苦茶な事を小声で叫ぶ。
恐らく前世の友人などが今のライアの発言を聞けば『お前戦争ば舐めすぎてね?』と言われる事間違いないだろう。
だが、ライアはもう自分の理想を押し付ける覚悟は決めている。
無血……は無理かもしれないが、自分の見える範囲の人間は殺さずに制圧しきって見せ、決して血にまみれた両手で、愛しの我が子を触るモノかと、グッとガッツポーズをして気合を入れる。
「よし!まずは一旦、その中央軍司令部とやらに話を聞きに行こうか!」
ライという分身体の本分は、目立たず情報を集め、戦争の開始を測る為なので、あまり重要施設などに向かうのは悪手なのだが、今の少し気合が空回り気味のライアはその事に気が付かない。
「女も志願出来るなら、志願兵として軍内部に入り込めそうだし、そうなればもっと戦争を有利に進められるよね!」
いや、寧ろ子供の事が頭の中で溢れているせいで、アーノルドとの【バレない事第一】という話を完全に忘れかけているとも言えるかもしれない。
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「……はぁぁぁぁ……俺、めちゃくちゃ冷静じゃなかったなぁ……」
大通りを歩いていた時から約1時間…。
ライは予定通り中央軍司令部の建物がある場所にやって来たのだが、とある問題に直面した事により、ライアは先程の気合空回り状態から抜け出しており、ほんの少し自分のした事に対して、後悔するかの様に顔色を青くしている。
「絶対目立った……どう考えても一般市民の……しかも冒険者でもないただのウェイトレスの女が志願兵として名乗ったら違和感しかないよね…」
そう、ライは中央軍司令部に到着するなり、急増で作られたであろう志願兵の受付所に訪れたのだが……受付をしている兵士も志願者達も周りにいる人間全てが
そんな男性しか普通集まらないであろう場所に、一部の者達の間では有名なライ(ラウル亭に来る騎士達に)がいきなり訪れれば、注目の的。
『あの、志願兵の件で……『ラ、ライちゃん!?どうしてこんなトコに……?』…あ、いつも店に来てる…』
1人がライの事に気が付けば、あれよあれよという間にライは囲まれ、逃げられない状況に追いやられる。
志願兵の話を聞けば、基本的に戦える力のある男性を募集しているから、女性は基本的に断っている。
ただどうしても参加したいというなら、比較的安全な配置についてもらって、少し色んな雑事(この話をしていた上官っぽいおじさん兵士の目はイヤらしかったので、恐らく碌な仕事ではない)をする事も可能と言われたが、流石にそこまで言われれば、ライアの暴走気味の思考は落ち着き、急いで中央軍司令部の建物から逃げ出したという訳である。
「うぅ~ん……冷静になったは良いモノの、このまま手にこまねいているっていうのもアレだし……」
ライは顎に指をあて目を瞑りながら、どう動くべきか色々と思考を巡らせる。
「………まぁ簡単に考えれば、女がダメなら男になればいいだけだけど……」
目を静かに開いたライの脳裏には、今へベルベールの屋敷で上層部の情報をかき集めている別の分身体が浮かんでいるのだった。
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