ラウル亭の日常









―――――帝国(ライ)side




「おい、聞いたか?戦争の話」



「ついに王国に攻め入るってんで、志願兵を集めてるって話だろ?」



「もちろん参加……するだろ?」



「当たり前だろ?戦争の間に捕らえた人間は奴隷にできて金になるし、自分専用の奴隷にしてもいいとなればかなりの数の志願兵が集まるだろ」



「くぅぅ……お偉いさん方の大盤振る舞いには感謝だが、競争率が高そうでまともに奴隷が手に入るか微妙だぜ」




戦争、奴隷、略奪……つい先日から帝国上層部からの御触れで、戦争への志願兵の募集が開始された影響か、ライの仕事場兼情報収集所である【ラウル亭】ではそれらの話題で埋め尽くされていた。



「やぁね男って……どうせ女の奴隷を捕まえようって躍起になってる……あぁやだやだ」



「これだから男は……せめて労働力になる男の奴隷を捕まえなさいよ」



「贅沢を言うなら見目の良いイケメンがいいわね!不細工な奴隷だとこっちの気力が削がれるもの」



「「「わかる~!」」」




客達の男の性欲まみれの会話を非難しておきながら、自分達も異性の奴隷に対して妄想を膨らませ、自分勝手な言葉を紡ぐ同僚のウェイトレス達。



「ライちゃんもそう思うでしょ?奴隷にするならやっぱイケメンの男よね?」



「……あはは……私はそういうのはあんまり……」



「…そう言えばライちゃんてば、奴隷の子供にご飯とかあげたりしてるんだっけ?」



「あぁなんか私もそれ聞いたことあるー!奴隷の子供達と一緒に遊んだりしてたって前に聞いた!」



―――ドキッ…


(……もしかして結構知られてる…?まずいな…)




今まで、週に1,2度ぐらいのペースで奴隷の子供達の所に通っていたが、流石に数年も通い続けていれば目撃情報が結構あったらしく、話の流れで同僚達がそう詰め寄ってくる。



この帝国では、奴隷とは親しくする者などまず見かけず、仮にそんな酔狂な者が居たとすれば【奴隷愛好家の変態】や【奴隷に優しく接した後に突き放し、絶望させるドSの鬼畜野郎】と不審な目で見られる事間違いなし。



例外……と言えるかわからないが、女奴隷に恋愛感情を持ったりする男などが居たりするらしいが、基本的に奴隷=人権無しと考えられている為、周りからは反対されるし、最悪『奴隷と恋愛ごっこをするなど、同じ奴隷身分の者しかありえない!』と奴隷落ちさせられる事もあるらしい。(ちなみに、ライが帝国に潜入を開始してからの数年間は奴隷に恋をするなどという話は聞いた事は無いので、だいぶ珍しい事っぽいが)




それ程奴隷達と慣れ合うというのはこの国ではあり得ない事。



もし、奴隷達に優しくしているという事がバレた事により、王国からのスパイなのでは?と思われてしまえば、折角の潜入が台無しになってしまう。



少しだけ自分の正体がバレる可能性を感じたライはどうにか言い訳を考える為に思考を回す。




「え、えっと……あの子達は…「わかった!」ッ!?」



ライの言い分を言い切る前に、同僚の若い女性がライの言葉を遮りながら声をあげる。



「ライちゃんって……」



「……ッ……」



バレた…?いや、まだ確定の証拠は無いんだし、仮に正体を見破られても知らんぷりを突き通せば問題ないはず!とライはこの場をどうにかやり過ごす為の作戦を瞬時に導き出す。



「私は何も知らな…「ライちゃんって子供……ショタっ子趣味!?」あ、はいショタっ子大好きです」



全くの見当違いの解答に、安堵すると同時に『この話を利用しない手はない!』とすぐに話に乗っかって肯定する。



(…恥などかき捨て、少年趣味という変態のレッテルを張られようが、王国のスパイとしてバレる方が俺としては問題だらけ……どうせ【ショタ趣味】じゃないと言えば『じゃぁなに?』と追及の手は落ちない……ならば相手が勝手に推理してその答えが合っているのだと思わせた方が誤魔化しは聞きやすいッ!!不名誉なレッテルを張られる可能性はあるけどもッ!!)



人とは、自分の考えが正しいと思いたい生き物である。



それが、普通では考えにくい常識より非常識な物事程、自分の考えに正当性を持ちたいモノだ。



『昨日はパーでじゃんけんに勝った……なら今日は俺の流れ的に、グーで勝てる!』そんな自分1人のジンクス的な物が一度成功してしまえば『当たった……やっぱり俺の流れはパーの次はグーで勝てる!』とそんなただのこじ付けが、自分の正当になってしまう。



故に。



「やっぱりぃぃ!!!絶対そうだと思ったんだよねぇ!ライちゃんってば、お店に来るイケメンの騎士さんにも見向きもしないし、何かあると思ってたもん!」



「なるほどねぇ……だとしたらライちゃんの事を狙ってるオヤジ共は可哀想だね……こんな可愛い清楚系な女の子が子供趣味だなんて」



「こ、子供……ライちゃんって進んでるね…」




恋愛話や人の秘密などに敏感な同僚達はまるで水を得た魚のように興奮しながら、ライが【ショタ趣味】だという事を疑いもしない。



計画通りは計画通りなのだが、何故だか心は釈然としないライは、愛想笑いを浮かべて仕事を再開する為にホールの方に足を向かわせるのであった。











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