コスプレに近い何か








結局、【魔女】の方の実力を確かめようとしても、元々ウォーターブレイザーで一撃のワイバーンでは比較対象にはならないと結論付けたライアは、ある程度ワイバーンの魔石と素材をお土産にして、ダンジョン上層へと帰って行く。



「でりゃー!」



「そっちにエコーテ行ってるからね!」



「わかってるッ!!」



5層から4層に上がれば、すぐにエコーテの群れと戦闘を繰り広げる冒険者達の姿が目に映る。




(………4層は結構人が溢れて来てるけど、5層のワイバーンを狩りに来る冒険者はまだ少ないなぁ)



あまり話題に出してはいないが、実はこのヒンメルの町の人口は今でも少しずつ増加をし続けている。



それに伴い、冒険者の数も少しづつ増えて行っているので、ダンジョンの1~4層は大分満員気味な程人が溢れている状態なのだ。



なんだったら、人が増えるにつれて押し出されるように実力の高い者……冒険者で言えばこのヒンメルの町で古参とも言えるテルナートのパーティーや非番の騎士達が数人でパーティーを組んで5層に挑み始める程、4層以下は人が溢れて来ている。



もちろん5層に挑んで、ワイバーンを狩れる者は殆どいないが、騎士達やテルナート達は合同のパーティーを組む事によって、1ヵ月に一回のペースでワイバーン討伐を成功させているようだ。



(普通であれば、ワイバーンを狩れるだけで英雄視されるって言うんだから、テルナートさん達はこの町の英雄…?でもプエリちゃんとか単独で討伐出来るから何とも言えない気持ち…)



テルナート達が初めてワイバーンを狩った時は2日間ずっとどんちゃん騒ぎだったらしいが、プエリの存在を知ってる騎士達は達成感はある物の、それほど浮かれている感じは無かったようだが。





ともあれ、このダンジョンには今人が溢れかえっている。



それだけ人が多ければ、見知っている人も多くいるという訳で。




「あ、ライアねぇちゃん!」



「わっ……プエリちゃんとリン?今日は2人でダンジョン攻略?」



「はい、ライア様……プエリちゃんと一緒に訓練をしに」



洞窟の先から歩いて来たのはよく見知った小さい子供2人。



≪武王≫と相性のいい年季の入った片手剣を腰に携えたプエリ(8歳)と服で鱗や腰の蛇の尻尾が隠され、比較的に頭上の狼耳が目立つ獣人の様な姿のリン(13歳)



こんな魔物と戦闘がいつ始まっても可笑しくないダンジョンには不釣り合いなちっちゃい子コンビは恐らくこのヒンメルの町で5本の指に入る程の強者であり、ダンジョンでワイバーンを単独討伐出来る人材達でもある。



「……2人だったら怪我もしないとは思うけど、あんまり無茶はしないようにね?ちゃんと傷薬も持った?」



「大丈夫!」



「はい、ライア様から頂いた傷薬はきちんと持ってきてます」



恐らくこれからライアの出て来た第5層に向かうのは分かっていたので、実力的にあまり心配は無かったがつい老婆心でそう声をかける。




「そう言えば、ライアねぇちゃんはもう帰るの?」



「うん、ちょっと調べたい事があったんだけど、ワイバーンだけじゃ物足りなくて」



「物足りない……流石ライア様です……」



リンの尊敬の眼差しに「あ」と失敗した気持ちになる。


発言してから気が付いたが、これではまるで自分の力を誇示しているようで少しだけ恥ずかしくなり、この話は終わり!と視線を横に向ける。




「ん?」



『………』




ふと、視線を横にずらした拍子に、先程戦闘を行っていた冒険者パーティが遠巻きにこちらを見て何かを話しているのに気が付いた。




『……本物……耳……かな?』



『……な………尻尾も……って聞いたぜ?』




ライアの耳には殆ど聞こえなかったが、断片的に聞こえる言葉からある程度の予測は出来る。



“あれ、本物の…耳?あの子は何て亜人なのかな?”



“さぁな?聞いた話だと尻尾もあるらしいし、力も結構強いって聞いたぜ?”



恐らくこんな感じの話をしているのだろう。



この町にはエルフ、ハルピュイアと亜人が生活の中で普通に見られるのもあって亜人に対しての悪感情の様な物は殆どありはしない。



だが、そうは言っても自分の知らない亜人が居れば『どんな亜人なんだろう?』『あの身体どうなっているんだろう?』と注目してしまうのは人間の性なのだろう。



「……ん…」



「大丈夫か?リン」



「あ、はい……悪口では無いですし、この町に来てからは好意的な視線が殆どですから……ただ、ちょっと恥ずかしくて……うぅ」



リンは悪意の眼では無い分、余計に自分が見られていると意識してしまい、恥ずかし気に狼耳をぺたんと垂れさせる。



「皆も悪気が無いのは分かってるんだけど……流石にこのままだとリンが可哀想か…」



「どうにかなるのライアねぇちゃん?」



リンと同様、亜人としての注目される経験をした事のあるプエリが、リンの問題をどうにかできるのかと期待の篭った目でライアの目を見つめて来る。



「どうにかって言われてもねぇ……リンの見た目を変えるなんて出来ないし、他の人の注目を他に向けさせればある程度はリンも大丈夫になると思うけど……あ」








――――――――――――

―――――――――

―――――――







そんな事が数日前に起こり、リンの為にある計画を立てたのがこの“オーガ”と“ウィッチ”の存在である。




まぁ簡単な話、リンへの見た目が住民達の目に止まっている訳なのだから、別のを増やしてあげれば、リンへの視線も少なくなるだろうという考えで、あえて変える必要のない【鬼人】と【魔女】の見た目を奇抜に変えてみたという訳である。



(なんか見られる視線の中に下心みたいなのが結構あるけど、そっちは今更だしね)



伊達に数千人、数万人の人達の前で【歌って踊れる王国随一のアイドル】ツェーンの中の人はやっていない。



今更多数の視線を向けられる事にライアは文句は無いのだ。




「よっしゃ!オーガちゃん達のおかげで、でけぇ大木や大岩は片付いた!俺達もちゃんと仕事をするぞぉ!」



「「「「おぉぉぉ!!」」」」




土木作業員達は男性体のオーガもいる中、男を見せようと張り切りながら仕事を再開し始める。




(男って……)




自分も男である事を忘れつつ、世の男性の単純的思考にため息を漏らすライアだった。








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